-三十日目・5
煌々と明かりがついてはいるが、研究室には真夜中の雰囲気がおどろおどろしく満ちている。
まるで満座の観客を前にしているように、白衣を着た一路が演説を始めた。
「さあ、ご覧ください。今から、この特殊綿に、慈良の尿を注ぎます」
さっきの布団綿が、ラップを敷いたざるの上に載っている。
一路は、そこにライトを当ててよく見えるように調節した。
綿の上に、一路はフラスコを傾けた。
むわっとにおいが漂う。自分のものとはいえ、不快だ。
綿はちょっと黄色っぽく湿っていく。
「きったねーなー」
思わずぼそっとつぶやいた慈良に、一路はにこやかにほほえみかけた。
この笑みはよく知っている。
最適解を見つけた時の、得意げな笑み。
「五分間、お待ちください」
一路はタイマーをセットした。
即席麺か? と突っこみたいが、やめておく。
一路があんな顔をするのなら、きっと何か、茶化せないことが起こるはずだ。
綿を見ていると、気のせいか黄色味が取れてきたような気がする。
だがかすかな変化なので、見間違いかもしれない。
「はーい、五分たちました!」
鳴り響いたタイマーを切って、一路はざるを持ち上げ、その下にガラスのボウルを置いた。
それからラップを外す。
綿から水分が滴る。一路は綿をピンセットでざるに押し付けて、水分を搾った。
ボウルにたまった水は、透明だ。
一路はその水を、小さいフラスコ二つに分けて注いだ。
慈良は、悪い予感に襲われた。
フラスコの一つを慈良に持たせ、自分も一つ持って、一路は宣言した。
「さあ、実験の成功を祝して、乾杯だ!」




