-三十日目・4
そうして、細々と事業を続けて、幾星霜。
「できた! できたぞ! 慈良! 俺はとうとうやったぞ!」
機械に寄っかかってうたた寝していた慈良は、激しく揺さぶられた。
「あ……なんだ、一路?」
「だから、できたんだって。これだ!」
目の前にふとん綿のようなものを突き出されて、慈良は驚いた。
目をこすって、穴が開くほど見つめたが、何がどうすごいのか、まるでわからない。
「なんだ、これ?」
一路は、ふふふと不気味に笑い出した。いつまでも笑っている。
慈良が目をそらして時計を見ると、夜中の二時。
「一路、一路!」
慈良はかすれ声でなんとか一路に正気を取り戻そうと焦った。
このところ頑張り過ぎていたから、とうとう何かが切れたのかもしれない。
「慈良、ちょっとお前の小便をくれ」
いきなり笑いを止めた一路は、手近にあった大きな空のフラスコを、慈良にぐいぐいと押しつけた。
「しょ、小便? おしっこのこと?」
「そうだ。いますぐ」
慈良は青ざめた。
「さあさあさあ」
一路は鬼気迫る表情で、なんとしても慈良の小便を入手しようと迫ってくる。
言葉を失って後ずさる慈良にしびれを切らしたのか、一路は慈良のジャージを下げようと手を伸ばしてきた。
「ちょ、ちょっと待って。わかった、わかったから、自分でする」
「頼む。俺のは、我慢できなくてさっき出してしまったから、まだ溜まってないんだ」
慈良は研究室の片隅で壁に向かって、フラスコを満たした。
双子の兄弟とはいえ、これはあんまりではないか。
しかし、一路の剣幕の方がこわい。