治療しよう!
前回のあらすじ、スズが店員の女の子を気絶させてしまう。
東の町のカフェ。着飾った女性の店員たちが男性客を主に楽しませる店にて、一人の男と来店したちんちくりんな少女は少し場違いな雰囲気をかもしだしていた。
張り詰めた空気をまき散らしている彼女は、半分ほど空になった、湯気の立たなくなったコーヒーを一口飲むと、手つかずのアップルパイの皿を一瞥する。
「... 遅いですね」
「え、そういうものじゃないのか?」
その言葉にちんちくりんな少女は投げナイフを抜き... 男の座っている椅子にそれを命中させる。
当然、男は額に冷や汗をうっすらと浮かばせ...
「お、おい... 他の人に見られたらどうするんだよ... 」
「大丈夫です。店員たちからは、私たちが間違ってここに入ってきたことを理解した雰囲気を感じます。とくに私たちの事を気にかけている店員はいませんよ」
「いやそういう問題じゃ... 」
「それにしてもさっきのピンクのドレスの店員。彼女、私とあなたが恋仲に発展するとものと決めつけ、何らかの方法でくっつけようとしてきました。不愉快です」
もやもやとした感情を抱く男だったが、自分を落ち着かせるように目を細め、果実水をすする。
「少し様子を見てきます。あなたはここで待っていてください」
返事を待たずして、ちんちくりんな少女は席を立ち上がろうとする。
「リ、リリー!」
男の声に、ちんちくりんな少女は不可解といった風な目を浮かべ、その目で続けろと男に伝える。
「にらめっこ... しない?」
すると当然と言わんばかりに、ちんちくりんな少女は答えることを放棄し店員の方へと向かう。
「すみません、トイレはどこですか?」
「皆さんあちらに行かれますよ、お嬢様」
そしてちんちくりんな少女は奥の部屋へと進んでいく。
残された男は顎に手を当て...
「一体どんな顔だったのだろうか... 」
**********
カフェの奥の部屋にて、ちんちくりんな少女はトイレの前まで来ていた。
ゴンッ... !
「店の前から爆発音?トイレの中は... 」
音に驚きトイレの扉を開ける。
バタンッ...
「空!?」
辺りを観察すると、店の裏口の扉が開いているのを確認する。そこから恐る恐る路地を観察すると...
置き去りにされた杖、崩された木箱の山、大量の血の跡、一部分だけ砕かれた道路の舗装などが伺える。
「な... スズが戦闘に入りましたか」
そしてカフェの正面に面した路地の方を見てみると、背中から多量に出血している杖持ちの少女がたたずんでいるのが分かる。
「っ!?スズ!!」
急いで駆けつけると、杖持ちの少女がそちらに気付き、ゆらりと振り向く。その目はいつもと同じ、落ち着き払った穏やかなもので、この混沌とした状況とは相反していた。
「リ、リリーさん... あれ?」
「スズ... 」
ちんちくりんな少女は急いで駆けつけ、杖持ちの少女が力無く前に倒れ込んだところを受け止める。
「スズ... 調子に乗って無理をしましたね、顔が白くなっていますよ」
「つ、つい熱くなってしまって... 」
腕の中の少女の皮膚が青白くなり、心臓の鼓動が速くなっていることを感じ取ると、ちんちくりんな少女はくちびるを噛む。
「... 忌々しいですね」
「え?すみません、今なんと... 」
背中と片腕からの出血はまだ止まっていない。そのせいで雨が降った後のような水たまりが出来ている。
「治してください」
「え?ああ、背中の傷ですか?分かりました」
何でもないといった風な態度を取る彼女に、ちんちくりんな少女は目を瞑り... 意を決したようにゆっくりと目を開ける。
「私はスズの、その物語への姿勢からくる、突拍子も無い行動に振り回される毎日を、少し楽しいと思っていました。いつもは私が引っ張る立場なのに、スズの色んな言動が私に冒険をさせてくれるようで... 」
「リリーさん?」
「ですが!」
思わず杖持ちの少女を強く抱きしめてしまう。
「いくら自分で治療出来ると言っても、むやみに怪我を負わないでください!能力で栄養素を作り出す事は出来ないのですよ!血液を作るのにも限界があります!」
「す、すみません... 興が乗ってしまって... 」
その言葉に杖持ちの少女の両肩を掴み、顔を見つめる。
「血が必要です。今にも倒れそうですし、呼吸が荒いじゃないですか。スズの能力で輸血は出来ますよね?」
そしておもむろにナイフを取り出し... 手首を深く切る。
「リ、リリーさん... 」
「やってください」
「... すみませんでした」
「私は怒っているんじゃありません。心配しているんですよ」
その言葉に杖持ちの少女は、ちんちくりんな少女の手首を自分の治りかけの腕の傷に当てる。
するとちんちくりんな少女の、手首の血管は激しく脈打ち、更に腕を垂れる血は逆戻りしていく。
「し、失礼しますね、リリーさん」
心臓が数回脈を打ったかと思うと... 杖持ちの少女は胸に当てていた手を、ちんちくりんな少女の服の中に滑り込ませ、再度目を瞑る。
「っ!?スズ?」
「の、残りの血液の量を感じ取らせてください」
「... そ、そうですよね」
落ち着き払った杖持ちの少女の顔とは相反して、ちんちくりんな少女の顔はどこかそわそわしていて、細めた目が泳いでいる。
幾分かの時が経つと、杖持ちの少女の顔色がみるみると明るくなっていくのが分かる。
「ふう... 終わりましたか?スズ」
そして最後に目を瞑ったまま、自分の腕と、ちんちくりんな少女の手首の傷を治し、乱れた服を整える。
「スズ?随分血色が良くなりましたね」
見ると、頬の部分が極めて活気づいているのが分かる。目を瞑ったその顔は、とても穏やかで、眠りにでもついているようだった。
「帰ったらしっかりと食事をして、栄養を摂りましょう。アップルパイを残しているので、ひとまずカフェに戻りましょうか」
杖持ちの少女はなぜか何も答えない。安らかな顔で、目を瞑ったままなにかを噛み締めているようだ。
「... スズ、なにかあったんですか?」
杖持ちの少女はニコリと微笑む。
「いえ... 姉妹間で輸血をするだなんて、まるで物語のようだなと」
その言葉に、ちんちくりんな少女は額に手を当て、赤く染まった空を仰ぐ。
そして俯き、まるで頭痛でも起きたかのように苦い表情を浮かべる。
余韻を満足したのか、ようやく開かれた杖持ちの少女の目はとても澄んだ曇り無きもので、キラキラと光っているわけではなかった。




