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勇者(俺)いらなくね?  作者: 弱力粉
第四章(中)
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店員さんと戦おう!

前回のあらすじ、スズが人形のような少女と戦い始める。



自身の人形が一体蹴とばされたのを確認すると、人形のような少女は慌てて後方に跳躍し、距離を取る。


その慌ただしい様子とは裏腹に、杖持ちの少女は尻もちをついた状態からゆっくりと立ち上がり、服の汚れをはたき落とす。


そんな呑気している姿を見逃すはずもなく... 人形のような少女は左手を前に出し、人差し指を素早く握る。


途端、木箱の山から再び新たな無機質な人形が飛び出してくる。



「あの... 他の技を見せてはくれませんか?」



それに対し、杖持ちの少女が右手を不思議な軌道で振ると... 一直線に飛んでいた人形は急に落下し始め、情けなく地面に着地する。



「素手で... 糸を切れるのですね。どのような手刀ならそんな事が可能なのか...」


「速度さえ十分なら、爪を当てれば切れますよ?」


「っ... 分が悪すぎます」



まるでとぼけるような仕草に、人形のような少女は背中に両手を回し、人形を取り出して投擲する。


包丁を持った二体の人形は一直線に杖持ちの少女へ向かう。



「一旦逃げさせてもらいます」



杖持ちの少女に背を向け走り出そうとするが、自身の投げた人形の様子はしっかり後ろ目で確認していた。杖持ちの少女が人形の方に手を向け、それを対処しようとしているのが分かる。


そして人形が杖持ちの少女の手に触れる寸前、人形のような少女は両手の薬指を素早く握る。


すると杖持ちの少女の手を避けるように、人形の軌道は横に逸れる。



「っ!?」



杖持ちの少女は上げた手を握り、空中に浮かんでいる一本の糸を掴むが、それで制御出来たのは一体の人形だけだ。もう一方の人形は杖持ちの少女の腕を深く切りつける。


急いで杖持ちの少女は糸を辿って一方の人形を投げ、もう片方の人形に突きを入れる。


すると人形はそれぞれ両端の壁に打ち付けられ、動かなくなる。



「どのように指を動かせば、こんな風に人形を操ることが出来るのでしょうか?」



杖持ちの少女の腕の傷は深く、血も勢いよく流れ出ているが、そんな事は一切気にしていなかった。


それよりも、両端の壁に打ち付けた人形と、逃げていく人形のような少女を観察している。



「ぜひ教えてもらいたいものです!」



そして地面の舗装をへこませるほどに足を踏み込み... 後ろに蹴る。


人形のような少女に追いつくための、一直線の跳躍だ。



「あら?」



だがその動きを、人形のような少女は走りながらも見ていた。


爆発のような音と共に地面がへこむ瞬間、人形のような少女は両手を思い切り上に掲げ、両手の薬指を曲げる。



「薬指は愛を象徴します。なので薬指の子達は特別に糸で結んであるんです。今のお姉様は、いわば糸を揺らし、蜘蛛に獲物がかかったと知らせてしまった蝶のようです」



瞬間、杖持ちの少女は気付く。自身の腹はピンと張った糸を突っ切っていた。


すると両端の壁に打ち付けられた二体の人形は、跳躍した杖持ちの少女を後ろから追尾するように飛び... 一度ずつ、背中を切り付ける。


この二つの傷も深い。血が勢いよく吹き出し始める。


だが杖持ちの少女は狼狽えない。その勢いのまま人形のような少女の間合いに入ると... 拳を振るう。


その拳は人形のような少女の腹を捉え、体を大きく後ろにふきとばした。



「ぐっ... かはっ... 」


「私が前に飛んだ瞬間に両手を上げ、二体を結んだ糸が私の腹の位置に来るように調節しましたね... あなたが糸を指で引っ張って操る時のように、私が糸を引っ張ってしまい、二体の人形は攻撃態勢に入ってしまう」



カフェの正面に面した路地までふきとんだ人形のような少女まで、ゆっくりと歩いていく。



「とても、とても面白い罠でした!」



杖持ちの少女は手を口に当て、心底愉しそうに横たわって動かない少女を見下ろしていた。



「他には何かありませんか?」


「かっ... !はあ... はあ... 」



地面の舗装を汚す血は全て彼女のものだったが、全く気にならないようだ。



「良かった、意識はまだあるようですね、私の予想を超える、何か別のものを...」


「お、お姉様は今... 」


「なんですか?よく聞こえませんでした」


「今、糸を踏んでいます... 」



杖持ちの少女が行動を起こす前に、横たわったままの人形のような少女は、杖持ちの少女を睨みつけ、思いきり手首を曲げる。



「あ... 」



すると地面の糸がピンと張り... 文字通り杖持ちの少女は足をすくわれ、尻もちをつく。


その隙を人形のような少女は逃さない。


急いで立ち上がり、服の中、腹の部分から人形を取り出し、杖持ちの少女に投げつける。



「お姉さま、あなたのことは何も知りません。ですが異常であることは確かです。それほどまでの出血でまだ意識を保っているのもおかしいですが、それまでに深い傷を負った腕でこれほどまでの突き... 背中の傷もとても深いものなのに、痛み一つ感じていないような顔。あなたはこれくらいでは死なないような気がします」



そして左の中指を曲げると、杖持ちの少女の肩に乗った人形は、包丁を首の近くに持ってくる。



「私はお姉さまを、人を、殺したこともなければ、殺したくもありません。ですが異常なあなたにはこれくらいしないといけませんよね」



杖持ちの少女は表情を変えない。未だにキラキラとした楽しそうな表情を浮かべている。



「私は人形と糸から目を離しません。触れようとした瞬間、頸動脈を切ります」



人形のような少女が更に中指を曲げると、人形の持つ包丁は首に触れ、少しだけ肌を切る。



「質問に答えてください。お姉さまは何者で、なぜ私の弟を探っているのですか?」



杖持ちの少女は少し顔を伏せる。



「... ました」


「もう少し大きな声で喋ってくれませんか?」



そして顔を上げ...



「単純なものでしたが不意をつかれました!」


「... 」



キラキラとした笑顔を見せる。



「とても楽しく... あれ?」



だがそんな表情は少し崩れ...



「血を失ったことによる影響がようやく出ましたか」



手のひらを地面に当てて上半身を支えていたが、いきなりバランスを崩し、地面に倒れてしまう。



「ですが店員さん、あなた一つミスを犯していますよね。良くないですよ?」


「... あの、良い加減話してくれませんか?店の人に見られると... 」


「戦いが終わった気になってはいけません」


「いいから質問に... っ!?」



ゴンッ... !


いきなり爆音にも似た音が響き、地面を揺らす。


杖持ちの少女が、人形のような少女の死角、自身の体の影になっている地面を思い切り殴りつけたからだ。



「な、なんて力... グフッ!?」



その突きは地面を強く揺らし、少女の体勢を崩す。

そして出来た一瞬の隙。まるで地震のように揺れる地面に驚く人形のような少女の腹に、蹴りを入れ後方にふきとばす。


すると痛みのせいか、人形のような少女は床に倒れ込み、動かなくなってしまう。



「落ち着いたときに来るショックは、通常時よりも大きく心を揺さぶりますからね。それにしても楽しい戦いでした!」



杖持ちの少女はゆらりと立ち上がり、両頬に手を当て、笑顔で横たわる少女を見下ろす。


そんな時が少しばかり流れると、目の中の、何かキラキラとしたものが収まり...



「... も、申し訳ありません... つい熱くなってしまって!」



人形のような少女の服の中に手を入れる。



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