店員さんから話を聞こう!
前回のあらすじ、カフェに入る。
カフェのトイレは、店内のにぎやかな音がうっすらと聞こえる、薄暗い奥の方の部屋にあった。
杖持ちの少女は、その部屋のトイレの扉を開けようとしたところ、少女の背後から、聞き覚えの無い無機質な声をかけられる。
「お姉さま... さっき病院にいた方ですよね?」
その声は杖持ちの少女の動きを止め、後ろをゆっくりと振り向かせる。
見ると後ろにいるのは、灰色の糸が巻きつけられたミニスカドレスを纏い、腕や足をタイツで覆い、顔以外の肌を一切露出させない服を着たカフェの店員だ。
銀の髪色に、色素の薄い顔の肌、そして整った顔は、人形のような印象を抱かせる。
「え、えっと... 店員さんですか?」
「はいお姉さま... 実はそのトイレ、つい先ほど壊れたってお客様の一人が言っていたんです。それで、代わりに隣の店のものを使わせてもらえることになっているんですよ。ついてきてください」
一体の気味の悪い人形を両腕に抱きしめながら、その人形のような少女は部屋の奥へと進み、裏口を開ける。
「あれが... あの男性が一目ぼれした女性で間違いなさそうですね。ですが今のところ、魂の異常は感じません... 」
彼女は何か考え込むように目を瞑り、そしてなにかの結論にたどり着くと、キラキラと輝かせた目を開く。
「でしたら、もう少し近づいて話を聞かなくては!」
杖持ちの少女が裏口から外に出ると、右手には道の行き止まりがあった。正面には壁、左に行けばカフェへの入口が面する路地に出られ、すぐ右には木製の空き箱が乱雑に放置されている行き止まりがある。
路地への道には、夕陽に照らされた、人形のような少女が振り返って待っている。
「店員さん、お名前は... 」
「お姉さま、ご来店は今日が初めてですよね」
「ええそうなんです。なかなか面白い所ですよね、王都にも似たようなお店があれば良いのですが」
「王都、ですか?」
「はい、王都から来た... ええと、そう!旅行で来ました」
杖持ちの少女は表面的な笑顔を浮かべ、その場で作った言葉を紡ぐ。
「旅行、ですか」
「旅行です」
数メートルほど離れた二人は、なぜか立ち止まったまま、向かい合わせで会話を始める。
「そうだ!店員さんには彼氏さんとかいらっしゃるんですか?」
「彼氏、ですか?」
「はい!ほら、親密にしている、無職の頼りにならない男性とか、いらっしゃいませんか?」
「... 」
「その方とはどういった関係なんですか?頼りにならない印象を受けたと聞きましたが、どういうところを好いてらっしゃるのですか?」
矢継ぎ早に質問を投げかけられるも、人形のような少女は無表情を保つ。
するとおもむろに少女は力無く両腕を持ち上げ... 杖持ちの少女のキラキラとした瞳を見据える。
「お姉さま。病院であの男から何を聞いたのかは知りません。そして、どんな理由で弟の事を探っているのかも分かりませんが... 」
そしておかしな動きで両手を互いの手で撫でる。
「... あなたからはなにか、奇妙で、得体の知れない、危険なものを感じます」
すると再び空中で両手を静止させ... 右の人差し指を素早く曲げる。
ドンッ... ガラガラガラッ...
瞬間、行き止まりに積まれた空の木箱が派手な音を立てながら崩れていく。
「あら?可愛らしいお人形さんでしたね」
杖持ちの少女は、いつの間にか人形のような少女に背を向け、その行き止まりの方にある崩れた木箱の方を振り向いていた。
人形のような少女は両腕に《二体》の人形を抱え、無表情で杖持ちの少女を見据える。
「とても魅力的な、可愛らしい武器です。魂の流れを感じないという事は、あなたは四天王では無いようですが... あら?」
杖持ちの少女が自分の頬に手を伸ばすと、そこから血が流れているのを理解する。それを確認すると、人形のような少女の方を振り返り...
「ふふ... とても、とてもとても楽しめそうです!」
満面の笑顔を見せる。
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「うーん、良い気分だな!風が気持ち良いぜ!」
「はい、とても」
東の町を散策するのは、大剣持ちの少女とメイド服の少女だ。
「あ、そうだ!えっと... 何かがあるんだよ、リリーが言ってた... その... 」
「リリー様が宿の主人からお聞きになった、海が綺麗に見える場所、のことですか?」
「ああそれだ!この前のは綺麗な森だったからよお、今度は海ってのは良いことだぜ。例えば毎日肉ってのも飽きちまうからな」
「... 」
メイド服の少女は無表情のままだが、何かを思いつめたように顔を俯かせている。
「あの、タイランお嬢様。先ほどの件なのですが... 」
いくつかの通りを曲がった後、メイド服の少女は意を決したように口を開くが、思ったように事は進まず...
「さっきの件?ええと... ああ、毎日魚の件か?そうだな、ここに長い事滞在することになったら、たまには肉料理も食いたいな!」
眩しい程の笑顔で的外れな答えを返される。
「... はい、喜んでお作りします。ところで先ほどお話にあった、騎士団の件なのですが...」
「おうよ!俺は頭使うのへたっぴだからよ、やっぱ天職だと思っただろ?」
「はい、とても。ところで騎士団長へなるというのは... 何か制約を設けられるのでしょうか。例えば、貴族の方であれば侍女に命じられるお仕事も、ご自身で成し遂げなくてはならないというような... 」
「あん?いや、普通に従者の同行が認められているぜ?」
メイド服の少女は思わずくちびるをぴくっと動かし、奥歯を噛む。
「タイランお嬢様、誠に不躾な質問かと存じますが... なぜ、私を... 」
「おおメイ、海が綺麗だぞ!もっと近づこうぜ!」
だがいち早く、まるで羽ばたく鳥のように両手を大きく広げ、ビュンと走り出してしまう。
「海が輝いて見えるな。お、あそこに漁船もあるぜ!」
「はい、とても綺麗です。ところでタイランお嬢様... 」
追いついてから話を続けようとするも、大剣持ちの少女の目がキラキラと輝いているのが分かり、言葉につまづく。
「いやあ、またここにも来たいもんだな!今度は用も無しにここに来て、好き勝手周りたいぜ」
「... はい、それが... タイランお嬢様のご意思ならば... 」