東の町へ行こう!
前回のあらすじ、メイとリリーの話。
朝だ。
そして感じる。何かの気配をこの部屋に感じる。間違いなく人の気配だ。
「おはようございます、勇者様」
「うわっ!え... お、おはよう」
目を開けるとキスの距離... は、前にもあったのだが、俺が目を開けていないのに話しかけてくるのは何気に初めてだ...
「えっとその... どうしたんだメイ?またリリーが俺のことを呼んで... 」
「いえ勇者様。本日東の町へ出発します」
「本日出発します!?」
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まだ日が出て間もない頃だというのに、リリーもスズもタイランも準備を済ませていたようで、ゆったりと荷台でくつろいでいる。
「おいへっぽこ!普段から早寝早起きを心がけろ!」
「いや急に出発って言われても」
「うるせえとっとと乗れ!」
渋々と後ろから乗り込み、メイも後に続く。
「ではタイラン、お願いします」
「それじゃあ!出発ぅぅぅっ!!」
出発の合図とともに、荷台はゆっくりと町の外へと向かっていく。
「さて、東の町までは少し距離があるので一拍の野営を挟みます。多分明日の昼頃には着くでしょう」
「まあ、それは良いんだが。なんでこんなに早く次の目的地に... 」
一昨日北の町から帰ってきたばかりで、今朝すぐに東の町へ出発。今日こそはリリーに何か戦い方を教えてもらうつもりだったのだが...
「今までは東の町から何も異変の知らせは入ってこなかったので、後回しにしていました。ですが昨日、良くない噂をメイが耳にしたようです」
「良くない噂?」
詳しい話をリリーがするのかと思いきや、なぜか黙ったまま俺を見つめる。
すると見かねたメイが口を開き...
「暴行事件の加害者が、何者かに操られたように、無意識に自傷行為に及んだようです。他にも、殺人事件の加害者二名が自殺に至りました」
「... という話です。二つ目の事件は、ただの不可解な事件として報道されていましたが、一つ目の事件の話を聞いた後だと少し印象が変わってきます」
暴行や殺人を働いた後に自傷や自殺?
「もしかしたら精神に働きかける能力の影響かもしれません。衛兵や記者に知られていないだけで、他にも似たような事件が起きているかもしれない。ということで早めの出発です」
なるほど... 最後の四天王の被害が出たかもしれないのか。
「ひ、一人目の四天王同じように、魂に働きかける能力なのでしょうか?」
「まあその可能性が高いでしょう。この自傷に及んだ人に話を聞くのが手っ取り早いですね。噂を辿ってその人物に会いに行きましょうか」
「もしも魂に働きかける能力なら、俺にその能力は効かないかもしれないな」
一人目の四天王の時と同じように、能力の効かない俺が敵を引き付ける事もできそうだな。
**********
辺りが暗くなってきたころ、野営の準備のためタイランはものすごい形相で火起こしを、メイは晩御飯の支度を始めていた。
「今日のメニューは何ですか?メイ」
「昨日王都では魚の料理が出ましたので、本日はお肉を使います」
「東の町は海に面しているので、多分明日からは魚料理ばかり食べる事になりますね」
「差し支えなければ、お肉を調達することも出来ますが... 」
に、肉の調達?メイが野営で料理をするたび、生の魚や生の肉を使った料理が出て来るが... 一体どういう方法で調達しているんだ...
「そうですね。魚に飽きたらお願いするかもしれません」
魚の料理づくしか... 昨日の料理は、なにやらレモンの輪切りをのっけた、こじゃれた物だったな。元々日本で暮らしていた身としては、米と焼き魚や煮魚や、海鮮丼とか食べたいな...
あれ?そういえば...
「えっとリリー、この世界では魚を生で食べたりするのか?」
「さ、魚を... 生で?」
するとリリーは不審な目を俺に向け...
「気持ちの悪い事言わないでください。病気になりますよ?」
そうだよなあ。
「じゃあ多分、米とか醤油も無いよな... 米はこれくらいの白い粒みたいなもので、水で炊いて食べるんだ。醤油は大豆を発酵させたもので... 」
「二つとも聞いたことありませんね。しょうゆ?だったら、大豆はあるので作ってみたらどうですか?」
いや... 作り方は...
「またそれですか。本当にどういう文化の中生きてきたんですか?」
く、言葉もありません...
呆れた目を俺に向けるリリーだったが... なんの前触れもなく、急にビクッと体を震わせると、何もない暗闇の方向を見つめ始める。
「リリー様」
「分かっています、魔獣ですね」
つられて俺もリリーの視線の先を見るが... 何も見えない。
これはもしや... 訓練のチャンスでは?
「リ、リリー!俺昨日も言ったんだけど、やっぱり強くなりたいんだ。また訓練してくれないかな... 」
その言葉に、キラキラと目を輝かせるスズを横目に、リリーは優しく微笑み... ナイフを両手に一本ずつ抜き取る。
そしてなぜか両方とも暗闇に投げつけると...
キャンっ!キャンっ...
二匹分の狼の叫び声のようなものが鳴り響く。
「今日は一旦... ごはんを食べて寝ましょう!」
ボっ...
「お、火が点いたぜ!」
「ありがとうございます、タイランお嬢様」
... 話題を避けられてる?