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勇者(俺)いらなくね?  作者: 弱力粉
第四章(上)
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街中での追いかけっこ!

前回のあらすじ、タイランとメイの外出。



とある洋服店にて、赤髪の新聞記者は、ニ人の少女に挟まれながら顔をとんでもなく青くさせていた。



(こ、この人今記者って言った!?ば、バレてる。私の事がバレてる!)



「なあメイ、このメガネ似合ってるか?」


「はい、とてもお似合いです。横髪を丁寧にまとめていただければ、落ち着いた雰囲気になるかと存じます」


「ふーん... 」



なにやら不満げに大剣持ちの少女はメガネを外し、自身の従者を観察する。



「うん!そのワンピース良く似合ってるな!メイの持っている花柄の髪留めと合いそうだぜ!」



その言葉に、ワンピース姿の少女は何も言わずに大剣持ちの少女を見つめ、そしてそのまま目線を怯えた赤髪の少女に向ける。



「タイランお嬢様。こちらの方は?」


「うん?なんか俺たちの後をつけてた画家なんだってよ。俺のファンなんだ!」


「ファン... ?」


「ふぁ、ファンです... 」



赤髪の少女は目をぱちぱちとさせ、ワンピース姿の少女に助けてと伝えようとするが、願いは届かず...



「はあ... こちらの記者の方がファンだと... 」


「記者あ?」


「はい。赤髪、私より少し低めの身長、成人したばかりの女性、タイランお嬢様がずっと前におっしゃっていた方です。手に筆だこはありますが、こちらの方から絵の具の匂いはしませんね。画家では無いかと存じます」



大剣持ちの少女は、ぬっと赤髪の少女に詰め寄り、顔を良く観察する。



(ひっ... ゆ、許して... 許してください... )



そして手に持ったメガネと赤髪の少女の顔を見比べ... 震える彼女にメガネをつける。


すると大剣持ちの少女はゆっくりと目を細めていき...



「てめえ!色んな町で俺たちをつけてた新聞記者じゃねえかっ!!」


「ひぃぃぃぃっっっ!!猫!猫がいます!」


「なにっ!?」



カランカラン...


背後を指さす赤髪の少女につられ、振り返る大剣持ちの少女... その一瞬の隙をつき、赤髪の少女は店から逃げ出す。



「追えメイ!」


「かしこまりました」



**********



赤髪の少女は、必死な形相で街中の大通りを走っていた。数メートル後ろの二人が徐々に距離を詰めてきている事は音で伝わってくるため、振り返る余裕もない。



「新聞記者ぁっ!俺たちからどんなネタを拾ったんだあああっ!ただでは帰さないぞっ!!」



うっすらと涙を両目に浮かべながら、赤髪の少女は大通りを右に曲がり、細い路地に入る。



「逃がすなあメイ!」


「かしこまりました」



後を追い、二人は路地を確認する。



「なに!?」



その路地は、両手を広げれば壁につきそうな程の狭さの一本道で、その長い一本道を抜ければ反対側の大通りに出られるものだった。


そして不思議な事に、数十メートルはあるその一本道に赤髪の少女の姿は無かった。



「タイランお嬢様、上です」



上を見ると、赤髪の少女が二つの五階建ての建物の、向かい合った壁を交互に蹴って登っているのが分かる。



「なんて技を使いやがる!壁を蹴った勢いを利用して上がるだと!?」


「記者に必要なのはああっ!スクープを探すための目ざとさ!スクープを追うための体力!そして、危険から逃げるための強靭な脚力ですっ!!少しひやひやしましたが、今日の所は逃げさせていただきますよ!」



壁を十数回ほど蹴ってのぼり、屋根に手をかける赤髪の少女。



「今回は大したスクープは得られませんでしたので、お二人の仲睦まじい様子でも記事に... えっ!?」



赤髪の少女が屋根にぶら下がり、一息ついて地面を二人を見下ろすと... おかしな事をしている二人が目に入る。



「ちょ、ちょっとちょっとっ!!人を投げるだなんて... 自分の従者にそんな事して良いんですかタイラン様っ!」


「俺が許すっ!」



大剣持ちの少女はワンピース姿の少女の両足をガッシリ掴み、持ち上げ、大きく振り回していた。



「タイランお嬢様のご命令なので」


「行くぜメイっ!!」



その勢いに任せ、ワンピース姿の少女は放り投げられる。


赤髪の少女は両手で屋根を掴み、自身を引き上げようとする。が、それよりも早く、真隣にワンピース姿の少女が片手で屋根にぶら下がる。


傍から見れば、五階建ての建物の屋根に並んでぶら下がる、二人の少女だ。



「記者の方、この場で試されるのは純粋な戦闘力かと存じます」


「... っ!化け物ですかっ!」



右手でぶら下がっているワンピース姿の少女は、思い切り左の拳を握りしめる。



「... ふんっ!」

 


赤髪の少女は、ぶら下がったままの状態で背中を反らし、反動を利用して蹴りを放つ。


だが拳の方が距離が近い分、ワンピース姿の少女の方の放った拳の方が速い。



「... っ!」



ぶら下がっている状態では、首や体をひねらせて拳を避ける事が難しい。


だが赤髪の少女は、かろうじて拳の直撃をかわす事に成功する。


トッ...



「下に落ちましたか」



赤髪の少女は屋根から手を離し、重力に身を任せ拳をかわした。


ドッ!


数メートル程落ちたところで、赤髪の少女は壁のくぼみに指をひっかけ、危なげにぶら下がる。



「とても力強い指をお持ちですね」


「ど、どうもです... それよりも女の子の顔を殴るだなんて酷い事... うわっ!!」


「チッ、外したか」



首をひねり、ギリギリの所で下から飛んできた何かをかわす。



「今のは... ボタンですか?」


「そうだ、ボタンを弾くときに運動エネルギーを多めに与えてやるんだぜ」


「上には私がおり、下にはタイランお嬢様が控えております。どうか観念なさってください」



赤髪の少女は顔を俯かせ、ゆっくりとメガネを取る。


そして奥歯をぐっと噛みしめ、空を仰ぐと...



「記者として!どんなネタでも持ち帰り、記事にしなくてはなりません!確かに戦闘力では勇者パーティーの一員であるあなたたちに大きく劣るでしょう。ですが!」



力強く目を見開き、ワンピース姿の少女と目を合わせる。



「記者として!人を見る目や!スクープを嗅ぐ能力では!あなたたちには負けません!」



すると何を思ったのか、赤髪の少女はわざとらしく予備動作をつけ、メガネを大通りの方に放る。



「このメガネはタイラン様の物ですよ!」



言うが早いか、ワンピース姿の少女は躊躇なくメガネを追って飛びおりてしまう。



(やっぱり!このメイド、普通にタイラン様と話している時にも異常なまでのなにかを抱いてた!メガネ姿のタイラン様に見とれていたり、タイラン様に投げられることを良しとしていたり、この子には、忠誠心以上の何かがある!)



「さてと、それでは失礼しま... す!?ひっ!?」



大剣持ちの少女は再びボタンを放つが、赤髪の少女は首をひねってかわしてしまう。


だが...



「うわああああぁぁっ!」


「油断しやがって!俺が狙ったのはてめえの顔じゃねえ!そのくぼみに引っかけた右手だ!」



ボタンは顔の横を通り抜け... 軌道上の右手の甲に命中する。


反射的に赤髪の少女の右手は開かされ、くぼみから手を離してしまう。



「またくぼみに手をかけてへばりつくか?そしてもう一度壁を蹴って登ってみろよ!てめえのそのトロい動きを俺のボタンで捉えるのは容易いぜ!」



ドッ...


赤髪の少女が横の建物の高さ半分程落ちたところで、ギリギリ壁のくぼみに左手を引っかけぶら下がる。



「はあっ... はあっ... もう筆を握れなくなったらどうするんですか... 」


「いいからとっとと下りてきな!」



赤髪の少女は顔を伏せ、くちびるを噛みしめる。


少し間が開くと左手の力が緩み、彼女は落下を始める。



「おっとっと... 」



ドサッ...



「すいませんでした... 」



赤髪の少女はお姫様だっこの要領で、大剣持ちの少女に受け止められ... くちびるを尖らせ、ふてくされたように謝る。



「私と会社の名前、これから新聞に記載する時の見出しもタイラン様達に相談しますから、許してくれませんか... ひっ!?」



もう逃げられないと判断し、捕まることを受け入れた赤髪の少女だった。誠心誠意謝れば事は丸く収まると思っていたが...


おもむろに向けた赤髪の少女の目線の先、大剣持ちの少女の背後に、彼女は立っていた。


表情こそ変わらないが、明らかな殺気を放っているワンピース姿の少女を確認し、赤髪の少女は、自分の勘の良さと、運の悪さを認識するのであった。




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