強さの秘訣?
前回のあらすじ、カズ王子が強くしてくれる?
「君は、この世界の格闘ものの話を読んだことはあるかい?」
格闘もの?小学生の頃はカンフー映画とかテレビで見てたかな。
廊下を二人で歩いている中、カズ王子がとある扉の前で立ち止まり、俺に微笑みかける。
あ、両腕を怪我しているから俺に開けさせようとしているのか。
「僕もスズも昔読んだ話でね、強くなりたい一人の少年が武術の達人に弟子入りするというものがあったんだ」
ドアノブをひねり、扉を少し開かせると部屋の中から淡い日の光が漏れる。
「だが特に何か特別な事を習うわけではなく、来る日も来る日もさせられるのは家の掃除だけ」
扉を更に大きく開けると、窓からの日の光が部屋を明るく照らしているのが分かった。
「そのまま時が流れるとあら不思議、なんとその少年は強くなっていたのです」
そのとても広い部屋は... 王族の物とは思えないほど散らかっていた。
デスク周りには本や紙、床には荷解きのされていない麻袋、ソファ近くのテーブルには食べ終わった後の食器が...
そういう映画は俺も見た事があるが... まさか、俺にこの部屋を片付けろって言うんじゃ...
「えっと... 王族なんですから、メイドさんや執事さんとかの使用人は... 」
さすがに昨夜帰ってきたカズ王子が一晩でこんなに汚す事は出来ないだろうから、カズ王子が北の町に行く前から散らかっていた事になるな...
「僕は王の座を狙っているんだ。散らかっている資料や本を、見る人が見ればそのことがバレてしまう。スズが物語狂いだっていうのは城内では有名な話だけれど、それでも大多数の使用人や貴族はスズを支持している。そんな中僕が次の王を狙っていると知られるのはあまり良い事ではないんだ」
「へえ、でも今は俺やリリー達に知られたわけですから、そんな事を気にしてもしょうがないんじゃないですか?他の人にばらすかもしれないですよ」
「リリーはそんな事をしないし、タイランもあまり政治に興味は無いからね。噂を一番広めたがるのは、噂の内容に直接関係の無い者たちだ」
はあ...
「というわけで勇者君、掃除を頼むよ。本は大きさで分けて本棚に、資料は適当に分けてまとめておいてくれ」
「いや、掃除をしたから強くなるっていうのは物語の中の話じゃないですか。普通に強くなる方法を教えてくれませんか?」
するとカズ王子は浅くため息をつき、軽く肩をすくめながら微笑む。
「僕の事をもう少し信用したまえ。これは強くなるための基礎中の基礎なんだよ?」
え... 本当に強くなれるのか?
思えば異世界の住人の強さは異常なものだし、何か不思議な事をしているのか?物語にこだわるなりの強さの秘訣とかあるとか...
「わ、分かりました。とりあえずやってみます... 」
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黒髪の少年は、徐々に綺麗になっていく部屋の様子に、少しばかり満足をしていた。
ほこりっぽい箇所を掃いてピカピカに拭いたり、重たい本をしまう箇所を、一冊一冊につき考えさせられたりしたが、自分が強くなれる可能性が少しでもあるかも知れないと思うと心が躍る。
ただ一つ、少年がこの状況に難をつけるところがあるとすれば... それは部屋の持ち主である金髪ロングの男性が、濡れたままの髪を垂らし、バスローブ姿でソファで思い切りくつろいでいたことだ。
「いやあ、やはり体を綺麗にすると気持ちが良いね」
「両手が使えないのにどうやって体を洗ったんですか」
「使用人にやらせたに決まっているだろ?」
その言葉に眉をひそめる黒髪の少年。どんな想像をしたのか少し不機嫌そうだ。
「執事見習いにやらせたよ。メイドに頼むと惚れられてしまうからね」
「... 」
その言葉に黒髪の少年は更に眉をひそめる。
「顔に傷を負ってもなお、僕の美貌は健在... 」
「とりあえず髪を乾かしてくれませんか?ソファや絨毯が濡れても俺は拭き取りませんよ?」
「両腕がまだ動かないんだ。それに物語の少年も、濡れた所くらい拭くよ」
金髪の男性を睨み、これ以上言ってもしょうがないと察したようで本の整理に戻る黒髪の少年。
再び部屋を、時計の秒針や紙が擦れる音、本が棚に戻される音だけが満たす。
だがそんな静かで落ち着いた空気は、すぐにノック音を伴わない来客によってぶち壊される。
ドンッ...
「カズ、アンのことについて話が... へっぽこ、なぜ従者の真似事を?」
それは、黒髪ショートヘアのちんちくりんな少女だった。黒髪の少年が部屋にいる事を発見すると、怪訝な顔を浮かべる。
「リリー?い、いやこれはちょっと事情があって... 」
「リリー、紳士の部屋にノックも無しに入ってくるとは。はしたないじゃないか」
茶化すような言い草に、少女は投げナイフを一本、太もものホルダーから引き抜く。
「へっぽこは後で良いでしょう。そんなことよりカズ、アンから色々な薬品を受け取っていますよね。全部回収しますから出してください」
「うーん... 一本残らず捨ててしまったかな」
聞くや否や、少女の持っていたナイフは金髪の男の顔の真横に命中する。ナイフはソファのクッションに刺さり、羽毛が漏れる。
黒髪の少年は青ざめる。
「リリー、それ俺が直さ... 」
「嘘をつかないでください。何本隠し持っているんですか」
決めつけたように金髪の男の言葉を否定するが、この部屋にその言葉に意を唱える者は誰もいない。
「冗談だよ、その便利な能力をもう一度体験してみたかったんだ。アンからもらった薬は一本だけキープしているよ、デスクの上の木箱の中さ」
「ふん... 」
少女は部屋の奥へと進み、クッションに刺さったナイフを回収し、デスクの上の木箱を確認する。再び羽毛が漏れる。
「使用者の血を一滴混ぜてから対象に飲ますと、使用者が潜在的に望む事が叶うそうだ。一時間が限度だってさ。なにやら使用者の魂のほんの少しのかけらが、対象者の魂に作用するらしい」
「これを使えばあの馬鹿王をあなたのいいなりにして... いや、無理ですね」
「父さんを一時間程度操ったところで僕が王になんてなれっこないよ。スズに使うなんてつまらないことも出来ないし、かといって捨てるには惜しすぎる性能だ。正直持て余していたんだよ」
少女は木箱からピンク色の液体が入った試験管を取り出し、空中に掲げ、日の光でそれを照らす。その様子を興味深そうに見ていた黒髪の少年に気付き、ギロッと睨むと、試験管をズボンのポケットに入れ、寝そべったままの金髪の男に目を向ける。
するとジッと何かを考えるように斜め上に目線を逸らし、再び黒髪の少年の方を向く。
「... へっぽこ、集めたゴミが溜まっていますね。部屋を出てずっと右に歩けば捨てられる場所があるので、捨ててきてください」
「えっ?いやでもまだここの整理が... あ、すいません今から行きます」
少女に睨まれると、黒髪の少年は渋々ゴミを抱えて部屋から出ていく。
ばたんっ
扉が閉められたのを確認し、少女は男の寝そべるソファの後ろに立つ。
するとくつろいでいた男は片目を開いて少女の顔を伺い、にやりと微笑む。
「なんだい?」
「白々しい。何か話したい事があるのでしょう?」
見下ろす少女と目の高さを合わせるよう、男は上体を起こしてソファに腰掛ける。
「メイから、スズが暴走した時の事を聞いたよ」
「それで、私のどこを心配しているんですか?」
男はソファの背もたれに身を任せる。
「君だけじゃない。君とスズの心配だ」
「はあ... 続けてください」
男は言葉を選ぶように空中の何もないところを見つめる。
「... スズの暴走を止められなかったみたいだね」
「... スズが強すぎるんですよ。運悪くタイランも眠っていましたし、へっぽこが無傷だっただけ御の字です」
「君はスズ相手に本気を出していなかったんだろう?」
「だからなんだって言うんですか。 あの状況ではどのみちスズを抑える事は不可能でしたよ」
「でも今回はたまたま運が良かっただけで、もっと悲惨な状況になっていたかもしれない」
その言葉に少女は目を細める。
「スズが好きというのなら、スズが悲しまないために傷つける覚悟も必要だと言いたいんだ」
「... あなただって、そんなこと出来ないでしょう?」
「僕は君ほど強くはない。ただ守れるだけの力があるんだったら、その力は全力で使うべきだ」
少女はぐっと拳を握る。
「うるさいです」
そのまま扉へと向き直り、歩みを進める。
ガチャッ
『ほらへっぽこ!ついてきなさい!』
『え、でもカズ王子が掃除したら強くなれるって... 』
『そんなの嘘に決まってるでしょう、ほら行きますよ』




