第0話
夕暮れ時。路地裏にて、一人の男が顔から血を流していた。
血を流していた男の色素は薄く、銀色の髪、そして不健康そうな肌の色が特徴的だった。
「なあ、良いから早く金出せよ」
「これっぽちじゃあ酒も買えねえよな?」
三人のゴロツキのうちの一人に顔を殴られ、銀髪の男は情けなく地面に転がり込む。
「な、なあ... 僕に近づかないでくれよお... うぅ!」
次は腹を蹴られ、うずくまる。
「いいよ。出すもん出してくれたらとっとと離れてやるから、早く出せよ」
「無いんだよ!もう無いんだよ!」
必死に叫ぶ銀髪の男を前に、ゴロツキの一人はポケットから何かを取り出す。
夕日に照らされたそれは、折りたたみ式のナイフだった。
かちゃっと音を立て刃の部分を出すと、それを自身の顔の前に持っていき...
「へへへ、あれっぽちなわけ無えだろ?とっとと出さねえとこのナイフで... 」
心底楽しそうな顔で、それを突き出した舌に持っていく。
瞬間、 なんの前触れもなく、ゴロツキの影だけが少しだけ揺らぐ。
「レロォ... っ!?」
そしてそのナイフを舐めたかと思えば、いきなり全身を震わせ、ナイフから手を離してしまう。
カランカラン...
「あっ... あああ!てぃ... 血が!?」
「馬鹿っすねえ兄貴、刃の方を舐めるだなんて... そんなことしたら危ないじゃないですか」
ひざまずくゴロツキを横目に、別のゴロツキがナイフを拾う。
すると一瞬、ナイフを拾ったゴロツキの影が少し揺れる。
「だ、駄目だ!それを拾うな!」
「ナイフがおっかないのか?じゃあとっとと出すものを出して... 」
言いながらゴロツキは色素の薄い男にナイフを向けるが... その腕はとても不自然な動きで逆戻りをし...
ゆっくりとゴロツキの喉にナイフが刺さっていく。
「ひぃぃいい!いででででいでえええぇ!?」
「な、ナイフを捨てるんだ!」
「お、おい大丈夫か!?」
もう一人のゴロツキが駆け寄る。すると喉にナイフが刺さったゴロツキの影が少し揺れ...
「う、うわあああっ!?」
駆け寄ったゴロツキの腹にナイフを刺す。
「いいぃぃ!?な、何をしやがる!?」
「い、いや... 俺そんなつもりじゃ... 」
ナイフを持ったまま、腹に傷を負った仲間を介抱しようと駆けつけるが...
その勢いのまま、仲間の胸のあたりに、とどめを刺すようにナイフが刺さる。そしてそれは勢いよく引き抜かれる。
「いいいぃぃっ!?はっ... し、死ぬう!」
「おお、落ち着け!違うんだ。体が勝手に... 」
ナイフを持ったゴロツキは額に汗を浮かべ、起こっている状況を理解しようとする。
まるで何者かに操られているような錯覚を覚え、自身の身体のあちこちを見回すが、何も異常な所は伺えない。
「ナイフを... ナイフを下ろして逃げるんだ... 」
「黙ってろっ!」
瞬間、地面に映った自分の影に気を取られる。夕日と反対方向にある自分のシルエットは、ナイフを持った腕を、天高く掲げていた。
慌てて自身の右手を確認すると、確かに、自分の右腕はナイフを握ったまま空中に掲げられている。
その様子に目を見張るや否や、そのナイフは自身の心臓に向かって下ろされ、胸部を突き刺す。
「う、ううぅ... うわあああぁっっ!?」
最初に舌を切ったゴロツキは、仲間の無残な姿をしっかり見ていたが、二人を助けるわけでもなく、ただその場にうずくまっているだけだった。うずくまったままのゴロツキは、ただ両手で自身の首を思い切り絞め、気を失わないよう意識を保っているのに夢中だったからだ。
「お、おい!?今すぐ手を解いて... 」
色素の薄い男が必死にゴロツキの手を解こうとするが、努力虚しく、ゴロツキは気を失ったようで、足から力が抜け、地面に突っ伏す。
「お、おいあんた!?」
だがゴロツキの様子がおかしい。気を失えば普通、手からも力が抜けるはずなのに、ゴロツキのては未だ自身の首を絞めたままだ。
再び色素の薄い男が手を解こうとするが、力が足りない。程無くして、ゴロツキの両手は緩む。