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勇者(俺)いらなくね?  作者: 弱力粉
第三章(下)
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四天王戦ーその2

前回のあらすじ、スズが追いかけてくる。



辺りにはまばらに細長く、高くそびえるツタが乱立し、メイド服の少女と大剣持ちの少女から少し離れた所には、茶髪の少女が上を陣取る、野太いツタが一本生えていた。


大剣持ちの少女は、野太いツタの根元に刺さっている自身の大剣に目を向ける。そして自身の従者に顔を向け、ニカッと笑う。


ひとまずあの大剣を取り戻すという合図だ。


そんな主人の様子に、メイド服の少女は小さく頷く。



「ふふふ、タイランお姉ちゃんはどうか分からないけど、時間が経てばメイお姉ちゃんは眠っちゃうね」



言い終わると同時に、茶髪の少女は杖を振る。すると、地上の二人を囲むように細長いツタが生えてくる。


前方向にそれをメイド服の少女が剣で切り刻むと同時に、地上の二人は走り出す。



「アン!アンがそこにいる限りよお、てめえはこんな弱いツタしか生やせないんだぜ!」



大剣持ちの少女が先陣を切り、大剣までの距離を縮めていくが、茶髪の少女はうろたえない。



「うん、そうだね。それでも足元には気をつけた方が良いよ?タイランお姉ちゃん」


「あん?」



大剣まで残り十メートルといったところ、なぜか大剣持ちの少女は急に体勢を崩し、前のめりに勢いよく倒れる。



「くっ... 」



少しして軽い土埃が晴れると、大剣持ちの少女は首だけを振り返り、自身の足の異変を確認する。見ると、裸足のままで走っていた大剣持ちの少女の足裏から血が流れているのが分かる。


そんな地に伏せた大剣持ちの少女を覆うように、いくつもの細いツタが絡んでくる。



「私が生やせるのはなにもツタだけじゃないんだよ?トゲのあるものだって生やすことが出来るんだ。おまけに痺れる効果もあるから気をつけてね!」



メイド服の少女がツタを切り刻むと、大剣持ちの少女は急いで立ち上がる。そして再び地面に刺さっている大剣の方を指差し、メイド服の少女と目を合わせる。


もちろん目的は変わらない。


だがその後、茶髪の少女が上を陣取っている野太いツタを指差し、そのままその影になっているところをなぞるように指差す。そして茶髪の少女には聞こえない声量で話す。



「影になっているところならよう、アンの植物はもっと弱くなるぜ」



メイド服の少女が頷いたのを確認し、両者は再び走り出す。



「メイ!」



大剣持ちの少女は助走をつけて大きく跳躍し、メイド服の少女に目で合図を送る。



「そーれ!」



それを見た茶髪の少女が杖を振った瞬間、何本もの細長いツタが大剣持ちの少女を追いかけるように生えてくるが... メイド服の少女が一本、また一本とそのツタを切り刻み、追撃を許さない。



「へへ、その野太い影の中で、もう一回飛ぶ!それで俺の剣にたどり着けるぜ!」



ニヤついた顔で着地し、そのまま地面を蹴ろうとする。


だがそのニヤついた顔はすぐに崩れ去る。



「タイランお姉ちゃん!どうして私が弱点をバラしたと思う?」



大剣持ちの少女は不自然にバランスを崩し、地面に突っ伏してしまう。野太いツタの影の中から見上げると、茶髪の少女が自分を見下ろして微笑んでいるのが分かる。



「なん... で、体が... メイ、そっちは大丈夫か!」



自身の足元を見ると、着地した地点にトゲを生やしたツタが生えていることが分かる。



「タイランお姉ちゃんは光の当たらない所に誘われたんだよ、これでもっともっと痺れ薬がまわるね!」


「メイ、予定変更だ!一旦引いてリリーとスズを連れてくるんだ!俺はもう力が出せねえ!」


「そんなことはさせないよタイランお姉ちゃん。後ろを見てみて!」



首を捻り、慌てて振り返る。



「っ!?」



見ると、メイド服の少女もまた、身動きが取れない状態にあった。


何本ものツタがロープ状に編まれ、メイド服の少女の手足を縛っていた。


ドサッ


力なく、少女が持っていた剣が地面に刺さる。



「メイお姉ちゃんったら、タイランお姉ちゃんの方向にばかり気をつかっていて、後ろから来るツタに気づけなかったんだよ?もちろん遠くのところのツタは弱いけど、何本も用意すれば関係ないもんね」


「く、ふう... 」


「タイランお姉ちゃん?」



地面に突っ伏し、両足に痺れ薬が回っていながら、両腕を使って地面を這う。彼女の目標は、茶髪の少女が上を陣取る野太いツタだ。



「どうしたの、タイランお姉ちゃん?」



目を大きく見開き、野太いツタを見据え、その方向へと這い続ける。



「私はね、タイランお姉ちゃんの能力の弱点も知っているよ。タイランお姉ちゃんは、大きいものは部分的にしか消せないでしょ?だからこのツタに触っても無駄なんだ」



伸ばした右手があと少しでツタの根本に触れるといったところ、地面から生えてきた細いツタに絡まれる。


そんな細いツタは、手に触れた瞬間、まるで塵となるように消えてしまい、手の動きを止めるに至らない。



「アンよお、無駄かどうかなんて、やってみなくちゃ分からないぜ」



威勢の良い言葉と共に、力無き人差し指はゆっくりとツタの方へと伸びていき... そのツタに触れる。



「やった!」



だが触れた所箇所からほんの一部、握りこぶしくらいの量しか削り取れない。


丸太のような太さのツタからすると微々たる量だ。



「ふふふ、やっぱり無駄だねタイランお姉ちゃん」


「... 悪い事は言わないぜアン、今すぐそこから飛び降りな」



すると茶髪の少女はあっけに取られたような顔を浮かべ...



「ふ、ふふふ... ふふふ」



思い切り笑い出した。



「タイランお姉ちゃん!これはゲームで、タイランお姉ちゃんは今、負けたんだよ」



茶髪の少女が杖を振ると、寝そべった大剣持ちの少女を囲むように何本ものツタが生える。



「魔王様が、女神様が言ったんだ!これは勇者一行を殺しちゃうゲームなんだって。だから潔く負けを認めて?大丈夫、タイランお姉ちゃんも死霊になれるよ!」


「まだ分からねえのかアン?早く飛び降りた方がいいぜ?」



笑顔を保ったまま、地面を見下ろす。この野太いツタが倒れる気配も、地上の二人が動く気配もない。



「アン、俺たちの勝ちだ」


「っ!?」



ブシュウゥゥゥッ!!


突如、茶髪の少女の背後、野太いツタのてっぺんから、勢いよく緑色に濁った水が大量に噴き出す。それはまるでひっくり返した滝のような勢いで、少女の背中を濡らし、押し出す。


噴き出している水からは湯けむりのようなものが上がっており、それが相当熱いものであることが分かる。そんな地面に向かって落ちる水滴は太陽の光を反射し、小さな虹を映し出す。


その光景に、先ほどまで強張った表情を浮かべていた茶髪の少女は、自然な笑みをこぼした。



「あっつーーい!!」


「よっしゃ行くぜアン!」



大剣持ちの少女は逆立ちをするように両手で立ち上がり、片方の手で地面を思い切り殴り跳躍する。スカートを派手にはためかせながら落下してくる茶髪の少女に向かっているようだ。


そんな大剣持ちの少女に向かって、幾本もの細いツタが伸びていくが... そのツタには勢いがなく、その上少女の腕や足に触れた瞬間に塵となって消えてしまう。



「捕まえたぜ、アン」


「ふふ、ふふふ、お湯のせいでツタの成長が遅いね。でもねタイランお姉ちゃん」



落ちて来る少女は、お姫様だっこの要領で暖かく迎えられる。


そんな微笑ましい光景だったが... なぜか茶髪の少女は不敵に微笑む。



「一箇所だけお湯がかかっていない所があるよ」


「なに!?」



瞬間、自由落下を始めた二人の真下の地面から、何本ものツタが生え、ロープを作るように編まれ始める。


大剣持ちの少女が伏せていた地は、まだ濡れていなかった。



「おいアン、まだやるつもりか!?」


「ふふふ」



長めのロープはくるくると円状に巻かれ、皿の形になる。



「冗談だよ、私の負けだからね」



二人は速度を上げ落下していくが、皿状のツタがバネのように弾力良く受け止め... 先ほどとは打って変わって、穏やかな空気に切り替わったのが分かる。



「おう!これで骨折しなくて済むな!」


「さっきのお湯は... 茎の中の水分に運動エネルギーを与えて、温度も上げたの?」


「おう!... へっぽこがよお、生意気にも変な質問をしてきやがったから試してみたぜ。おかげで人差し指を盛大にやけどしちまったよ」



皿状のツタは、二人を乗せたままゆっくりと降下していき... 地面に到達すると紐解かれ、二人を地面におろす。



「はああああぁぁ... 」


「お疲れ様、タイランお姉ちゃん」


「おう!足のしびれもひでえし、スズに火傷と足の傷も治してもらわねえとな... 」



大剣持ちの少女は、濡れている地面を気にせず茶髪の少女の隣で仰向けになり、脱力する。そんな二人に、メイド服の少女が近づく。



「タイランお嬢様、アン様、お疲れ様です。お二方とも、見事な能力でした」


「うん、メイお姉ちゃんも凄い剣捌きだったね。タイランお姉ちゃんも... あれ、寝ちゃってる」


「安心なされたのかと存じます」


「そうなんだね... お姉ちゃん達、やっぱり良い人だ!こんなになるまで私の遊びに最後まで付き合ってくれたんだもん。すごく楽しかったよ!」



無邪気な言い方に、メイド服の少女は軽く微笑む。


だが、そんな落ち着いた空気も一時で、メイド服の少女は何かに気が付く。



「アン様、お身体から... 」


「え?」



少女の両腕右足の包帯から、何か赤黒い霧のようなものが漏れていた。


そんな奇妙な光景だったが、少女は気にしていないと言った様子だ。



「ゲームも終わったし、未練が無くなっちゃったみたいだね」


「スズ様やリリー様、勇者様にご挨拶されますか?」



その言葉に少女は人差し指を立て...



「こういう別れはひっそりと、潔くやるのが格好良いってスズお姉ちゃんが言ってた!」


「さようでございますか。アン様、短い間ではございましたが、タイランお嬢様も皆様も、とても楽しそうにしておられました」


「ふふふ、私もだよ。それじゃあね」



メイド服の少女は、深くお辞儀をし、茶髪の少女は笑顔を返す。


後は、少女は去って行くだけ... と、二人は思っていたのだが...


ドンッ... ドンッ...



「タイランンッ!メイイィィィッ!そっちはどんな状況ですかああぁぁぁっっ!!??」



森の奥の方からなにか巨大なものがぶつかる音が二発、そしてちんちくりんな少女の声が響き、穏やかな場を乱す。


周囲に発散していくはずの赤黒い霧のようなものは、少女の包帯に向かって逆戻りし、一瞬で体内に吸い込まれた。



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