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勇者(俺)いらなくね?  作者: 弱力粉
第三章(下)
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四天王戦Anotherーその4

前回のあらすじ、リリー対カズ王子に俺が乱入。



「っ!?」



カズ王子は自分の左腕を確認すると、急いでローブの位置をずらそうとする。


だがいち早くリリーがナイフを投げ、カズ王子の動きを牽制する。


ならばと今度は左腕を後ろに隠そうと体を捻ろうとするが、またもやリリーがナイフを投げ、カズ王子の動きを牽制する。



「駄目です、左腕を動かさないでください。今からあなたに近づき、確実に左腕にナイフを刺します。両腕を負傷させてしまえばあなたに遅れを取ることはありません」



リリーは構えを解き、ナイフを手にしたまま堂々と歩き始める。


そ、そうか... 能力を使って左腕の動きを予測出来るのか。



「い、いやだなあリリー、とても暴力的じゃないか。この僕に、ナイフを刺そうっていうのかい?」



リリーは歩みを止めない。半目でしっかりとカズ王子を見据えている。



「リリー、最後の確認だ。君は、スズが王女になることを、拒まないのかい?」



リリーの動きは変わらない。淡々と距離を詰め... カズ王子の蹴りの間合い一歩手前で止まる。


両者ともに向かい合い、そのまま一歩も動かない。


互いが互いの出方を伺っているようだ。



「っ!」



そんな中先に動いたのはカズ王子だ。


どういう訳か俺に手を伸ばしてくる。



「がっ!」



当然リリーはそれを許さない。カズ王子の左腕にナイフを命中させる。



「うぐっ!」



そのまま、容赦なく二本目のナイフを左肩に命中させる。


そしてうろたえるカズ王子に向かって歩み寄り...



「ぐがっ... !」



目にも止まらない速さで顎に膝蹴りを食らわせる。


その衝撃にカズ王子は思い切りのけ反り、地面にぐったりと倒れる。


ほんの一瞬の、数秒もかからないうちの決着だった。


は、ははは... 良かった... リリーが強くて良かった...



「良い大人なんですから、妹離れしてください」



... 俺は、思ったことを顔に出さない。



「ぷっはあああぁぁーっ!」



カズ王子がビクとも動かないのを確認すると、リリーはとんでもなく大きなため息をつき、後ろに倒れ込む。



「あ、ありがとうリリー、本当に助かった... 迷惑をかけてすまない!」



すると寝そべったままのリリーは、寝そべったままの俺に目を向け... ゆっくりと青空を仰ぐ。


戦いで疲れているのだろうか、しばらく沈黙が続く。



「... 黙ってください。そんなことよりも、メイから水筒を預かっているでしょう。こっちに投げてください」


「あ、ああ」



怒っているのか判断がつきづらいな... まだ痛みは残るが、ひとまずリリーが無事に勝てたことを喜ぼう。


少し気まずい空気の中、リリーは起き上がって地面に座り、水筒の水で顔を洗う。そしてポケットからハンカチを取り出し、顔を拭く。



「う、うーん... 」



そんな落ち着いた時も束の間。カズ王子がうめき声を発し、起き上がろうとする。するとカズ王子が体勢を立て直す前に、リリーがナイフを投げ... カズ王子の真っ白の仮面を真っ二つに割る。


くっ... ちょっと疲れたイケメンの顔だ...


カズ王子は負傷しているはずの両腕を重々しく上げ、降参のポーズを取る。


そしてリリーはカズ王子と俺に近寄り...



「ちょっと持っててください。後で洗って返さないといけないので、もう汚さないでくださいね」



水筒とスズのハンカチを渡してくる。



「私の勝ちですね。どうせスズを起こす薬も持っているのでしょう?すぐに目を治療してもらいたいので、出してください」


「... そうだね、君の勝ちだ、リリー。僕の傷もついでに治してもらって良いかい?」



カズ王子はニコッと微笑み、内側のポケットから、なにやら白い粉の入った試験管を取り出す。



「タイランと合流して、アンを捕まえてからです。後でスズに怒ってもらいますからね」


「... どうやら、僕の命もここまでみたいだね」



それは冗談で言っているのか?



「はい、本物の薬のようですね。やはり顔が見える見えないでは大きく違ってきます」


「とても強い能力だね」


「では更に強力にするために、ローブとジャケット、手袋も取ってください」



カズ王子から衣類を剥ぎ取ると、リリーは茂みの中に入っていく。


え... カズ王子を置いていって良いのか!?俺と二人きりにして危なくないのか!?



「勇者君、僕はリリーを、なめていたのかもしれないね」


「え... ?あ、はい。そうなん... ですかね」



膝を抱えるように座り、いまだに横たわっている俺に話しかけてくるカズ王子。



「でもまあ、リリーと戦うことは、アンから出された条件の一つだったからね... 」


「は、はあ... 」


「リリーを倒せなければ、僕がスズの代わりに王になるだなんて、無理ってことかな」


「へ、へえ... 」



王になる?もしかしてこの騒動、カズ王子が王様になりたかった事が原因なのか?細かい事情は良く分からないが... 愚痴をこぼす前に、ひとまず殴ったことは謝って欲しいかな...


少しすると、こんな気まずい空気をぶち壊すように、リリーが茂みから現れる。眠ってぐったりしているスズを引きずってきているようだ。



「さて、スズを起こしますね... へっぽこ、何かあったんですか?」


「い、いやなんでもない。痛みももう引いてきた」



怪訝そうな顔を浮かべるリリーだったが... 考えても無駄だという風にスズの方に向き直る。そしてスズの上体を起こし、試験管のコルクを抜く。



「ったく、手間だけかけさせてくれましたね、カズ」


「... 申し訳ないねリリー。でも、楽しい物語になっただろう?」



そして悪態をつくリリーが試験管をスズの顔に近づけると...



「っ... !!」



なぜか... スズが、リリーに拳を振るった?


拳を振るう予備動作も、振るう過程も見えなかった。ただ視認し、理解したのは、スズが拳を振るったという事実のみ。それ以外の全てがとてつもなく速く、無駄のない動きだった。



「... は、ははははっっ!!」



リリーは紙一重で首を傾けたのか、それとも拳が届く前に後ろに飛んだのか、大きく後ろに跳躍してスズから距離を取っていた。



「カズ!この薬はなんですか!?」


「あれ... もしかして僕、ジャケットのポケットから薬を出してしまったのかい... 」


「そうですよ、まさかこれ... 」



スズがふらっと立ち上がり... 顎を突き出し、離れた所にいるリリーを見据えていた。その黄色い目は少し光っているようで、リリーのあちらこちらを眺めるよう、落ち着きなく揺れていた。



「それ... 麻薬だよ」


「っち、昨日私がコルクを抜いたときに、スズも少し嗅いでしまっていたんですね...」


「だが、匂いをほんの少し嗅いだだけでは効果は出ないはずだ」



じゃ、じゃあスズが今リリーを殴った理由って...



「プラシーボ効果です!」


「はあああっっ!?」



スズは相も変わらずリリーをなめ回すように見ているのに、リリーは全く動じず、スズの出方を伺っている。



「で、でもここにはカズ王子とリリーがいるんだし、いくらスズが強いと言っても、二人がかりなら止められるんじゃ... 」



するとリリーはなぜかスズから目を離し、俺を見る。カズ王子もなぜか同様の動きをする。



「お、俺... 何か変な事言ったか?」


「例え私たちが万全の状態だったとして... 」


「... 僕たち二人が束になっても、スズに勝つことは不可能だ」



えっ... それってめちゃくちゃヤバいんじゃ...



「はあああはあ、あははははは!!!」



現状を理解した俺に一切気を使うことなく、リリーとの距離を詰めるため、スズは重い一歩を、踏み出す。


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