四天王戦ーその1
前回のあらすじ、タイランとメイ対アン、リリー対カズ王子。
「じゃあゲーム再開だね、お姉ちゃん達!」
アンの言葉に、タイランが浅く頷く。するとタイランは素早くスカートからなにかを取り出し、それを指で弾く。
「それっ!」
次の瞬間、アンが杖を一振りしたかと思うと、鋭い音が響くと同時にアンの目の前に細いツタが生え、そこになにかが埋まる。
あれは... ボタンか?荷車の上で二人目の四天王に放ったそれとは比べものにならないほどの威力に見えたが、それを受け止められてしまうだなんて...
そしてボタンが受け止められたのを確認すると、タイランは走り出し、アンを真っ二つにする勢いで大剣を横なぎに振る。
「っはあ!」
だが、いち早くアンの足元から、前世で見たふきの葉のようなものが生え、アンを押し上げる。
それを予測してかは分からないが、後ろにいたメイはタイランの背中を土台に飛び上がり、上ったアンに切りかかる。
「ふふふっ」
「かっ...」
だが、またアンが杖を一振りさせると太いツタがメイの腹をとらえ、メイの体を周りの木よりも高く持ち上げる。
な、なんだあの勢いは... メイは大丈夫なのか!?
「アン、いくらメイが丈夫だからって酷いじゃない、か!」
タイランは片手で思い切り大剣を前に振り、そのまま上へ、後ろへと一回転させる。
アンを狙ったはずのその動きは、メイを持ちあげているツタも切ったようで、その拍子にメイも落下し始める。肝心のアンはというと...
「きゃはっ!大胆なのに器用な動きだね、タイランお姉ちゃん」
自身の後ろから生えてきたツタに引っ張られ、大剣をかわしていた。ふきの葉は縦半分に真っ二つに切られたようで、情けなく地面に落ちる。
追い打ちをかけるよう、タイランは一歩踏み出し、先ほどと同じように、だが逆に回転させるように大剣を振るう。後ろから上へ、前の方へと大きく振るが... ツタに引っ張られているアンには届かず、大剣は地面に刺さる。
そんな地面に刺さった大剣を手放し、きびすを返して両手を前に出し、急いでヘッドスライディングをする。
ほどなくして、勢いよく落ちてきたメイは、お姫様だっこの要領でタイランの両腕に受け止められる。
一瞬だが、メイの頬が赤くなった気がする...
ドンッ...
同時に、何か重いものが俺の近くに落ちる音が響く。
メイの剣だ。メイが空中で剣を離し、枝を通り抜けて落ちてきたのか!
「ありがとうございますタイランお嬢様。ですが... 」
アンがにやりと笑った。
するとなぜかタイランはなにかに引っ張られるようにして、アンの方向に地面を引きずられ... 片足から空中に逆さ吊りになる。
スライディングした時にブーツにツタが絡められていたんだ。
「タイランお嬢様!」
メイが追いかけようとするが、メイの足にもツタが絡んでいるようで、身動きが取れない。
やばい... メイの剣を拾って届けるか?けれども俺にもツタが絡んできたら絶対に動けないし...
「ふふふ、タイランお姉ちゃんも、メイお姉ちゃんも捕まえたよ、あとここにいるのはへっぽこのお兄ちゃんだけだね。ああ、私の能力が強すぎるのかな?だって、パルスお爺ちゃんを倒したお姉ちゃんたちを、こんなにも簡単に捕まえることができるだなんて... 」
杖を持っていない方の手を口に当てながら、アンは心酔したように話す。
メイの顔は見えないが、タイランにはまだいつもの気楽な顔が浮かんでいるように見える。
だ、駄目なのか?ツタから抜け出すことは出来ないのか?
「すごいなアン。確かに俺の能力で直肌に触れていないものは消せねえ、だからブーツにツタを絡めたのはナイスアイデアだぜ。だがよおアン、アンの能力は弱っちいぜ。今ここに、弱点がしっかり見えたからな」
宙づりのタイランが腕を組み、気分を良くしたアンを制する。
どういうことだ?ツタの威力は凄まじいものだし、おまけに素早い。ここに弱点なんて...
「へっぽこ、構わずメイの剣を拾って投げろ!お前は勇者なんだろ、それくらい成し遂げてみせろ!」
成し遂げてみせろって、そんな無茶言われても...
ひとまず腰の短剣を抜き、成し遂げろという言葉から、無意識に剣に視線を向けると... ツタが生えている。剣に触れさせないよう、十数本のツタが、剣を囲むようにうねうねとうごめいている。
だがなんだ?一本一本のツタが細く、弱々しいような...
「アンよお、お前がメイを押し上げた時のあのツタ、すさまじいものだったよな。対して今俺とメイを掴んでいるこのツタはなんだ?なぜさっきメイを攻撃したときみたいに、勢いのあるツタじゃないんだ?」
「それ!」
答えるようにアンは杖を振る。その瞬間凄まじい速度でツタが地面から生え、タイランの顔を狙うが、間一髪、タイランの右手がそれを掴み、消す。
ひとまずツタの攻撃は効かないとわかったのか、アンは笑顔のまま、木の影にいる俺の方をジッと見つめている。
まさか、ツタの一本一本に個体差がある?でもメイの剣を覆うツタは全て弱々しく見えるし...
「答えはてめえとの距離だぜ!遠く離れりゃツタの力は弱くなるんだ!でなきゃ、わざわざ足にツタを絡めるなんてことはせずに、ツタで俺たちを攻撃するはずだもんな!早くしやがれへっぽこ!」
「う、うおおお!!」
タイランの怒号に後押しされ、後先考えずに短剣をツタに突き立てる。
タイランの予想通りなら、アンから遠く離れたこのツタは見かけ通り弱いはず!
ツタに突き立てた短剣はあっさりとツタを割き、勢いあまって地面にめりこむ。そのまま他のツタも断ち切るように何度も短剣を振り下ろすと、あっという間にメイの剣に触れる事が出来るようになる。
タイランの言うとおりだ、このツタは弱い!
「投げろ!」
不思議と、タイランの言葉に行動力と勇気が湧いてくる。空気を大きく震わす力強い言葉には、きっと何事も上手くいくという安心感が芽生えさせる力がある気がする。
この、重い、投げにくい形の剣を、運動神経の悪い俺でもメイに向かって投げられそうな、そんな自信がどこからか湧いてくる。
「うおおおおおりゃああっ!届けええぇぇ!!」
一本の線だ。メイと俺を繋ぐ真っ直ぐな線を、剣は一切ぶれる事無く進んでいく。
だが、現実は非情なもので....
「そーれ!」
アンが杖を一振りすると同時に、地面から勢いよく細いツタが生え、剣の柄の部分をかすめる。それは剣の軌道を逸らすのに十分だった。
お、俺...
「良いんだよ勇者!これでも良いんだよおっ!!」
俯きかけた俺の顔は、タイランの言葉で静止する。
よく見ると、強風がメイの... タイランの方に吹き乱れ、剣の軌道は大幅に修正される。
タイランが空気を消して、剣の軌道を変えたのか!?メイが剣を掴んだぞ!
「へへ、ちょっと大量の空気を消しちまったがよ。これで良いんだぜ」
メイはその剣を構え、自身の足に絡まったツタを器用に切り刻む。そしてタイランは宙づりのままなのに、なぜかアンに向かって走り出す。
「メイ!先にタイランを助けなくて良いのか?」
「へへ、脳みそが足りねえなあへっぽこ」
瞬間、不自然にタイランの足に絡んでいたツタが切れ、タイランはアクロバティックに両手で着地し、身体を半回転させて地面に足を付け、メイの背後を取る。
よく見ると、タイランが裸足になっている。
なるほど... 直肌に触れていないと消せないのなら、靴下やブーツごとツタを消せば良いと。
「そして、さっきは不意を喰らっちまったが、アンの近くの地面から強いツタが生えてくるって分かってりゃあよ、メイが足元に気を付け、俺がメイの背後を守れば... アン、てめえにたどり着くことは容易いぜ!」
メイはアンに着々と近づいていく。途中地面から勢いよく生えてくるツタも、右へ左へと進行方向を変え、全て避ける。
その様子にアンの口角はだんだんと下がっていく。
「行けえっメイ!」
もうアンはメイの剣の間合いにいる!
だが、メイが剣を振るう瞬間。アンは下がった口角を一気にグイっと持ち上げる。
それは満面の笑みで、とても満足している様子だった。
「それ!」
剣が届く前、いち早くアンは杖を振る。するとすさまじい地響きと共に、地面から勢いよく野太いツタが生えてくる。
それはアンの身体を、周りの木よりも高く持ち上げる。当然メイの剣は、その丸太よりも野太いツタに食い込み、アンには届かない。
「正解だよタイランお姉ちゃん。遠く離れたところのツタは弱いし、おまけに今へっぽこのお兄ちゃんがいるような、光が刺さらない場所ではツタは操りにくいんだ。」
ツタの先の、一枚の大きな葉っぱの上からアンは俺たちを見下ろし、大きく杖を振るう。
「さあお姉ちゃんたち、第二回戦の開始だよ!」