四天王の所に行こう!
前回のあらすじ、監視台に到着。
カズ王子を荷車に置き去りに、俺たちは監視台の周りを各々探索していた。
「リリー!全く動けないんだ、助けてくれないかい!」
監視台というよりかは、石で出来た塔のような感じだな。階段が螺旋状にぐるぐると塔の周りに付いていて、登ったら王都とか見えそうな高さだ。
タイランも同じことを考えていたようで、階段の一段目を踏み出す。
「タイラン!階段を上る時は気を付けるんだよ!崩れやすくなっているからね」
動きが制限された中でも塔の方を見ていたのか、カズ王子が荷車から注意する。
「なるほど。カズがどうやって私達を街の外で襲えたのか気になっていましたが、この塔に登って私達を見ていたようですね」
「へえ、そんな偶然あるんだな」
店員の女の子の口ぶりから察するに、結構な頻度でここに来ていたみたいだけれど、タイミング良く会わなかったのかな。
階段のところで俺とリリーが待機していると、塔の周りを一周回ったスズとメイが近づいてくる。
「ま、まだ早すぎたのでしょうか... 魔獣はいませんでした」
「そうですか、あとは塔の上ですね」
リリーが見上げた先につられて目を向けると、タイランがすでに半分程塔を登っていた。
「タイラン、今のところどんな感じですか?」
「うーん、森が結構な大きさだぜ。後、遠くに王都の城が見える」
「景色ではなく、魔獣がいるかどうかを聞いているのですが」
多分だけど、アンは森の中にいそうだ。植物を操るアンからしたら、自分の庭のようなものだろうし。
「うんにゃ、とりあえずてっぺんまで行ってみるぜ」
「はい、お願いします」
来るのが早すぎたというのならしばらく待ちそうだし、俺は階段のところに腰かけてひと息つくか... タイランが上を確認したら荷車に戻ろう。
「う、うわああ!!大変だぞリリー!」
見上げると、タイランが一番上までたどり着いたようで、なにかに驚いたような悲鳴を上げる。
な、なんだ?まさか魔獣か?
「景色がめっちゃ綺麗だぜ!」
「... 」
ま、紛らわしいな...
気が抜け、ほっと落ち着くと...
何か足に違和感。
風は吹いていないはずなのに、ズボンの、すその辺りが不自然に動き出す。
「何もないのならそれで良いですよ。下におりて魔獣が来るのを待ちましょう」
気持ち悪いので少し両足を横にずらすが... すその動きは止まらない。それどころか、なにかが足に触れたのが分かる。
なんだこれ?
「リリー達も登ってこいよ!気持ちが良いぜ!」
違和感の正体を確認するために足を広げ、顔を下におろすと... 影の中、ピクピクと動くなにかが伺える。
冷蔵庫の下のゴキブリを見た時のような、暗闇の中の光るふくろうやコウモリの目を見た時のような、そんな不気味さが背筋を冷やす。
… 俺、野生のふくろうもコウモリも見たこと無いけれど。
「結構です。早く下りてください」
そしてそれは、なんの前触れもなく、俺の開いた両足の隙間から飛び出す。
「ぐ、ぐわあああああ!?」
反射的に目を瞑り、両手をジタバタと動かし、本能的に顔だけは守ろうとしていた。
だが、高まった警戒心をあざ笑うよう、奇妙な事はなにも起こらず...
「リ、リリーさん。あれは... 」
「はい、来たようですね」
ゆっくり目を開けると... 視界に入ってくるのは白くモコモコとしたウサギで、それは丸まったように座り、鼻をピクピクさせながら、辺りを観察しているようだった。
「ウ、ウサギ?リリー、見たところ普通のウサギだが、これが魔獣なのか?」
「はい、スズは感じ取ってると思いますが、人間の魂が体内に入り込んだ、れっきとした魔獣です」
なんというかこのウサギ... 柔らかい目をしていて、時折耳をぴくっと動かしたり、辺りを見回す仕草が... めちゃくちゃ可愛いな。
「おおお、さすがアンの魔獣だな!良く手入れされてるぜ」
と言いながらタイランがウサギに手を伸ばそうとするが... ちょうど触れそうになった頃、ウサギは瞬時にタイランの手の方を向く。
「っ... 」
タイランも驚いたようで、ウサギと共に静止する。
一拍置いてタイランが再び手を動かそうとすると...
「うおおっ!?」
「お気を付けくださいませ、タイランお嬢様」
ウサギは急に目を赤く光らせたかと思うと、不揃いな牙をタイランに向ける。
「タイラン、一応は魔獣ですよ」
間一髪でタイランが手を引っ込め、その牙をかわすと、ウサギは再び愛くるしい姿に戻り、鼻をピクピクさせながら辺りを見回す。
すると、ぴょこ、ぴょこ、と森の方へとウサギ跳びで進んでいく。
「案内をしてくれるみたいですね。さあ皆、ついていきますよ!」
可愛らしい見た目をしてるかと思ったら、しっかり魔獣なところは魔獣なんだな... 前に相手をさせられた狼の魔獣と同じように凶暴だ。
「な、なあスズ?身体を治してくれないか?まさか僕を置いてはいかないよね!?」
荷車からカズ王子の声が聞こえてくるが... リリーもスズも、誰一人として反応せず、黙ってウサギについていく。
え、マジで置いていくの?
**********
あの後、身体を治療してもらったカズ王子は、タイランに羽交い絞めされながら歩いている。両者歩きずらそうにしていて、少々コミカルな動きだ。
「いやあカズ、相も変わらずスズが大好きだな」
「君たちが異常なのだよ。物語への執着心、尋常ではない圧倒的な強さ、整った顔、仕草。どれをとっても完璧ではないか!」
なお、物語が絡むと性格がいかれてしまいます。更に、お酒の匂いを嗅いだだけで酔っぱらって暴れまわってしまいます。
「ええそうですね、カズ王子殿下。誠に失礼かとは存じますが、私が両足を折り、カズ王子殿下を担いで歩いてもよろしいでしょうか」
ひっ、メイの目が怖い... タイランとカズ王子が密着していることに怒っているのか...
「やはり僕達は兄妹だねスズ!こんなかわい子ちゃんのような異性に言い寄られるところもそっくりだ!」
「おいおい、メイに適当な事抜かしてんじゃねえぞカズ!てめえのようなド変態にメイが惚れるかってんだ」
なぜかタイランが頼もしく見える... でもこれで頬を赤らめないでくださいメイさん。
するとその言葉に先頭を行くリリーから不穏な音が聞こえ...
「チッ... 」
なぜか舌打ちだ。
「お、おいどうしたんだリリー、なにかあったのか?」
そしてなぜか睨まれる。
「いいえ?少し、スズに言い寄る異性、あの婚約者の事を考えていただけですよ?」
こ、婚約者?でもクルミ王子はすでに婚約破棄をしていて...
「とにかく暴れるんじゃねえぞカズ。この中では、スズの次に俺が一番力持ちなんだからな!」
「え!?タイランが一番じゃないのか?」
てっきり力ではタイランが一番で、それがタイランの立ち位置だと思っていたんだが...
「ああ!俺が能力を使ってもスズが一番だ!」
するとスズは少し顔を俯け、頬を赤らめてしまう。
マジか、回復役であるスズが一番だったのか...
**********
どれくらい歩いただろうか。街の建物も、先ほどの塔も、周りの木が高すぎてもう見えなくなっている。そろそろ疲れてきたのだが、当たり前のようにウサギも皆もガツガツと進んでいく。
少し休憩していきませんか,..
すると思いが届いたのか、リリーは腕で俺たちの進行を制し、立ち止まる。だがウサギは構わずぴょこぴょこと跳ねていって、見失いそうになるかもと思うが、そんな心配もいらないようだ。
俺たちの視界の先には、なぜかその場所だけ木が生えていない、太陽の光が綺麗に差し込んでいる場所がある。
綺麗な花があちらこちらに生えていて、切り株がまばらに配置されている。まるで人の手が加えられたような、そんな場所だった。
そんな切り株の一つ、どこかで見た杖がそばに置いてある切り株に、こちらに背を向けて座るのは、長い茶髪を下ろし、上品な赤い服を纏った可愛らしい少女だ。
一見すると微笑ましい光景に見えるが、その少女からはとある不思議な点が見受けられ、見た者をドキッとさせる。
少女の左足と顔を除き、肌を一切見せないよう包帯が巻かれており、包帯が巻かれていない左足からは、むき出しになった純度百パーセントの骨が見える。
そんな奇妙な少女は何をするわけでもなく、身体を揺らしながら日の光を楽しんでいるようだった。
「当たりですね。アンです」
「おお、リリーの言う通り髪の色が変わっているな」
どんどん進んでいくウサギは、とうとうアンの足元に着き、後ろ足だけで身体を支えながら前足をアンの方へ伸ばす。
それにアンが気づいたようで、ウサギを両手で抱きあげ、自分の顔よりも高く持ち、見上げる。
「ふふふ、案内役ご苦労様。お昼にまた美味しいたんぽぽをあげるね」
ウサギに話しかけたかと思うと、今度は膝の上に座らせ、背中を撫で始める。
「タイランはカズを離して、一応大剣を抜いておいてください。スズとタイランは前に、私達は後ろに下がりますよ」
小声で指示を出すリリー。それに従うよう、俺たちも配置につく。
「でも先に、お客様の相手をしてからだね。待っていてくれるかな?」
当然ウサギは何も言わないが、鼻をひくひくさせながらアンの顔をジッと見ているようだ。
「ふふふ、ありがとう。終わるまで皆と遊んでいて良いよ」
ウサギが地面におりると、真っ直ぐに茂みの中に突っ込み、姿を消す。
ア、アンが振り返るぞ。このままで良いのかリリー?
リリーの顔を伺うが... 眉を潜め、スズの背後にぴったりと付くカズ王子に苛立っている様。
カズ王子を連れて来るべきでは無かったな...
「さて... 皆!ここまで来てくれてありがとうね!」
アンのその言葉に俺たちは驚く。アンはまだ振り向いていないのに、俺たちの存在を肯定するような口ぶりをしていたからだ。
「ようアン!久しぶりだな!能力を使った遊びって、何がしたいんだよ?」
先に口を開いたのはタイランだ。大剣を構えたまま、まるで友達を遊びに誘うかのような、そんな言い方をする。
その言葉に応えるよう、アンは座ったまま身体ごと振り向かせ...
「タイランお姉ちゃん!」
ニコッと笑う。
相変わらずアンの目は髪で隠れ、口からしか表情を伺う事が出来ない。
「実はもう、遊びは始まっていたんだよ?」」
始まっていた?
すると両ひざに置いていた手で口を覆うようにし、もごもごとしたかと思うと... べえっと舌を思い切り出し、両手を大きく広げてそれを強調させる。
その舌にはなにやら光る物が乗っかっていて...
「アン、何だそれは?試験管みたいじゃねえか」
し、試験管?
俺の思考が追いつく前に、リリーはナイフを抜き...
それをカズ王子に投げる。
カキーン
「さすがにリリーはすぐに気付くよね」
カズ王子は振り返り、いつの間にか剣でナイフを弾いたようだ。その剣の腕にも驚かされるが、なによりも目を引くものがあり...
それは、右半分は笑顔、もう半分は悲しそうな顔が描かれた真っ白なお面をかぶり、空いている腕に、全身を脱力させたスズを抱えていたことだ。
「やっぱり王子なんて、どいつもこいつもろくでもないですね」
するとカズ王子は剣を持ったまま右腕を広げ、肩をすくめておどけたポーズをとる。
ど、どういう事だ... ?
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姿が変わったアンを描いてみた!
作者の画力では表せないドレスを着て、作者の都合で割愛された杖を持っています。




