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勇者(俺)いらなくね?  作者: 弱力粉
第三章(下)
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監視台へ行こう!

顔を洗ってから部屋に戻ると、リリーがちょうど起きてきたところのようで、誰もいない俺のベッドの上の空気を蹴っていた。


そして開口一番。



「おいリリー!クルミ王子がスズと婚約破棄するらしいぞ!」



するとリリーはぴくっと身体を震わせてこちらを向くが... 表情は一切変えず、半目でのそのそとこちらに歩いてくる。そしてそのまま俺の懐にポンと体をぶつけると...



「ぐふっ!?」



俺の頬を殴ってきた。


当然俺はしりもちをつく。



「な、なにするんだよ!?せっかく良い知らせを持ってきたの... 」


「痛いですか?」



いまだに眠そうな表情でこちらを見下ろすリリー。



「え... はい、とても」



するとリリーはピクッと身体を震わせ... 眠そうな顔のまま口角を上げる。


しまった... 寝起きのリリーに絡むんじゃなかった... なにか勘違いして俺の事を殴ったのか?



「なら夢では無さそうですね。口をゆすいできます」



と、言いたい事だけを言い、のそのそと部屋から出て行ってしまうリリー。


自分の身体を使えよおっ!!



**********



「やあ勇者君!昨日はお楽しみだったかい?」



一階の食堂に下りると、カズ王子だけがすでに準備を整えていて席についていた。



「ええ、とても楽しめましたよ。クルミさんとの時間」


「はははっ、それは嘘だね。クルミ王子殿下にはスズと同じようなところがあるから、たっぷりと異世界の話を絞りとられたってところだろ」



くっ、クルミ王子の本性も、昨日の出来事もバレてる。



「お見通しでしたか... 」


「君の考えている事は読みやすいからね、初めて会った時もそうだった。手練れを手練れだと見抜けない、敵意を敵意だと見抜けないのは致命的だ。君は、僕をただの頭のおかしい、顔の良い男だとしか思わなかった」



敵意?こいつまさか、最初に会った時に俺を襲おうとしていたのか?



「もちろんこんなこと、普通は出来なくて良い。スズもタイランも、人を読むのは得意ではないからね。だが、ならなぜ、僕は君にこんなことを話していると思う?」


「さ、さあ?」



すると、両腕が動けばおどけたポーズを取るような仕草と笑顔を見せ...



「君がとても弱いからだ。圧倒的な力があれば、敵を敵だと認識出来なかったとしても、不意をつかれたとしても、相手をねじ伏せる事が出来る。だが弱者にはそれが出来ない。だから敵を敵だといち早く見抜き、先手を打たなければならないのさ」



手芸用品店での出来事といい、やっぱりカズ王子は俺が弱くて能力が発動出来ないことを見抜いているんだな...



「まあもちろん。君の能力が発動すれば、こんな事を言う必要も無いんだがね」



そうだな... 日本でただの一般人として育ってきた俺に、カズ王子のように人の考えている事を当てたり、スズのような力や能力が無いから俺はとことん弱いと、そう言っているのだろう。


するとなぜかカズ王子は驚いたように目を見開き...


え、俺なんか変な事した?



「あれ、勇者君は本当に能力が使えないのか」



あ、カズ王子の中ではまだそれは不明だったのか... 今更どうってことはないが、本格的にばれてしまったな...



「おはようございます勇者様、カズ王子殿下」


「おはよう」


「おはようかわい子ちゃん」



お、メイだ、珍しくタイランが一緒じゃない。



「タイランお嬢様も私も準備は整っておりますので、後はリリー様とスズ様ですね」



メイは自分の腰の剣を見ながら言う。


あれ、そういえばメイの武器ってハンマーだったんじゃ... 今回も荷車に積んであったし、使わないのかな?



「今日も剣なんだな」


「え?はい、ハンマーは持ち運びに適していませんので、剣を使います。それに街中であれを引きづって歩くと、とても目立ってしまいますので」



言った通りなんだが、それならそれでハンマーを持ってくるなよと言いたい。




**********



とっとと朝ごはんを済ませ、六人でぞろぞろと街はずれの監視台まで向かう。宿の人の話を聞く限り、歩いて三十分くらいの距離だそうなので、必要最低限のものだけ乗せ、タイランの引く荷車で向かう。


荷車で向かうといっても、魔獣が俺たちをどういう場所に連れていくのかが分からないということで、メイは結局ハンマーを置いていくようだった。



「スズゥ、カズ兄な、お願いがあるんだ」


「ま、また引っ付いてくるので駄目です」


「頼むよおスズ、腕が動かないせいで、朝食もしっかりとれなくてお腹ぺこぺこなんだよお」



先ほどまでの講義の時の真剣さはどこへやら。ただいま、カズ王子はスズに絶賛うざがられております。


猫をなでるような声でスズにベタベタと近づく様は... はっきりいって気持ち悪いと言わざるを得ない。



「か、監視台に着いたら治しますから、大人しくしてくれないともう片方の足も折りますよ」


「うーんつれないなあ。だがそんな怒り顔のスズも可愛いなあ... く!?」



なにやらカズ王子が急に苦痛の表情を浮かべる。どうやらなにかしらの痛みが足に走ったようで... 確認すると、見慣れたナイフが、折れていない方の足の太ももに刺さっていた。



「い、痛いじゃないかリリー。もう、二人とも照れ隠しが過ぎるね」


「次はロマンチックに心臓に刺してあげましょうか」



リリーが笑顔で語りかけると、カズ王子から離れた、スズの隣に腰を下ろす。


あ、至近距離でナイフを刺したからか、リリーの頬に血が飛んでいる。



「リリー、頬に返り血がついているぞ」


「こ、このハンカチで拭いてください、リリーさん」


「ありがとうございます、スズ... これは、中々良いものを贈ったみたいではないですか、へっぽこ」



贈ったもの?ああ、リリーがハンカチの匂いを嗅いだのか。それでアロマオイルの事を言っていると。一応スズが使ってくれているのは少し嬉しいな。



「落ち着く香りですからね... 」


「カズ兄は、スズと一緒にいるときが一番落ち着くかな」



カズ王子は無理やり話に入ってこなくて良いと思う。



「おいリリー!もうそろそろ監視台の元に着きそうだぞ!」


「はい、ありがとうございます。ここら一帯は人が少ないようなので、監視台の近くに荷車をとめてしまって良いですよ」



確かにここら辺の建物は少し寂れている感じがするな... あまり人は住んでいなさそうだ。近くに大きそうな森もあるし、


ボキッ


スズたちから目を離して辺りを観察していると、聞き覚えてはならない音が響く。見ると、スズがカズ王子の残りの左足の骨をちょうど折ったところだった。


カズ王子...

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