熱意を聞こう!
前回のあらすじ、クルミ王子はロリコンでは無かった。
「メイ、腹がいっぱいだ!もう寝ようぜ!」
「かしこまりました、タイランお嬢様」
ええ、宴もたけなわではございますが、タイランが満腹になり、カズ王子の両腕右足あばらの骨が折れ、リリーが酔いつぶれたところでお開きとさせていただきます。
「へへへえへへえへえ... 美味しいですねえこれえ、へっぽこお!これもっと持ってきなさあい!」
「じゃあスズ、カズさん、クルミさん、そろそろリリーが限界みたいなので寝室まで連れて行きますね」
大丈夫、夕方馬乗りになられた時に気づいた。こんな状況でヒートアップするわけがない。
ただ心配なのは、筋力的に担いでいけるかどうか...
「ほらリリー、明日の事もあるんだからもう寝ようぜ」
「うるさいですねえ。へっぽこのくせに生意気ですよお」
とりあえずリリーの腕を俺の肩に回して... あれ?向かいに座ってるクルミ王子が、手を伸ばしてこっちを見てる?
「どうしたんですか、クルミさん?」
「い、いや、あの... スズさんにお任せしてはどうでしょう?女性同士ですし、力強いスズさんの方が、階段で事故が無くて良いかと」
... うん、確かにそうだな。わざわざおかしなリスクを犯すよりも、最初からスズに任せればよかった。
「そ、そうですね。私がリリーさんを運びます」
「わ、わあああちょっと待ってくれ!」
やべえ、スズがリリーを運ぶのはちょっとまずかった。とりあえずリリーのマフラーを外して...
口のあたりにグルグルに巻きつける!後はリリーの飲みかけのグラスを遠ざければ、リリーが酒の匂いを嗅ぐ事は無いだろう。
「ん!?んうううむむむ!?」
「どうぞスズ、俺は後から行くから」
「は、はい勇者様。おやすみな、さい?」
不思議そうな顔でリリーの状態を見るが、ひとまず苦しそうにしているリリーを肩に担ぎ... 二階の部屋に向かう。
完全に誘拐スタイルですね。
「それじゃあ、俺もそろそろ寝ますね。カズさんは自分の宿に帰るんですか?」
「スズの寝室に邪魔しようかとも思ったけど、もう体に負荷をかけられないからね、今日は大人しく帰るよ。勇者君は、同室のレディが酔っぱらってるからって、襲ってはいけないよ?」
「襲いませんよ!」
一国の王子がそういう冗談を言わないで欲しい。そもそも物理的に何が出来るわけでもないのだし...
と思った瞬間、脳裏に浮かんできたのは、初日に俺に触れられ、騒ぎ、転げまわりながら醜態を晒したこの国の王様。
スズへの絡み方といい、親子そろって個性的な性格をお持ちで...
タイミングよく食堂を出た他の客に次ぎ、出ていくカズを見送る。そうして一息つくと、なぜかゆっくりと階段を上るスズを見つめているクルミ王子に気が付く。
そ、そういえば、クルミ王子はスズの事が好きなのかな?リリーはその事に言及していなかったから、充分可能性はあるな...
もう一度席につき、残した果実水を飲んでいると...
「勇者様、先ほどリリーさんから好意を告げられました」
え!?俺にカミングアウトしちゃうの?
「驚かれるのも無理はないと思います。私から見れば、リリーさんはスズさんにとても大きな好意を持っているはずなのに... 」
「好意?」
「はい、スズさんから話を聞いていましたし、リリーさんと関わっていく中で確信しました」
何を言っているんだこの王子...
「それで、そ、その... す、少し関係のない話に聞こえるかもしれませんが... 勇者様が、も、もとより住んでいた世界の事について... き、聞かせてくれませんか?」
なんだろう、どこかで見た展開だ。男の赤らめた頬なぞ微塵も興味が無いが、そんな俺の気持ちもつゆ知らず、クルミ王子は恥ずかしそうにもじもじしながら言葉を続ける。
リリーはこの王子からスズと同じものを感じると、クルミ王子はスズと同類だと、そう言った。
まさに、まさしく、これは物語を追い求めるスズと同じ顔だ。息を荒くしながら、焦点の合っていないような、いかれた目をこちらに向けている。
酒に酔った、では説明のつかないその顔は、飢えた猛獣のようにウサギである俺を追い詰めており...
逃げたい。
「ええっと... 今日はもう疲れているので手短にお願いします」
それか無しでお願いします。
「ゆ、勇者様の世界では... んぐ、女性同士の関係性というのは、どのように扱われているのでしょう」
「女性同士の、関係?友人とか家族とかですか?」
「勇者様!真面目にお答えください!」
ま、真面目です... そんなテーブルを叩いて立ち上がらなくても... 他のお客さんとか店員さんとかがいるんだし...
リリーとスズの話題、何かへの欲求...
そして思い出すのは、先ほどのリリーとの会話。
『いえ、馬車に乗った時、明らかにその欲求は満たされていたんですよ』
あ... まさか...
「姉妹愛?」
「少し違います。女性同士の... 友達関係を超えた、恋仲ではない、それでいてなにか深い関係です」
「なるほど」
理解はしたが理解はしていない。
つまるところ前世で見た「百合」、についてか... このクルミ王子、熱狂的な百合好きか?
「スズさんの物語に対する姿勢に対して、リリーさんは過保護なまでに協力的です。私にも兄がいるので分かります、人の異常な欲求にあそこまで理解を示せるのは普通ではありません!」
まずクルミ王子が異常で、普通ではないな。
「ええと、それで聞きたい話というのは... 」
すると、立ち上がって熱弁を振るっていたクルミ王子は、急に表情を暗くし...
「そんな二人の関係に... 男への恋愛感情が混ざってはいけないんです」
「なるほど」
理解はしたが理解はしていない。
「つまり、リリーがクルミさんに惚れたからがっかりしていると」
クルミ王子は表情はそのまま、質問に答えず、椅子に座り、テーブルに突っ伏す。
「よ、良かったら、前世でのそういう物語を話しましょうか?」
早く終わらせてこの地獄から逃げよう。一応そういう知識が多少はあるから、とっとと話して寝てやる。
するとクルミ王子はテーブルを両手で叩きながら勢いよく起き上がり...
「ぜひ!お願いします!」
ああ、その... えっと、笑顔が素敵ですね。
「ええと... この世界でのそういう物語がどういう物かは知らないけれど、前世では、食べさせあいっことか、手をつないだりとか、服を一緒に買いに行ったりだとか...」
なんだ!?普段スズに物語を話している時は全然恥ずかしくないのに、なぜこんなにも言葉を続けるのをためらってしまうんだ!?
*********
朝。布がこすれる音。
はああ!もう慣れた!昨日と同じように俺は素早く起き上がるぜ!
目を瞑ったままアクロバティックにベッドから飛び降り、腰を低くし身構える。
だがいつまでも他の音が鳴らない事に違和感を覚え、渋々目をゆっくり開けると... パジャマ姿のリリーが、まだすやすやと寝息を立てているのが伺える。
き、昨日派手に酔っぱらっていたから起きるのが遅いのか... なんという拍子抜けな。
… 起きよう。
とりあえずドアを開けて部屋から出ると...
「あ、おはようございます勇者様」
「げ!?ク、クルミさん。おはようございます」
ちょうどクルミ王子も部屋から出てきたところのようで、軽く挨拶を交わしてそそくさと水場に行こうとすると...
「勇者様、少しよろしいですか?」
いやその... ちょっと面倒事は...
「昨晩、勇者様から異世界の話を聞いた後、じっくり考えてみたんです。やっぱり、私はリリーさんとスズさんとの関係を、遠くから見ているのが良いと」
「え?ああ... 」
ま、また物語のことについてかな...
「ですから、そもそも私が、スズさんと婚約したことが間違いだったんですよね... それだけで私は、スズさんとリリーさんとの仲を壊してしまう可能性があるのですから」
「そうなん... ですね」
「なので私、スズさんと婚約解消をしようと思います」
ああ、婚約解消ね。
… こ、婚約解消!?
これで第三章(中)完です、明日から第三章(下)が始まります。




