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勇者(俺)いらなくね?  作者: 弱力粉
第三章(上)
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北の町へ行こう!

前回のあらすじ、スズの婚約者を乗せて北の町へ出発。



道中の様子はいつもとおおむね変わらず、いつものようにタイランが荷車を引いて、俺たちが荷台で時間をつぶす。


ただ一つの変化を挙げるとするのなら...



「それで、その自制心を失わせる四天王に、とどめを刺す事が出来たんですね?」


「ええそうなんです!私の心の奥底でスズを想っていたからこその勝利ですよ!どうですか!」


「とても素敵だと思います」



リリーが得意気に婚約者の男と話していた。


なんというか、恐ろしい男というか... 相手を褒めて、話を盛り上げるのが得意なのか。俺なんか、初対面の時はリリーに散々蹴られたぞ。


いやこの男も顔面に一発食らってたな。



「リリーさんがいると、スズさんは物語には事欠かないようですね」


「は、はい。おかげで旅をする前からも、新鮮で、リアルな、魅力のある物語を体験したり、聞いたりすることが出来ていました」



だがやはりこの男、気に入らない。両手に華といった風景を目の前で見せつけられ、面白いと思う者などいるだろうか。純粋に気に入らない。


ジトっとした目で楽しそうに話しているリリーを見ると、こっちに気がついたようで急にニヤッと笑い、俺のそばまで近づいて来る。


そしてそのままニヤニヤ笑いながら...



「あの男、私と話しているととても楽しそうにしています。私に惹かれる位ですから、絶えっ対にロリコンの気がありますね」



こっそり耳打ちしてきた内容はとても信じられない物で、慌ててリリーの顔を見返すが、それには応えず、リリーは更に続ける。



「このまま私になびかせて手を出させ、スズに失望してもらいましょう」


「お、おい、いくら気に入らないからってやり過ぎじゃないか?」


「何言ってるんですかへっぽこ、ここ二週間付き合ってきて、スズとの時間が楽しくなかったとは言わせませんよ?スズと話すときのあなたは楽しんでいましたし、誕生日プレゼントを選んでいた時も、真剣だったとメイから聞いています」



確かにぐうの音も出ないし、婚約の話に縛られて今後自由にスズと旅が出来ないとなったら、それはそれでいやだ。なんだかんだいって、スズのぶっ飛んだ言動は日常化しているし、スズの強さや優しさは頼もしいと思っている。


だが、一国の姫となれば、婚約しなければならないというのも事実じゃないか?スズが王子に失望したとて婚約解消出来るわけでもないし、仮にそうなってもまた他の人と婚約するだけだ。



「でもリリー、スズはこの婚約をどう思っているんだ?てっきり俺は、お前がスズの幸せを願っていると思っていたんだが...」


「は?まだ分からないんですかへっぽこ。問題の本質が見えていないようですね」



も、問題の本質?



「あの男は王子ですよ?そんなの、ロクでも無いに決まっています。それに、あいつにはロリコンの気があります」



はあ... 前者は婚約解消させるのに適した理由なのだろうか...


とかなんとか考えていると突然荷台が揺れる。



「あっ... 」


「わりい!でかい石を見逃してたぜ!」



そして婚約者の男が体勢を崩し、スズに寄り掛かる。スズが男を受け止めると二人は少し見つめ合い...



「す、すみませんスズさん」


「い、いえ、事故ですので... 」



そんな様子を、俺たち二人は真顔で見ていた。



「へっぽこ」


「分かった、何か必要なら俺に言ってくれ。何でもしよう」



あんにゃろ俺の俺が一発でお陀仏になる事を平然とやりやがって!昨日の分も合わせてスズと別れさせてやる!



*********



日が暮れた後。辺りは真っ暗になり、そばに座るメイが持つランプの灯りを頼りに、タイランは道を進んでいる。


というのも、野営をするには微妙な程に町に近づいているらしく、ごり押しで町に行ってしまえとリリーが言ったからである。



「ううん... リリーは人づかいが荒いぜ。後五分くらいで町に入れるだろうから、そしたらメイ、頼めるか?」


「かしこまりました」



もう景色が見えないほどに暗くなっているのに、よくもまあ事故らないものだ。



「なんと、このアンという少女が四天王だったのですよ!」



向かい側の三人は、相も変わらず話で盛り上がっている。第二の四天王の話終盤まで来ていたようだ。


そんな中特に何も考えず頬杖をつき、ボーッとしていると...


急に暗闇の中になにか、キラリと光るものが見えた。


なんだあれ、草の中の魔獣かなにかか?



「失礼しますよ、スズ」



瞬間、あぐらをかいていたリリーはスズに勢いよく寄りかかる。途端、荷台が少し揺れる。


すると、リリーが先ほどいたところに、リリーの背中を刺すよう、剣が現れたのが見える。


リ、リリーがスズに寄りかかっていなかったら刺さっていた!?



「て、敵ですか?リリーさん」



何者かは分からないが、この高速で動いている荷台に乗り移って、リリーを攻撃しようとしたのか!?



「スズ、敵ではありません。ただの厄介な人間ですよ」



するとその剣の持ち主はゆっくりと姿を現す。荷台にしがみついている所から、ゆっくりと這い上がってくるようだ。



「登ってくるぞ!」


「リリーさん!私が!」


「大丈夫です、クルミさん」



婚約者の男が対処しようとするが、スズがそれを止める。


な、なんだこの違和感は... どうして婚約者の男以外、皆こんなに落ち着いているんだ?メイとタイランに至っては無反応だぞ?この世界の人間は、この荷台に簡単にしがみついてこれるものなのか?


だが、皆の反応と相反して、状況は少し奇妙になっていく。荷台にしがみついていた何者かがゆっくり這い上がり、その者の顔や体格が分かると思いきや、何もわからない。


その者は顔には仮面を、そして全身は黒いローブで包んでいた。真っ白な仮面は、右半分はニッコリ笑顔、左半分は悲しそうな顔をしていて、不気味さが際立つ。



「ふん!」



その者は俺の方を見ているように受け取れたが、リリーが荷台に掴まっているそいつの手を狙ってナイフを振り下ろすと、剣を持っている方の片手を離して荷台に掴まり、ナイフを避ける。


必然的に剣は荷台に落ちる。


そしてそのまま勢い良く男は荷台に飛び乗ってくる。



「荷台を止めるか?リリー」


「いえ、そのまま走っていてください。メイはランプの灯りを少し弱くしてください」



狭い荷台に、手を伸ばせばすぐに互いに触れられる程の距離に二人は立っている。


俺はスズに導かれるがままに荷台の後ろまで連れてこられ、リリーの背後を取る形になり、乗ってきた者の姿を観察してみるが... 本当に情報がない。


黒の手袋に、ローブを付けていて、肌という肌を全て隠している。さっきより一層暗くなったことで、不気味さが増している気がする。



「近接戦は苦手なんですがね」



リリーがナイフを両手に一本ずつ抜きながら悪態をつくと、乗ってきた者は空いている両手を広げ、肩をすくめ、おどけたポーズを取る。



「しかもこの状況で全身を隠されては、能力が使えないではないですか」



乗ってきた者は反応しない。


そのまま少し間が空くと、リリーが先に動く。


右足を前に出し、身体ごと回転させるように、逆手に持った右のナイフを当てようとするが... 一瞬動きが鈍る。


足だ、リリーの足元の、さっき乗ってきた者が落とした剣が動きを邪魔した。


よく観察すると、乗ってきた者が剣の刃の部分を強く踏んでいる。まるでシーソーのように、持ち手の部分を上げ、リリーの動きを僅かだが鈍らせた。


ほんの一瞬の攻撃のずれを利用し、乗ってきた者は大きく両膝を曲げリリーのナイフを避ける。


次にリリーは左のナイフを動かそうと、腕に力をいれたように見えたが、先にリリーの体が勢いよく持ち上がる。



「かはっ...」



恐らく体勢を落としたと同時に、リリーの腹に上向きに拳を振るったのだろう。


リリーは構わず、右手のナイフで乗ってきた者の背中に突き刺そうとするが、手首を下から掴まれてしまう。そしてそのまま一本背負いの要領でリリーは投げ飛ばされる。



「ぐっ...」



ランプを持っているメイのすぐ横に、リリーは背中を打ち付ける。


リリーが立ち上がろうとすると乗ってきた者は剣を拾い、振り向きざまに横なぎにそれを振る。


リリーと後ろを向いたままのメイは、姿勢を低くし、その剣を避ける。


や、やばい、リリーが圧倒されている... リリーの感情を読む能力は、顔や筋肉の動きを見ていないと発動しなかったはず?だからローブと仮面の男の次の動きが予測出来ていないらしい。


俺はわずかな光を頼りに動きを追っているが... そんな中、強い違和感が、おかしな点が見受けられる。


立ち上がったリリーが、目を瞑っていた。


な、なんだ?やたら自信たっぷりに笑っているぞ。



「さっきの投げは助かりましたよ」



すると急に辺りがまばゆい光に包まれる。ランプの光だ、メイから受け取ったランプの光を強くしたんだ。



「ぐっ... 」



乗ってきた者の目は暗闇に慣れすぎていたようだ、光に怯んでいる!


うっすらと開けた俺の目に確認出来たのは、男の顔面の位置に飛び回し蹴りを食らわせていたリリーの姿のみだ。



「があああっ!!!!」



その衝撃から、剣を置き去りに男は荷台から投げ出され、悲鳴は遠ざかっていく。



「リリー!急に灯を強くしたら危ねえじゃねえかよ!事故ったらどうするんだ!」


「リ、リリーさん治療を... 」


「これくらいなら大丈夫です、骨も折れてませんから。にしても、昨日のスズとの事といい、近接戦ではまだまだですね」



するとスズは首を傾げ...


あ、スズに昨日の事を話したら面倒なんじゃ...



「き、昨日の事とは... 」


「ああ!!疲れました!ちょっと横になります!メイ、後の事は諸々よろしくお願いしますね!」


「承知しました」



すると手に持っていたランプを急いでメイに渡し、横になってしまう。


スズが少し不服そうな顔をしているが、諦めたのか、座って婚約者の男とさっきのローブの男の事について話し始める。


そんな様子を、リリーは横目でチラチラ見ていた。


け、結局あのローブの男は何者だったんだ?



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