第13話
前回のあらすじ、アンがツタを操っていたらしい。
相変わらずアンの顔は伺いづらい。両目が見えないため、頼りになるのは口だけ。
そんなアンが緩く微笑むと、この状況では少し不気味にも感じる。
まるでお嬢様の挨拶のように、スカートを両手でつまみ、軽くお辞儀をすると、アンは口を開く。
「やっぱりリリーお姉ちゃんは、心が読めるんじゃないかってくらい察しが良いよね。スズお姉ちゃんが持つのは、魂を操作して、その器を操る能力。そして、タイランお姉ちゃんは、物質を消し去り、エネルギーに変える能力」
お辞儀をしたままこっちを見たかと思うと、体を起こし、左手を口の方に当て、まるで嘲笑っているような笑みを浮かべる。
「パルスお爺ちゃんの様子を見に来たら地震に巻き込まれちゃったけど、お姉ちゃん達と遊べてすごく楽しかったよ」
不思議な事にアンが喋っている間、白かった髪が侵食されていくように、根本から赤がかった茶色へと変わっていく。
この前俺を驚かせたように変形しているんだ。髪の色まで変えたら本当に別人のように見える。
「あ、アンさん?ご冗談を...」
「でも私はやっぱり魔王様側につくよ。それが女神様の願いだし、そっちの方が楽しくなりそう!」
そしてアンは、再度挨拶をするようにお辞儀をする。
「それじゃあまたね、お姉ちゃん達」
すると派手な音を立て、アンが足をついている地面を中心に、揺れているような感覚を覚える。
「スズ!アンを捕まえてください!」
リリーが路地の奥から走り出し、スズもアンに手を伸ばすが... アンの足元から、人が跨がれる程に野太い丸太のようなツタが生え、アンを上に押し上げる。
「私の能力は、空気中の魂を植物に循環させて、作り替える能力だよ。今度はこの能力で遊ぼうよ、北の街で待ってるね?」
そのツタの成長速度は凄まじく、スズがツタの元に着く頃には、隣の五階建てくらいの建物の屋根程まで伸びきっていた。そして上の方で大きな葉っぱが二枚育ち、一帯の上空を覆う。
「勇者、スズ!タイランを起こしてください!私では屋根まで届きません!」
「リリーさん。焦りすぎですよ」
慌てるリリーをたしなめる様にスズが声をかけると、スズはツタの根元に手を当て、目を瞑る。
そっか、タイランがツタを消さなくても、スズがツタを壊せるのか。
「待ってくださいスズ!それだと...」
あ... そういえばさっきツタを破壊させた時は液体をばら撒いていたから...
「あ...」
凄まじい破裂音と共にツタが破壊され... そこらじゅうに液体をばら撒き、雨のように降り注ぐ。そして伸びきったツタは真っ二つになり、上の方からクタクタになったように倒れてくる。
なんというか... 間抜けな格好になってしまったな俺達。アンはすでに屋根に移ったようで、どこにも見当たらないし。
「お、なんだあ?ジジイを倒したと思ったら皆で水遊びかよ。このでかいツタは何だ?なんで皆そんな顔してんだよお」
お、タイランが起きてきた、それにメイも一緒だ。
「起きましたか脳筋。質問は一つずつにしてください、一気に答えられないことも分からないんですか?」
そんなトゲのある言い方をしなくても... 髪の毛から雫が落ちていて、ちょっと哀愁漂う感じになってるぞ。
するとタイランは首を傾げ、顎に手を当て、頭の位置を少し下げる。そして頭の位置を戻すと、人差し指を立てた手を自分の顔の前に出し...
「じゃあ質問は一つだ、リリー。アンはどこにいる?」
げっ... 今一番聞かれたくない質問じゃねえか、どうやって説明するんだよ。
だが、リリーは眉をひそめることなく、顔色を一切変えずに答える。
「面倒なので今は言えません。また後で話しましょう」
するとタイランは、スズの方に、そして俺の方に目を向け、再びリリーの顔をじっと見る。
「リリーがそう言うんなら、きっとその方が良いんだな。アンの事はとりあえず聞かないでおくぜ。だがその代わり、もう一つの質問に答えてもらうぜ」
そしてタイランは難しい表情を崩さずに、再び人差し指を立てる。
「昼飯はどこにするんだ?腹が減ってしょうがないんだよ」
「... ラザニアの美味しいお店にしましょう。若干一名、食べたがっている人がいるようなので」
な、なんでバレてやがる...
*********
「なんだあ、メイ!その髪じゃあ食べづらいだろ!?」
ラザニアの美味い店とは言ったものの、各々が好きな物を好き勝手注文し、料理が来るのを待っている間。
タイランが立ち上がり、椅子に座ったままのメイの後ろに行き、先程までとは違って下ろしたままにしているメイの髪をいじり出す。
「申し訳ありません。付けていたリボンが先ほど少し破れてしまいまして...」
そしてタイランがスカートのポケットから何かを取り出し、再びメイの髪をいじると... いつものポニーテールに、赤いリボンが付けられていた。
「じゃーん!俺とお揃いのリボンだぜ。でも、ちょっと赤色は黒髪とミスマッチかもな」
タイランの言葉を聞くと、メイがビクッと体を震わせ... 表情こそ変わらないが、頬を少し赤らめる。
あれ、なんですかその顔は?
「ち、ちなみにタイランお嬢様。このリボン、既にお使いになられた物ですか?」
「ん?俺のスペアだぜ。何回か使っただけだから、汚れはあんま気にすんな!」
「... 使用済み」
おい、顔を俯かせてボソっと呟いたが、今聞こえたぞ。
まさかだが... 豚の宿で剣を向けられた時から怪しいと思ったが、まさか...
「なんか言ったか?メイ」
「いえ、ありがとうございます」
タイランがメイの顔を覗き込むと、一瞬で顔色は元に戻り、いつもの表情になる。
「あとよお、さっき歩いてる時に買ったこのブローチもやるよ」
「タ、タイランお嬢様?」
またもやタイランがスカートのポケットから取り出し、後ろからメイの胸元に付けたのは、白っぽい金色の、三日月型のブローチだ。
「綺麗だろう?この月」
メイの両肩に手をかけ、先ほどとはうってかわって、母親が娘に聞かせるような、穏やかな声で言う。
すると一拍置いてメイの顔がみるみるうちに赤くなっていき、頬が少し緩む。そして自分の胸元に手を当て...
「は、はい... 死んでもいいくらいに」
「おいおい!死んでもいいだなんて大袈裟だな!でも気に入ってくれて良かったぜ」
そしてガハハと笑いながらタイランは席に戻り、腕を組む。メイの表情は戻らないが、タイランはメイの顔に気づかない。
これは... つまりどういうことなんですか、リリーさん。
通路側のリリーの顔を伺うと、ジト目のリリーと目が合い... 眉を潜め、口を半開きにされる。
例えるならこう、まじかお前... とでも言われているような顔。
「まあ、メイには俺に付き合わせてばっかりだからな。たまにはこれくらいしてやらねえと、主人として... 」
「タイランお嬢様」
メイがタイランの話を遮ると、一瞬でいつもの表情に戻し...
え、今どうやってやったのそれ。後で教えてくれないかな...
「私はタイランお嬢様の従者です。どんなわがままでも、それが私の仕事ですから」
メイの言葉を聞いてタイランが少し顔をしかめるが、メイは構わず続ける。
「... ですが、そんな元気な、忘れっぽく、物事を深く考えず、単純で、脳筋なお嬢様のお側にいられることを、私は嬉しく存じます」
メイがブローチを手で包みながら言うと、少しばかり、辺りは静寂に包まれる。
すると更に顔をしかめたタイランが立ち上がる。
「全く意味が分からん。リリー今の言葉聞いてただろ!この言葉の真意を教えてくれよ!」
だがリリーはタイランをギロッと睨むと、わざとらしく音を立て、コップに注がれた水を飲む。
そ、そのままの意味じゃないのか?
「てめえリリーふざけてんじゃねえぞ!いつもいつもはぐらかしやがって、今日くらい教えてくれてもいいじゃねえかよ!」
長方形のテーブルを回ってリリーに掴みかかろうとするが... 鈍い音がしたかと思うと、タイランは後ろに倒れる。残ったのは、立ち上がって拳を上に掲げたリリーのみ。
ア、アッパーカットが見えなかった...
「勇者様。タイランさんといい、アンさんの件といい、物語が一層楽しくなってきましたね」
こちらを向いてニコニコ笑顔で語るスズ。いつものエキサイトした状態よりも、目がキラキラ輝いていて、声が弾んでいる気がする。




