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勇者(俺)いらなくね?  作者: 弱力粉
第二章(下)
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第9話

前回のあらすじ、投げられた俺たち。



大剣持ちの少女は走っていた。


老人が地面に手を当て、地震のようなものを起こすと、道路のあちこちが粉々に砕け、建物が一件、杖持ちの仲間達目掛けて倒れだした。


老人はみごとに、二人の足止めと、仲間への攻撃を両立させたのだ。


杖持ちの少女が、抱えていた勇者と幼女を投げつけるも、老人は既に移動していたようで、それをかわしていた。


次に老人が姿を見せたのは... うつ伏せに転んだ杖持ちの少女の目の前だった。


杖持ちの少女が顔を上げた途端、老人は右手を掲げる。



「耳を塞げ!スズッ!」


「そして次は杖持ちの女じゃ。二つの荷物を抱えて、器用に動く娘じゃのう」



大剣持ちの少女の前を行くメイド服の少女からでも、老人までは届かない。未だ揺れ続けている地面が足止めをする。


老人は指を鳴らす。


それを合図にしたように勇者は耳を抑えて呻く。勇者よりも老人に近い杖持ちの少女へのダメージは、更に大きいはずだ。



「スズッ!!」


「皆さん... 私の能力を回復だとおっしゃいますし、私もその方が格好良いと思います。ですが、私の能力の本質はそこではないんです」



だが、予想に相反して聞こえてきたのは、いつも通りの、杖持ちの少女の声だった。


地面に体を伏せたまま顔を上げた少女は、ケロッとした表情を浮かべている。



「本質は魂への干渉による肉体操作です。どれだけ大きな音を出されても、来ると分かっていれば瞬時に外耳道を一時的に防ぐ事が出来ま...」


「一瞬で良いのじゃ、一瞬あればそれで良い」



攻撃が防がれようとも、老人は全く怯まない。そんな老人の姿に、杖持ちの少女は寝ころんだまま急いで足を畳み、素早く立ち上がる。



「何を言っているのかは聞こえませんが...」


「おおおううっっ!上だぞスズ!」



老人が持つ余裕の正体に気がついた大剣持ちの少女は急いで空を指差す。


構えようとしていた杖持ちの少女の頭上には、大小様々な建物の瓦礫が落ちようとしていた。


普段の少女なら問題なく対処出来る。だがあらゆる音の情報を断った今、少女の出だしは一手遅れる。


地面を蹴り、軸を大きく横に傾け避けようとするが間に合わない。平べったく、少女を大きく覆うほどの瓦礫が襲う。



「メイ!こっちに来い!」



大剣持ちの少女は、顔を見合わせていたメイド服の少女に移動するように合図をし、大剣を大きく横に振り... 手放す。


その質量からは考えられないほどの速度で、大剣は回りながら老人に向かう。


だがまた老人は視界から消える。すでに移動をしていた。



「狙ったのは老いぼれじゃねえ!結構痛いかもしれねえけどよ、我慢してくれよなスズ!」



地面と平行に飛ぶ大剣は老人のいた場所を通り抜け、杖持ちの少女を覆っている瓦礫に突き刺さる。すると、遠目にも、剣の刺さった先から瓦礫にヒビが入っていくのが伺える。



「タイランお嬢様、すぐにスズ様を助けに...」



大剣持ちの少女は、言葉を無視し、左の拳を揺れの収まった地面に叩きつける。そしてその拳を頭上に突き出し、血の雨を降らせる。



「ジジイがスズにとどめを刺すためには、あの瓦礫を壊さなきゃならねえ。だが、そんな事をちまちまやっていたら俺達やスズに反撃を喰らうかもしれねえよな。じきにリリーも建物を越えて来るはずだ」



大剣持ちの少女はメイド服の少女とアイコンタクトを取る。メイド服の少女は、頷くと近づいてくる。



「じゃあ俺達がスズを助けに行くと踏んで、当初の予定どおりジジイは逃げに徹するはずだ」



視界が揺れる。またしても目の錯覚のようなそれだ。


老人が現れるのは、血が消えて無くなる、地面に新しい血の跡がつかない場所だ。


その場所は、メイド服の少女のすぐ後ろだった。



「その通りじゃ。だが貴様に追われんよう、こやつの頸椎も破壊しておこう」


「避けろメイ!」



二人は互いに向かい合っているため、メイド服の少女には後ろの老人は見えていない。


気づかないままのメイド服の少女は、なぜか目を丸くし、刃の無い片手剣を大剣持ちの少女の顔に向かって投げる。



「メイイイィィッ!」



首を軽く傾けて剣の柄を避け、慌てて手を伸ばして自分の方にメイド服に少女を手繰り寄せようとするが、間に合わない。


老人の指が首に触れると、彼女は前に倒れ、大剣持ちの少女に受け止められる。


再び視界が揺れ、老人の姿は消える。



「っ...!?メイは、これを見ていたのか!」



周囲を警戒し、横をちらりと見ると視界に入ってくるのは、両手で自身の首に飛びかかろうとする老人の姿だ。


だが血はついていない、それはただの老人の幻影だった。



「馬鹿野郎メイ!俺の心配なんかしてんじゃねえぞ!ただの幻なんかに惑わされてねえでジジイを倒すことに集中するんだよ!」



どこか老人の鳴らす指の音よりも強く空気を震わせているような、そんな力強い声には、所々息を飲むような音が混じる。


そんな声もメイド服の少女には届かない。だが、代わりに優しく微笑んだ後、声を発さず、くちびるを動かす。



『本当に... タイランお嬢様は勝手なお方です。大方私がお嬢様を庇おうとしたことを怒っていらっしゃるようですが、タイランお嬢様こそ、私を庇おうとしてくださったではないですか... そんな顔を、なさらないでください』



くちびるの動きを読むと、大剣持ちの少女は目を丸くし、言葉に詰まる。



『私の家が落ちぶれた時に、私をお嬢様の従者にしてくださった時と同じです。お嬢様はいつでも体で動くお方なんですから... 本当に()()です』



その言葉をくちびるで表すと同時に、メイド服の少女のくちびるが緩む。



『そんなタイラン様を、お慕いしております。それに... 』



彼女は、首は動かさずに目だけ横を見る。



『私は最初からいらなかったようですね。まだ私たちは負けてはいません。これで勝ちに近づいたとも言えます』



メイド服の少女の視界に映っていたのは、人知れず、密かに悶えていた勇者が両耳を押さえながら立ち上がり、辺りを見回す様子。そんな様子を、二人はじっと見ていた。


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