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勇者(俺)いらなくね?  作者: 弱力粉
第二章(上)
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第9話

前回のあらすじ、南の町へ出発。



昨日と同じように、荷台に揺られながら前世の発明品を思い出す。理屈が分かっていて、俺でも真似ができて、この世界に必要な物。どう考えても見つからん...



「お母さんとねえ、お父さんはねえ」



声につられて、先ほどから随分長いこと話をしているアンとスズを見ると... スズが「物語を聞く」モードに入っていた。


死霊にとってあの目は怖くないのか、はたまた子供ならではの純粋さからか、アンは気にせず、ずっと自分の村での生活の事を話しているようだった。



「夜ベッドを... ん?スズお姉ちゃんはなんで杖を持ち歩いているの?」



おおいちょっと待てい、お父さんとお母さんのベッドの話が気になる!



「... え?ああ、これはなんと言いますか... 私にぴったりの持ち物なんです」


「お姉ちゃんは杖で戦うの?」



スズがあの状態を自主的に解除したぞ... さすが子供の力。だが杖の事は聞かないほうがいいぞアン。



「いえ、得物はあまり肌に合わないので、素手で戦います」


「じゃあなんで杖を?」



するとスズは杖を片手に持ち、空いている方の手を自分の頬に当てる。



「私は... 回復役なんです。だから杖がいいんです」



うっとりとした、蕩けるような声だ。論理性を求められているはずなのに、点と点が繋がらない文章は二度聞いてもなお恐ろしい。



「よく分からないけど、私もそれ欲しい!」


「でしたら、こちらをどうぞ」



そして、スズはどこからともなく布に包まれたもう一本の杖を取り出し、アンに手渡す。


さすが子供だ、頭のおかしい大人と純粋に渡りあうことが出来る。俺ならひとまず目を逸らすね。



「おお、なんでもう一本持っているかは分からないけど、ありがとうお姉ちゃん!」



そこは気にするな少女よ、俺も気になっている... リリー辺りに聞いてみるか。



「... なあリリー、なんで杖がもう一本あるんだ?」



メイと何かを話していたリリーに耳打ちすると、少し嫌そうな顔で返される。



「あの死霊の感情は読みづらいんですが、あれはスズの目には良い子に映っているようです」



は、はあ... それがなんだと...



「昔スズから聞いた話なんですが、回復役というか、魔法使いという存在には、弟子が不可欠なんだそうです。」


「それはつまり... 弟子候補に出会ったときのために、いつも持ち歩いていると」


「前回も、実は荷台に積んでありました」



リリーは何かに呆れたようにため息を吐き、メイとの会話を再開する。



「リリー様、こちらの色なのですが... 」



メイが昨日何かを描いていた紙をリリーに見せる。角度的にちらっと中身が見えたその紙には、人の絵が描いてあるようだった。



「タイランの好きなのは薄い色ですが、これだとコントラストが足りない気がします。やっぱりリボンでアクセントですかね」


「ですが... これでは脚を一層目立たせてしまいます... 」


「それでも、タイラン相手なら中途半端よりかは、思いっきり行ったほうがいいですし」



服の話だろうか、横目で見るとメイド服が描かれていて... おお、ミニスカニーハイソックスだ、絵が上手い。



「ニーハイソックスにも何か付けてみてはいかがでしょう?ここの少しの隙間の肌を強調させては?」


「はい、この領域ですね。派手すぎないよう、レースをあしらってみます」



領域っていう単語が出てくるのか、なんか真面目そうな雰囲気だけれどやってる事はコスプレのような気がする。オタクという呼称はこの世界にもあるのだろうか。


い、いや待てよ。オタク?これなら...



「クックックックッ...」


「なんですか?気持ち悪いですよ」



リリーさんよ、俺もたまには格好をつけたい。



「はあああっはっははあ!... リリー!役立ちそうな前世での発明品を思いついたぞ!」


「そうですか、では教えてください」



燃え上がり、立ち上がってポーズを決めた俺とは対極に、タイラン以外の一同は冷めた目でこちらを見てくる。アンに至っては、大声で話を邪魔されたからか少し怒っている模様。


だがそんなことは関係ない!前世での発明品、これがあれば億万長者、有名人、最強になれるんだあ!



「俺が思い出した前世での発明品、それは...」



ふ... まだだ、まだ言うな... もう少し焦らすんだ...



「くだらない事を考えてないで早く話してください」



あ、はいすいませんでした。



「ラ、ラノベです... 」


「らのべ、ですか。それは一体?」



クククク... 学の無い俺が、発展した異世界で無双する方法。力も知能も無いとあれば、娯楽に傾倒する他ない!



「スズ!俺が話した物語を思い出してほしい。あれ全てが!前世でいうところのラノベなんだ!」



ビシィッと人差し指をスズに向けると、なぜか自信無さげに右手を口に当てる。


そのまま何も起こらずに時だけが流れ...


え?俺なんかやっちゃいました?



「え、ええと勇者様... お気を悪くなさらないでください。 少し言いづらいのですが、魔法などのファンタジーや、他の世界を舞台とした物語の市場は大きくなくて、ですね... そ、それでも多くの人に書けるものですから、その小さな市場で飽和してしまっているんです」



し、市場?



「そのジャンルの中でも更に細分化されていて、その中で数の少ないジャンルはあるのですが... も、もちろん勇者様の世界の、らのべを悪く言うつもりはありません。ですが、この世界の現状はこれです... 」



もしかして... 娯楽すら枠が埋まっている?



「で、ですがその中でも面白い作品が出て、飛ぶように売れるものもあります。勇者様がしっかりと書き方を学べば、異世界のらのべを使って売れる物語を作る事は可能かと...」


「や、やめてくれ... いや、やめてください...」



嫌だ... 聞きたくない。せっかく見つけた糸口を、俺の知識でのし上がるタイプの異世界生活が...



「しょ、正直に申し上げますと、異世界の発明品よりも、出来れば能力の発動の方に力を使っていただけますと... 」



あ... ダメです... 頭痛い、頭痛いからもうなにも言わないでほしい。


戦いから逃げたわけじゃないんです。夢見た異世界生活を手に入れるチャンスが来たとか思っていないんです。俺の世界の方が発展しているからって調子に乗っていたわけではないんです...



「メイ、ついでですからこの服は南の街で仕立ててもらってはどうですか?」


「へっぽこの話が終わったみたいだから、スズお姉ちゃん、この杖のお話聞かせて」



真っ白な頭に思考力がかすかに戻ってきた頃、俺は膝から崩れ落ちていたことがわかる。


本当に異世界最強物語なんて最初から無かったんだ。俺つええなんて出来ないし、前世での常識を振りかざすこともできない。



「おいド阿呆う、いつまでも落ち込んでいないで何か考えるか... それか、筋トレでもしますか?」



くっ... 当たり前だけれどもリリーが気を遣ってくれない...


すがるような思いでチラッとスズの方を見ると、どこか心配そうな、申し訳無さそうな笑顔をこちらに向け... 柔らかく微笑んでいる。



「ッ... 」



そんな顔を向けられたら... そんな優しい笑顔で見られたら... やるしかないだろう。腕立て伏せ...!



「え、冗談のつもりでしたが本当に筋トレするんですか?」



その日俺は、南の街に着くまでに、動けなくなるほど筋トレをした。



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