第7話
前回のあらすじ、女神の像をいたぶった。
リリーと共に荷車を置いたところまで戻ってくると、メイは夕食の準備を、タイランは木と木をこすり合わせて火おこしをしていた。
相も変わらずものすごい顔してるなタイラン... 小学生の頃真似してみたけど、摩擦で火を起こすのってめちゃくちゃ難しいしな。
「ボケっとしてないで、座ったらどうですか?」
早々にマットに胡座をかき、くつろぎ始めたリリーに手招かれる。
「さあ、あなたの前世の知識で役立つものは思い出しましたか?」
や、やべえ何にも思いついてねえ... そもそもこの世界がおかしいんだよ、元素の概念だけできゃっきゃ言わせろよ。
あ、火がついた。さすがタイラン。
「何も思い出せなかったみたいですね。まあ、あまり大きな期待はしていませんでしたから良いですけど」
お、怒られない?少し機嫌が良さそうだし、助かったか。
しかし知識面でも無双出来ないとなると、本格的に能力が発動しないと困るな... 今度死んだ時にクソ女神に聞いてみるか、癪だしペナルティ喰らうけど。
「た、ただいまです。皆さんは何か見つかりましたか?」
お、スズが戻ってきた。声の方向へと振り向くと、ちょうど沈みかけの夕日をバックにこちらに近付いてくるのが見える。
「死体も生存者もゼロです、南の街に避難したと見て良いと思いますよ。スズも座ってください」
「はい、それでは」
スズがマットに近づくと、丁度夕日が沈み、辺りが少し暗くなり、スズの顔が炎からの光で少し赤く見える。
そしてスズがマットへと屈んだ瞬間、それは俺の目に映った。
「ス、ス、スズ?」
スズの後ろに突如現れたのは、白髪で顔の隠れた少女だ。どこからともなく音も立てずに現れ、丈の長いスカートが不自然に揺れている様も相まって、まるでマジックを見ているような気分だった。
そしてその少女は、ゆっくりとスズの頭へと袖に隠れた手を伸ばし始める。
「スズ!」
慌ててスズの元に向かおうとするが、それは敵わず、俺はリリーに首ねっこを掴まれていた。
「どこへ行くんですか、もう夕食の準備が終わりそうですよ」
リリーにはあの少女が見えていないのか?
「スズッ!後ろだ!後ろを振り向くんだ!」
意図が伝わらなかったのか、きょとんとした顔をこちらに向けるスズ。リリーを振り解いてスズの方に向かおうとするが、すでに遅く、少女はスズの頭に触れてしまう。
するとスズの頭に触れた少女はそのまま攻撃をするわけではなく、なぜか撫でるように頭をポンポンと叩いていた。
敵じゃないのかよ...
「おお、お姉さんたち人間だ、生きてるね」
目を髪で隠しているはずなのに、興味深そうにスズを眺めるかのように頭を動かしている。
「あなた、死霊ですね?ご丁寧に自分の死体を乗っ取って、なんの真似ですか?」
「乗っ取るだなんて人聞きの悪いことを言うね、お姉ちゃん。元々は自分の体だし、ただ未練が強かったから魂が発散出来なかっただけだよ?」
し、死霊?アンデッドってやつか。本当に敵じゃないのか?
「へっぽこお、この少女が敵だとしても、こんなのにスズがやられるわけないだろお?」
タイランよ、俺なら十秒で殺されるんだが。
「し、死霊さんとりあえず隣に... 」
「アンだよ」
「で、ではアンさん。隣に座ってはいかがですか?何か話したいことがあるのでしょう?」
するとその少女はスズの手の指した方向ではなく、スズの膝の上に腰掛けてしまう。そして足を伸ばしてバタバタとはためかせ始める。
なんか若干リリーが怒っているっぽいが、一旦スルーしておこう。多分俺、死霊にも勝てないだろうし。
「それで?何か用があるから話しかけてきたのでしょう?」
おお、大人だぞリリー。
「えっとね、まず私が死んじゃった理由から話そうかな。つい三日前の事だよ、不自然な程に強い地震が、夜中に起こったの」
というと、ついこの間までこの村で暮らしていて、地震の被害にあった子か。
「地震なんて、観測されている数が少ないでしょう?だから私びっくりしちゃって、そのまま瓦礫の下敷きだよ」
「というと、あなたが死体を操って瓦礫の下から引きずり出したんですね」
動く死体って、都市伝説になるぞ。ミステリー小説の概念がひっくり返りそうだ。
「いいや、私は埋めてもらったよ?」
「そうですか、それではやはり村の皆さんは南の街に避難を?」
「いいや?」
強い疑問の表情が皆の顔に浮かぶ。俺も意味が分からなかったから、多分同じ顔をしていたと思う。
そして、焚き火の弾ける音と共に、リリーの顔がどんどん強張っていく。
「すると... 村の住人は...」
するとアンはじたばたしていた足の動きを止め、ゆっくりと人差し指で地面を指す。ここに何かがある、そんな事実を揶揄していた。
「ぎゃっはははははあああはああっ!!やっぱり死霊の在り方はこうでなくっちゃだよねえ!お姉ちゃん達、最初は全然驚いてくれなかったんだもん!」
なぜか腹を抱えてアンは笑いだす。
俺たちを驚かす。村の住人は助かっていない。そして地面に、地面の下に何かがある。俺を含め、タイラン以外の全員は気付いていたようだった。
「... 住人全員ですか?それでは誰が死体を...」
「ふふふ、せっかちは駄目だよ?お姉ちゃん。生き残りはたった一人」
「それは一体...」
「だあかあらああ、せっかちは駄目だよ、お姉ちゃん」
おお、リリーがおされている。感情を読む事は得意だけれど、情報までは引き出せないからか。
「地震が起きたのは結構な夜中だったんだ、そんな中その人は一人で外にいたんだよ。その人がどんな人か、知りたい?」
「まあ、そうですね。その人から話を聞きたいですから」
若干苛立ち気味のリリーの姿を楽しむように微笑むと、スズに体を預け、再度足をバタバタとはためかせる。
「私ね、ずっと欲しかったものがあるの。それが手に入れば、私も未練を断ち切れると思うんだあ」
そして足の動きを止め、するりと体を下の方にずらし、スズに膝枕をしてもらうように寝転がる。
「お姉ちゃん達、優しそうだし私のお姉ちゃんになってよ。それで旅に連れて行って?」
「何を訳の分からない事を... 」
「良いではないですか、リリーさん」
スズがリリーを遮り、アンの頭を撫で出す。優しい手つきに、アンの表情が柔らかくなるのが伺える。
「この子はまだ幼い死霊です。こんなにもはっきりと生前の記憶があるだなんてよっぽど強い未練なのでしょう。それに... 」
スズは撫ででいた手を止め、顔を上げる。そして瞑った目をゆっくりと開き、続ける。
「それに、良い物語が聞けますし」
その目はキラキラと光っていた。だがどこかを見ているはずなのに、どこも見ていないような目だった。ハイライトの無い目からは、何か奥にあるものが怖いと思わせられる。
頭を抱えてはいけませんリリーさん、あなた様の妹さんではないですか。
あ、こっち睨まないで...
「俺よお、よく分からねえけど一緒に飯食おうぜ、腹が減ったよ。メイ」
「はい、アン様もいかがですか?」
よどんだ空気を換気させるような能天気発言である。
その能天気さのおかげか、スズの目はもとに戻る。リリーは腑に落ちないといった顔を浮かべているが、それでもメイの作った夕飯に手を伸ばす。




