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勇者(俺)いらなくね?  作者: 弱力粉
第二章(上)
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第5話


前回のあらすじ、俺はそのへんのガキよりも弱いらしい。



朝だ。カーテンを締め切っていても、まぶたを閉じていても、刺してくる太陽の光で分かる。


だが寝る。


昨晩はスズが部屋に入ってきて、俺が前世で読んだラノベの話を延々と続けた。もちろん俺の俺はヒートアップしないので、昨晩をお楽しむことなく解散。


少し夜更かしもしてしまったし、今日が南の村に向けての出発だそうなので、思い切り寝る。ぶっちゃけ寝過ごすまで寝てやる。


そんな訳でゴロンとカーテンに背を向けるが、またもや違和感がある。鶏肉を焼いて食べている時に、ちょっと中の方が赤くなっていないか心配するような、そんな気持ち悪さがある。


放っておけない違和感に対処すべく、片目を開けると、昨日と同じくメイがいた。


そんなメイは、昨日と同じように...



「おはようございます。勇者様をお起こしするようにと、タイランお嬢様からご指示を頂きました」


「そうか、では俺は寝過ごすとタイランに言付かってく... れええぇ!」



これまた昨日と同じように腰の剣を抜いて、俺の頬に当ててくる。


お、俺にはスズの治療が効かないし、もう死にたくないんだが!



「わ、分かった分かった!すぐに行くから剣を収めろ!」


「今回も、馬よりも速いタイランお嬢様が荷車を引きます。お着替えが終わる頃に、もう一度お部屋を開けさせていただきます」



と、言いたい事だけ言って部屋を出てしまうメイ。朝から心臓に全く優しくない起こし方だ...



**********



荷台にはすでに三人が揃っていて、俺とメイを待っていたようだった。


前回より少し大きめの荷台には、前回と同じようなものが積まれていたが、その中で一つ、異彩を放つ物体があった。


それはリリーがマフラーをクッションに、高めの枕にしていて、俺の背丈ほどあるそれは... 完璧に邪魔だった。



「ハンマー、持ってくんだ... 」


「おう!メイがもう一人増えるようなものだからあんまり変わんねえけどな!」


「タイランお嬢様、もう少し気を使ってはいただけませんか?」


「がははは!気にしすぎだぞメイ!」



俺とメイが乗り込むと、リリーが合図をし、タイランが応える。



「それじゃあああ、出発う!」



*********



リリーから受け取った、恐らく焼きたてのパンとビン牛乳をちまちまと口に入れていると、気づけば、荷車は一面何もない野原を走っていた。


荷台では各々が自由に過ごしている。メイは何やら本に書き込んでいて、スズとリリーは少し早い昼寝を決め込んでいた。


ちょうど牛乳の最後の一滴を飲み干すと、おもむろにリリーがむくっと起き上がり、辺りをきょろきょろと見渡す。



「リリー様、タイランお嬢様が全力で走っておられますので、この調子なら夕暮れ時には到着します」


「ふ、ふああああああ... そうですか、メイがいると気が楽でいいですね。最初の討伐にも連れて行くべきでした」


「力不足でなければ、また同行させてください」


「はい、またお願いしますね... ところで勇者... なんだかムズムズする呼び方ですね、やっぱり阿呆うでいいでしょうか」



いや普通に勇者なんだから勇者と呼んでくれよ。



「タイランも聞いてください」


「ん?ああ」


「今朝、スズから昨日の事を聞きました」



昨日の事... と言われて思い出すのは、本屋であった、少年のパンチを避けられなかったことか?


まさかまた特訓とか言われるんじゃ...



「なぜ恐怖と怠惰の感情が芽生えているのかは分かりませんが、私が言っているのは異世界の科学、の事です」



思い返してみれば、昨晩スズにラノベの事を話している時に科学の事も触れたような気が...



「ああ、それがどうしたんだ?」


「なに!?異世界の科学の話だと!?」



異様に食いついてくるタイラン、速度は落とさないのにしっかりとこちらの話を聞いているようだ。



「そうですか、では人体について聞きたいのですが... 」


「いいやだめだ!先にエネルギーの話をしろ!さもなくば俺はもう荷車を引かないぞ!」



子供のように駄々をこねるタイラン。言っている事とは反対に、気分が高まって荷車を加速させている。



「... 分かりました、ではタイランからどうぞ」



ま、まさかこれは... 女神から与えられたチャンスか!?もしかしておれは戦闘力最強系主人公ではなく、知識をひけらかしていく最強系主人公だったのか?



「まずはてめえの世界のエネルギーの概念を説明しろ、へっぽこ!」



エ、エネルギーの概念?なんだろう電気とかか?いやでも食べ物とかもエネルギーが取れるとかいうし... あれ、エネルギーってなんだ?



「き、基礎的なことはよく分からんが、身の回りのことなら説明できるぞ、ほら例えばどうして太陽の周りをこの星が回っているのか?とか...」


「なに!?もしかして重力以外の説明があるのか!?」


「い、いやその... 後は遠心力とか... 」


「うむ、力のバランスが取れているんだろう。他には何か無いのか?」



あれ?もしかして俺の科学の知識って役に立たない?いやまて何かあるはずだ...



「て、てこの原理... とか?」


「回転運動の話か?何か面白い話があるのか?」



て、てこじゃ既出か... 何かある。何かがあるはずなんだ... 俺のラノベ知識を活用してのしあがる何かが...



「鉄砲... とかは?」


「いやあ、ありゃだめだぜへっぽこ。火薬が量産できないから、この国には数丁しか無いんだ。それに俺達じゃあ殴った方が早いしな」



なんで鉄砲があるんだよ。


火薬... いや待てよ、なんか空気から火薬とパンを作る方法があったような...



「えーと... なんか水素と窒素を合成するみたいな方法が... 」


「んな事してどうするんだ?それに俺は化学には疎いけどよお、水素と窒素を用意できるかわかんねえな...」



はあ?異世界の科学どんだけ進んでんだよ?ていうかお前は脳筋キャラのはずだろうが。



「それより、武器なんかどうだっていいんだよ!てめえの世界では物質の温度をどうイメージしてるのか教えろ!」



ぶ、物質の温度?物理の授業中なんて寝てたから分かんねえけど...



「ええと... 温めると膨張します... 」


「んなこたあ分かってんだよ!どういう仕組みで温度が上がるのか聞いてんだよ!」



し、知らねえよ... 脳筋は常に脳筋であれよ、異世界で科学に突っ込ませるんじゃねえよ...



「っち、もういい、なんか面白い情報があったら教えてくれリリー」


「あなたに役立ちそうな情報が出たら教えますよ。この分だと、人体の知識も期待できなさそうですが」



なんだろう... 何も悪い事をしていないのにめちゃくちゃキレられたんだが。



「では一応聞きますが、細胞が見つかっていないほど遅れてはいないですよね?」


「細胞くらいわかるに決まってんだろ、何かと聞かれたら説明しづらいけど... 皮膚細胞とか赤血球とか」


「そうですか、脳科学について聞きたいのですが... 異世界ではどれくらい進んでいますか?」



の、脳科学?右脳とか左脳とか海馬とかってことか?



「そんなに不安な感情を露わにしないでくださいよ。異世界がものすごく遅れているんですか?」


「い、いやおれのいた世界の科学はすごい。すごいんだが... おれが何も知らないだけなんだ... 」



訳の分からないといった目でこちらを見てくるリリー。必死に理解を追いつかせようとしているように考え込み... やがて一つの結論にたどり着いたようだ。



「教育を受けていないんですか?」



受けてました。おれが寝ていただけなんだよくそが。



「違うみたいですね... あなたの身の回りにあったものを教えてください。どういう文明が築かれているのか、いまいちピンと来ません」



文明レベル... そりゃあネットや便利な交通手段、衣食住に不自由しないって最高の文明レベルたと思うけど、どうやって説明したものか...



「まずはこう... 板があるんだ、これくらいの。スマホって言うんだが、これでどんな情報も調べることが出来るし、遠く離れた人と会話ができるんだ」


「ほう、すまほ、ですか... 情報を離れた場所に伝える仕組みを教えてください」



し、仕組み?そりゃネットだが... ネットってなんだ?そういや電子レンジが動いている時にネットの調子が悪くなるのは電磁波のせいだって読んだことがあるが...



「で、電磁波?というか、波というか」


「でんじは?波... 振動で音を模倣... いや、モールス信号のように働くのですか?その場合、音ではなくてんじは、と言った理由はなんでしょう。どうやって波で情報を... ああ、ここで手詰まりなんですか... 」



なんかよくわからない事を言っているが電磁波以上の事は知らん。



「というより、どんな情報も手に入るのに、どうしてこんなに何も知らないんですか?」



どうしてと聞かれても... サボっていたからとしか答えようがないんだが。



「... 分かりました。メイ、紙と書くものをくれませんか?」



リリーはメイから紙と鉛筆を受け取り、俺に手渡してくる。



「何か役に立つ知識を思い出したら、ここに書き留めておいてください。夜までに何か一つは頼みますよ?どうせ暇なんですから」



言いたいことだけ言ってしまうと、先ほどのようにハンマーに頭を乗せ、目を瞑る。


… 寝たい。


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