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勇者(俺)いらなくね?  作者: 弱力粉
第四章(下)
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ローブ姿の人に出会おう!


前回のあらすじ、四天王の能力は影に関係するらしい。



あの後昼食をとり、周辺を探すも弟さんは見つからず、部屋にも戻って来なかった。



「もおいめい、もものみむもっめむめぇ」


「お水ですね、かしこまりました」



そんなわけで今日の探索は中断され、俺たちは宿の一階の食堂にて夕食をとっていた。


話に聞いていた通り魚料理中心だが、焼いたものとか、クリームソースがついているやつとか、調理方法は豊富みたいだ。



「お姉さまたち、私の家に行ったそうですね。弟はいましたか?」



今朝は店員さんが起きる前に出かけたから、家に向かった事はメイから事後報告。


… それにしてもまだお姉さま呼びなんだ。キャラが徹底されているな。



「いや、家にはいませんでしたね。決まった一日のスケジュールは無いと教えられたので、手当たり次第に探すはめになりました」


「そうですか... ここに戻る前に家はもう一回確認したんですよね?」


「いませんでした」



表情は変えないけれど、明らかに不服そうな顔を浮かべているな。店員さんからすれば、いきなり拉致されて弟さんを探されているから、そりゃ不満だろう。



「もみめい、みみーにもんものよめいもまままめめむえ」


「リリー様、タイランお嬢様が今後の予定をお聞きしたいと仰っております」


「ありがとうございます、聞けば分かりますよ」



ぬ、この揚げた魚美味いな。衣は... なんだこれ、麦の香りが強いな。中の魚は白身魚で、ちょっとくせがある。



「まあはっきり言って、話にあった男を探す以外にやる事は無いですね。夜にもう一度行っても良いんですが... 」


「夜に行くのはちょっと面倒だな。体を洗ったらとっととベッドに入りたいぜ」



あ、これ、衣にビールを使ってるんだ。どっかで嗅いだ事のある香りかと思ったらそれか。



「あ、あの... 一番の問題はやっぱり、四天王の能力だと思います。影に関する能力である可能性が高いので... 」


「そうですね。男が四天王かどうかは確定していませんが、影に関する能力である可能性が高い以上、夜に行くのちょっと気が引けます」



確かに、クラーケンに水中戦を挑むようなものだよな。


む、この料理はタコっぽいな。薄く切られたものが盛り付けられていて、緑色の葉っぱが乗っかっている。味は... レモンかな?



「ちょっと待ってくださいお姉さま。四天王、ですか?」



さっきまで黙って話を聞いていた店員さんだったが、一つの単語に反応する。


あ、こういう所でリリーはちょっと抜けてるからな...



「... メイ、新聞記者の、あの赤髪の少女の顔は見たのですよね。名前は確か... テラーだと」


「はい」


「はあ... どうしましょうか。あの記者もさすがに魔王戦にはついてこないでしょうから、もしかしたらこの店員に取材をするかもしれないですよね」



... なるほど、俺たちが勇者パーティーであることを明かすと、新聞記者にネタを売られるかもしれないと考えているのか。傍から見れば犯罪紛いな事をやっているってのは... どうだろう、街中で普通に戦ったりしているのにネタになるのだろうか?



「はい、ですが私どもに許可を取った内容でなければ、新聞に記載はしないという言質を取ってあります。体裁が悪いので、今までは表立って王族の権利を使うことはありませんでしたが、今回の新聞の内容はカズ王子殿下に確認を取っていただくのが最善かと存じます」


「まあ良いでしょう、後の事はカズに投げます。店員には、メイから適当に話しておいてください」


「かしこまりました」



**********



夕方。料理はどれも美味しく、あっという間に満腹になり、お風呂も済ませた頃。


昨日と比べ二倍の広さになった部屋にて、俺とリリーはゴロゴロしていた。


窓からの風が気持ちいい。こうやって火照った体をちょっとずつ冷やしていくと、体から力が抜けていくと同時に... 風邪をひきやすくなるんですよね。


隣のベッドに寝転ぶリリーは、濡れた髪をタオルに包んだ状態で天井を仰ぎ、俺と同じようにぼーっとしていた。


すると何の前触れもなく一言...



「へっぽこ、今の私には盛大な悩みがあります」



同じように自分のベッドに寝転がる俺に小声で話しかける。



「昨日に引き続いてまた悩みか?」


「今日は疲れました、一杯飲もうか迷っています」


「... 」


「ですが四天王が影を操る能力を持っているとすれば、夜に襲ってくる可能性は高いです。そんな中酔っていて良いのでしょうか」



ベッドがふかふかで気持ち良いな。



「今回は考えることが少し多いです。おまけにスズとはまだきちんと話し合っていませんし」



... そっか、そういえばあれからスズのキラキラとした瞳を見ていないな。



「今のスズはなんというか... 味わわずに料理を食べている感じに近い気がします。それでは楽しく無いではないですか。私はただ、スズが暴走して怪我をしないようにしてほしいだけなんです」


「リリー、手っ取り早くその悩みを解消したいか?」


「... まあ、そうですね」



少女漫画とかラブコメには、登場人物達がちゃんと会話をしないで、どんどんこじれていく展開があるからな。やっぱ一番手っ取り早いのは...


俺は脱力しきった体に力を入れ、起き上がり、壁の穴に向かう。そこは簡単に布でかけられており、仕切りの役割をはたしている。



「スズ、リリーの小腹がちょっと空いているらしいんだ。なにかを一緒に食べないか?店員さんはメイから話を聞いていてまだ帰って来ないんだろ?」


ふふん、やっぱ二人きりにして話し合わせるのが一番。俺は適当なタイミングで席を外して、リリーに解決させよう。



「あ、はい、分かりました!何か買ってきますね」


「え?ちょ... 」



バタンッ...


行っちゃった... 先に俺が買いに行くと言っていれば良かったか?



「はあ... 物事の解決の仕方が下手です。私がそんな簡単に話せるとでも?」



**********


夕方。杖持ちの少女が宿を出て左に坂になっている大通りを下り、十字になっている道を右に、そして更に坂を下って右を見ると、そこにはまだまだにぎわった市場がある。


そこで魚の干物や燻製、ドライフルーツが入った焼き菓子などを買い、麻袋片手に帰路につこうとする。


市場から、少女がおもむろに町を見上げると... 自分の泊まる宿が目に映る。


少し下の方を見ると、市場から宿まで、ほとんど一直線で進めそうな狭い路地があることに気付き、少女は近道をするためその路地へと向かう。



「ふふっ、勇者様。私とリリーさんに気をつかってくれたんでしょうか。慌てて逃げてきてしまいけど、多分勇者様はこの後、私とリリーさんを二人きりにしようとするんでしょうね」



路地は三、四階建ての家の間を通るもので、上り坂になっており、三人ほど並んで歩けそうな幅があった。


夕陽を背にそんな路地を上っていくと、道中開けた場所に出る。真四角に開けたその場所の中心には井戸があり、井戸の縁にはフードを被った何者かが少女に背を向け座っていた。


おもむろに少女は立ち止まり、その開けた場所を見渡す。


井戸しか無いその場所は少し殺風景だったが、辺りの干し竿や小さな椅子が周りの住人の生活感を思わせる。



「珍しい格好をした人だね。おまけに、足が不自由でも、目が不自由でもないのに、杖を持っている」



男の声だ。少し高い声は、開けたその場所に良く響く。



「これは私にぴったりの持ち物なんですよ」


「そうなんだ。他の町から来た人かい?」


「はい、観光で王都から来ました」



杖持ちの少女は持っていた麻袋を壁のそばに置き、杖を両手で抱え、こちらに背を向けている男を見据える。



「へえ、王都から。ここは海が綺麗だろう?それに魚も美味しい」


「はい、今進んでいる話が終わったら、夕陽が沈んでいく時に海が綺麗に見える場所に行こうと思っています」


「そうかい、僕もそうやって夕陽を見に行くときがあるんだ。ぼーっと眺めていると気分が晴れやかになるからね」


「そうなんですね。ちょうど今も、遠くに見える海に夕陽が沈もうと動いていくのが分かります。これを近くで見たら、さぞかし綺麗に見えるんでしょうね。でも、夕陽が沈んでいくと、段々影が長くなっていきますよね」



少しの間、静寂な時が流れる。二人の耳には、うっすらと市場のにぎやかな声が届くだけだ。



「私の影は今、井戸までの距離の半分程度の長さでしょうか」



杖持ちの少女は杖を地面にそっと置き、両手をへその下辺りで組み、再び男を観察する。



「右手に絵の具がついていますね。絵描きの方でしょうか?」



そして井戸を中心に、円を描くように男の横顔が見える位置まで、上品に、音を立てずに歩く。



「あ、髪は銀色で綺麗ですね。顔と声からして、歳はまだ十五、六ですね」


「... 」



杖持ちの少女が指を差すも、男は反応しない。



「そういえば私、あなたによく似た人物を探しているんですよ。その人から話を聞かないといけないんです。その方と関係ある人からはたくさん話を聞けたんですが」



杖持ちの少女は顔の下で手を合わせ、首をかしげる。



「ちょっとローブを取っていただきたいな、と思いまして」


「《俺》から話すことは何もないぜ」


「あなた... 」



その声はさっきのものとは違い、低く濁った、不気味なだみ声だった。


杖持ちの少女はその声を聞くと、目を瞑り、両手と右足を脱力させた構えを取る。


そして目をゆっくりと開き...



「... 私が見る... 初めての四天王ですね」



キラキラと光る瞳を露わにする。


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