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第九話

私達はベルガ王国に入ってから、約三日をかけて、王都に着いた。


ミシェル殿下も、アルティアでは何度も休憩をねだったが、流石にベルガ王国の護衛にはワガママは言えないと感じたのか…それ以上にクリス様の圧が強いのか、必要以上に休憩を取る事なく、比較的スムーズに王都へ着く事が出来た。

(その分、馬車の中では散々私に当たり散らしたのだが)


ただ、一つ私には気になる事がある。

何故かクリス様が、何かと私に絡んでくるのだ。


休憩を取る時、宿泊先に着いた時……等々、私の馬車の乗り降りには決まって私に手を差し出す。

「一人で出来ますよ?」と何度か言ったが、それでも毎回必ず馬車の扉を開けるとそこに居る。

なので、最後ら辺は面倒くさくなって、されるがままにしていた。


私はただの侍女だ。そんなに気を使って貰うような人間ではないのだが…。


そして、そんなクリス様と私を、他の護衛の騎士達がこそこそと見ては、ヒソヒソと話をしている。


人間嫌いだと言っていたクリス様が私と喋るのが信じられないのだろうか…なんとなく居心地が悪い。


馬車の速度が少し緩やかになった。

もうそろそろ王城へ着いたのかと思い、窓から外を見る。

今は跳ね橋の上を通っているようだ。

一度馬車が止まったのは、王城の門が開かれるのを待っているのだろう。


いよいよ、私も殿下も此処での暮らしが始まるのだ。

私は改めて気合いを入れた。


馬車がゆっくりと止まり、扉が開かれる。

やっぱりそこにはクリス様。

私はここ最近で慣れてきたその手を取って馬車を降りる。


私が振り返りミシェル殿下に手を出そうとするも、


「他の護衛がする。お前はしなくて良い」

と言われた為、ミシェル殿下が護衛の手を借りて馬車から降りるのを見守った。


その護衛は、もちろん獣人だ。

ミシェル殿下がその手を取る時、明らかに嫌そうな顔をした。


私の隣のクリス様は、


「お前の主は、『獣人嫌いの人間』のようだな」

と小さな声で言った。


確かに、ベルガ王国に着いてから、王都までの道中、殿下は護衛の誰も自分には近付けなかった。


馬車から降りる時も乗る時も、私が全て手を貸していたし、宿泊先でも、殿下が部屋から出る事は無かった。


ここに来て、初めて見せるミシェル殿下の拒絶の色だ。

手を貸さなかった私を、殿下は一睨みした。


「お前の主を好きになれそうにはないな」

とクリス様は言う。


そして、彼の手は何故か私の手を握ったままだ。


殿下は馬車を降りると、その騎士の手をすぐに離した。

私も急いでクリス様の手から逃れ、ミシェル殿下の後ろに着く。


ミシェル殿下は唸るように、


「あんたのせいで、あんな奴の手を借りる事になったじゃない。覚えておきなさい」

と私に小声で囁いた。

ここで大声を出さなかっただけマシだと思おう。


到着したベルガ王国の王城は、堅牢な造りの謂わば要塞のような城だった。

高い塀に囲まれ、簡単には侵入出来ないだろう。

城自体も大きく、雄壮な佇まいだ。


私達は王城の中の客間に通された。


そこには、二人の侍女がおり、私達を見ると二人が礼をとった。


殿下は、自分が声を掛けなければ彼女達が頭を上げる事が出来ない事に気づいていないのか、何も言わない。


私は小声で、


「殿下、殿下がお声掛けしなければ、二人がこのままでは頭をあげられません」

と言うと、殿下は、


「別にそのままでいんじゃない?」

なんて言い出した。絶対二人にも聞こえてる。


「良いわけないでしょう?!殿下」

と私がこれまた小声で言い募ると、


「仕方ないわねぇ。頭、上げて良いわよ」

と、渋々二人に声を掛ける。私は生きた心地がしない。


さすが二人は、プロ中のプロ。顔には不快感を出さずに、


「私達は…」

と言いかけた所で、殿下は、


「出ていってくれる?私には侍女はこれ以上必要ないから。この……シビルだけで十分よ。下がって?」

と挨拶を遮った上に、出ていけと言った。


しかも、私の名前…つっかえましたよね?もしや忘れてました?


「しかし…」

と二人が更に言葉を重ねようとするも、


「あ~いいから、いいから。あなた達の上司に、私が断ったって言っといて?わかった?」

と全く二人の顔も見ずに言い放つと、殿下は部屋に用意された長椅子へドスンと座り込んだ。


予想はしてた…しかし、失礼極まりない態度だ。

断るにしても、断り方というものがあるだろう。


私は二人に、

「せっかく来ていただいたのに本当に申し訳ございません。後で私の方から侍女長へお詫び申し上げたいと思います。

申し遅れました、私、シビル・モンターレと申します。

アルティア王国からミシェル王女に付いて参りました、専属侍女になります。以後、お見知り置きを」

と、謝罪と挨拶をした。


殿下は別に、侍女なんていらな~い。で済むかもしれないが、私はそういう訳にはいかない。


この王城で働く侍女達と、上手くやっていかなければならない。

ここでのやり方を学ぶ必要があるのだ。


「私は、ニーナ。こっちはイブ。もう少ししたら陛下が謁見の間に来るようにと。

私達はその準備を手伝う為に来たのだけれど……貴女一人で大丈夫?」


「はい。ご心配ありがとうございます。

ただ、殿下にお茶を淹れたいのですが…まだ私はこちらの王城の事がわかりません。

厨房まで、案内して頂けると助かるのですが…」


「お茶の用意なら、この続きの間に簡単な台所があるの。でも、今はあまり時間がないし、私が、お茶を用意して持って来るから、貴女は直ぐに王女様の準備に取り掛かって。

一応、あと一時間半程で謁見の間に来るようにと言うことだから」


さっき私にニーナと名乗った侍女が私にテキパキと指示をした。

あと一時間半。けっこうギリギリだ。


すると、もう一人のイブという侍女が、


「湯浴みの用意は出来てるわ。王女殿下が謁見している間に、貴女を侍女長の元へ案内するわね。

じゃあ、私達は下がるから、後はよろしく。時間になったら、迎えの者が来ますから」

そう言って二人は下がっていった。


ニーナの耳は白くて長かったそして、尻尾は白くて丸い。多分兎の獣人だろう。

もう一人のイブは白くて三角の耳に白くて長い尻尾…猫の獣人だろうか…二人ともめちゃくちゃ可愛かった。

モフりたい。

でも、獣人の耳も尻尾も触ってはならない。触れる事が出来るのは、パートナーだけなのだそうだ。

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