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第七十話〈最終話〉

第二子の妊娠は長男のアダムが三歳の頃だった。


私はアダムの時よりも酷い悪阻に悩まされ、体調を崩しがちになった。

食事もなかなか喉を通らず、思いの外、痩せてしまった。

痩せるとその分体力もなくなってしまう。

私は寝台で横になっている事が増えていた。


結婚してからの私の任務?である、クリス様の尻尾を洗う事すらままならない。


「おかぁしゃま、だいじょうぶ?」

と可愛い息子がそんな私の側から離れない。

そしてあまり可愛くはない夫も離れない。


「アダム、お母様は大丈夫よ。お外で、リリーと遊んで来たら?それとも、おやつをお庭で食べる?」

と言っても、


「いや!おかぁしゃまのそばがいい。おやちゅもいらない」

と言って私にしがみついて離れず、


「クリス様、私の事はお気になさらず、執務にお戻り下さい。ずっとここに居ては、サイモンが困ってしまいますわ」


「困れば良い。俺は困らん。それに、ここでも仕事は出来る」

と言って離れない。


困った。


私が吐こうとすると、息子は途端に顔色を悪くしオロオロして、夫は自分の手を差し出し『ここへ吐け』と言ってくる始末。


おちおち吐いてもいられない。


悪阻中はとにかく元気に見える様に振る舞うという、謎の使命感に駆られながら、つらい悪阻の時期を乗り越えた。


安定期に入り、王妃としての仕事を随分と後回しにしてしまったと、仕事に復帰したら、


「それらの仕事は全て陛下がお済ませになっております」

と私付きの事務官に言われた。


「陛下が?」


あんなに私の側に張り付いていたのに、いつの間に?と私は驚くばかりだ。


獣人は番を得ると数倍の力を得ると言う。


私がクリス様に執務についてお礼を言うと、


「お前と結婚してから、俺はすこぶる調子が良い。数日なら寝なくても大丈夫だ」

と強靭さをアピールしていた。


お陰で私は王妃の仕事を殆んど滞らせる事なく、仕事に復帰出来たのだった。


私はたまに、鬱陶しいと思いながらも、良く似た夫と息子に支えられながら、第二子を出産した。


これまた、クリス様に良く似た息子であった。もちろん、耳も尻尾もある。


悪阻は酷かったが、出産は安産で、今回はあまりヨレヨレにならなかったので、息子と夫の頬擦りを、すんなりと受け入れられる事が出来た。


次男は、ロビンと名付けられた。



ー十年後ー


「ほらほら、もうすぐ到着されますよ。三人とも用意は良い?」


「母上、アナスタシアがいません」


「は?アダム今何て?どこに行ったのよ、あの子は!」


「そういえば、さっき、中庭の方へ行くのを見ましたよ?」


「ロビン!どうして止めないの?もう時間がないのよ?」


「シビル、安心しろ。アナスタシアは捕まえた」


「あぁ…良かった。クリス様ありがとうございます。アナ……どうしたの?」


「あのね…おきゃくさまにお花をさしあげようとおもって。つんできたのよ?ほら?きれいでしょう?」


「アナ…綺麗ね。きっとお客様も喜んで下さるわ。でも、今度からは、どこかに行く時はお母様に言ってちょうだいね」


「はい。ごめんなさい」


「さぁ、もう時間だ。行こうか」






今日は、ランバン王国の国王と王妃をお迎えする。


この度、我がベルガ王国とランバン王国が国交を結ぶ事になった。


一年前、ランバン王国の国王が崩御され、新しい国王が即位された。


新しい国王、ブロア陛下は、ベルガ王国との国交を結ぶ事に積極的であった。



クリス様が侵略による国土拡大を全面的に止め、国内を豊かにする事、また周辺諸国とは友好関係を築いていく事に方向転換をして十数年。

この政策が実を結んだ形だ。



私達はランバン国王夫妻を迎えるべく集まった。


クリス様が、


「いよいよだな」

と言うと同時に、


「ランバン国王陛下、妃陛下到着されました」

との案内で、国王夫妻が部屋に入って来た。


ブロア陛下と、クリス様が固い握手をかわしている横で、


「久しぶりね、シビル……いや、シビル王妃」


「お久しぶりでございます。ミシェル王妃」


私とミシェル殿下の十数年ぶりの再会であった。


ランバン王国の王太子はブロア殿下の兄であったが、ミシェル殿下がブロア殿下の元に嫁いで二年後、不慮の事故で亡くなってしまった。


ブロア殿下は王太子となり、ミシェル殿下は図らずも王太子妃となり、ブロア殿下を支えた。

そして昨年、ブロア殿下は国王へと即位され、ミシェル殿下は、なんとランバン王国の王妃となったのだ。




ミシェル妃は、私の子ども、アナスタシアを見て、


「シビルにそっくりね」

と笑った。


アナスタシアは現在五歳。顔も、そして無表情な所も私に良く似ていた。

ちなみに、私にそっくりなアナスタシアをクリス様は溺愛している。


アナスタシアは、ミシェル妃に、


「はい。これをどうぞ」

と言って、さっき中庭で摘んだ花を差し出した。

青いデルフィニウムだ。


ミシェル妃は、アナスタシアの目線に合わせる様にしゃがみこんでその花を受け取った。


「ありがとう。とても綺麗だわ」

と笑顔でアナスタシアにお礼を言うと、アナスタシアは、微かに笑った。


ミシェル妃は、立ち上がると、


「私の息子の婚約者にどうかしら?」

と私を見た。


「……ミシェル妃陛下と親戚付き合いをする事になるって事ですよね?……出来れば遠慮したいです」

と私が言うと、


「相変わらずね。貴女らしいと言えば貴女らしいわ」

と苦笑いした。


そして、ミシェル妃は、


「ねぇ、デルフィニウムの花言葉を知ってる?」

と私に尋ねる。


「確か……『高貴』とか『清明』とかではなかったでしょうか?」

私が答えると、ミシェル妃は、


「それもあるけど、青いデルフィニウムには『わがまま』って言う意味もあるのよ?」

と笑った。


私達は思わず、


「ピッタリでしょう?」「ピッタリですね」

と声が重なる。


そして、私達は笑いだした。


その声に、クリス様もブロア陛下も、アダムもロビンもアナスタシアも、何故かつられて笑いだした。

その声はいつまでもいつまでも響いていた。



ーFinー




これで完結です。

最後までお付き合い頂きました読者の皆様に心から感謝申し上げます。


また別の物語でお会い出来る事を楽しみにしております。

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