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第六十九話

私とクリス様は結婚した。


もちろん、国民全員が祝福している訳じゃない。

特に、貴族の中にはクリス様にあからさまな不信感を表す者もいた。


それでも、クリス様は王太子として、軍隊の指揮官として、今まで通り、いや、今まで以上に自分の役割を果たした。


しかし、私が王太子妃になった事で、変わった事がある。

それは、人間が治める国との関係性だ。


人間を良く思わない獣人が存在するのと同様、獣人を良く思わない人間が存在する。

国と国の利益の為にベルガ王国と国交や貿易をしている国はわりと多い。

しかし、国交があるとは言え、国民の往来はかなり少なかった。

私が王太子妃となってから、そういった国から王侯貴族が、ベルガ王国へ来訪する事が増えた。

そして、それに伴い国民の往来も増えていった。


それを良しとしない人も確かに居たが、宿を営む者や、観光業を主たる産業にしている領地は、それを歓迎し喜んだ。


貴族のプライドは理解出来なくもないが、柔軟な考えもまた必要なモノなのだと、私もよく考えるようになった。

それはクリス様も同じだ。

クリス様は常々考えていた事を行動に移した。


「今後は侵略による領土拡大を一旦中止とする」


軍部や、昔の考え方の貴族からの反発は大きく、クリス様に反対する勢力も現れた。


しかし、クリス様はそれにめげる事なく、国土の拡大より、国内を豊かにする政策を訴え続けた。




「クリス様、おかえりなさいませ。お疲れ様でした」


私達が結婚して一年ほど経つ頃には、やっとクリス様の案が通り、賛同する貴族もかなり増えた。


国内を豊かにしたいという政策を当然のように平民は喜んで受け入れており、クリス様は陛下よりも国民の人気が高くなっていた。

それに伴い国王へと推す声も大きくなってきた為に、クリス様は後半年もすれば国王になる事が決まっている。


「体調はどうだ?吐き気は?」


「大丈夫です。 もう悪阻も軽くなってきましたから」

その頃には私は第一子を妊娠していた。




「元気な男の子にございます!」

私はクリス様に良く似た男の子を出産した。


すでに、クリス様は国王となり、忙しい毎日を送っていたが、私が産気付くと、出産の為に用意された部屋の前に張り付いて、飲まず食わずで、出産が終わるのを待ってくれた。


「シビル!大丈夫か?」


私は出産でヨレヨレだが、そんな私に愛しそうに頬擦りをする、クリス様。


「クリス様……私、汗をかいておりますので……出来れば頬擦りは……」

やんわりと離れて欲しいと告げたつもりだったのだが、


「シビルの無事を体全体で確認したいんだ。あぁ、こんなにヨレヨレに……」

ヨレヨレって言葉にしないで欲しい。


「我が子を……息子を見てあげて下さい」

と私が微笑むと、乳母はおくるみに包まれてホギャホギャ泣いている息子を連れて来てくれた。


クリス様は、


「立派な耳と尻尾があるな。獣人と人間のハーフでも獣人寄りの特徴が出るからな」


確かに、イヴァンカ様のお子様達も立派な耳と尻尾があった。

私はクリス様の特徴を持って生まれてくれた息子が愛しくて仕方なかった。


クリス様が国王だからといって、息子が王太子になるとは限らない。

クリス様もそこには全く拘っていなかった。基本的に『成るように成る』というスタンスだ。

私も、そこはクリス様と同意見だった。



私は王族には珍しく自分の手で子育てを行った。


うちの実家が貧乏で乳母や侍女を雇う余裕がなかったので、兄も私も妹も母の手で育てられた。

それが良かったとか、悪かった……とかではなく、私がそれしか知らなかったからだ。

それに妹が赤ちゃんの頃、おしめを替えたり、離乳食を食べさせたりしたのは私だ。赤ちゃんの世話には慣れていた。


もちろん、私には王妃としての執務があるため、その時には遠慮せず乳母に任せた。

クリス様は私が息子の世話をしているのを興味深そうに見ていたが、そのうち、自分も手を出したくなったのか、私に訊きながら育児を手伝ってくれるようになった。

自慢ではないが、クリス様は良き夫であり、良き父親だ。


私は王妃という重責も、クリス様と息子のお陰で乗り切る事が出来ている。


そんな中、私は二人目を妊娠した。






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