第六話
私は馬車の窓より外を見た。
殿下をずっと見ているのにも飽きてきたからだ。
結局私は、この話から一ヶ月。 王都から自領に帰る事は出来なかった。やるべき事が多すぎて。
しかし、このベルガ王国への道中に自領の近くを通るらしく、そこで実家に顔を出しても良い事になった。
国境までは他にも侍女がいるのだ、少しぐらい甘えさせて貰おう。 って言うか、今だって、私じゃない侍女が同席してくれても良いと思うのだが。
このワガママ王女と二人っきりって……本当に息が詰まる。
休憩に立ち寄った宿で、殿下の着替えと昼食をとる。
その後も私は殿下とずっと二人っきり。
「もう!お尻が痛いわ!疲れた!」
「先程、そう言って休憩を取ったばかりではありませんか。 そうそう休憩してばかりだと、今日の宿泊先に着く前に日が暮れてしまいます。
殿下は野宿をしたいのですか?私は嫌です」
「野宿?なんでよ!私は王女よ?!」
「日が暮れてから馬車を走らせるのは危険が伴います。 ですので、ここから今日の宿泊先までは休憩は致しかねます。ご了承下さいませ」
「いやよ!疲れたの!」
座って、文句を言ってるだけで何を疲れる事があるのか。
「じゃあ…のじゅ」
「野宿はもっと嫌!」
埒が明かない。
「ねぇ、マークを呼んで!」
……ロイド卿はこの馬車に並走して馬で付いて来ている。呼んでどうするのか。
「ロイド卿は馬に乗っておりますので、馬車に乗る事は不可能かと……」
「じゃあ、あんたが馬に乗れば良いじゃない!」
……へ?
「ロイド卿と馬車に二人きりにするわけには参りません。
一応婚約者の居る男女を二人には出来ない事は殿下でもご理解して頂けますよね?」
「………ちょっと待って。今何て言った?『婚約者の居る男女』? どういうこと?まさか、マークに婚約者が居るっていうの?」
あ、やべっ。内緒だった…。しくじった。
「さぁ…私は存じません」
「嘘つきなさいよ!能面だから顔には出てないけど、絶対嘘!誰よ!私のマークを盗った泥棒猫は!」
私のマークではないけどね。
せっかく能面なのに……ちくしょう!
「誰なのか吐きなさい!ぶっ潰してくれるわ!」
それを聞いて、ロイド卿を売ると思う? 絶対喋りませんけど?
「先程は、私の言葉の綾で御座います。お忘れ下さい」
私はギャーギャー言う殿下を完全に無視する事にした。
これが後十日も続くのか……いや、十日どころじゃないんだ……一生続くんだ……私、直ぐに総白髪になるんじゃないかしら…。 私は、また馬車の外を眺め、これからの自分の人生に思いを馳せるのであった……。