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第五十二話

私は、ミシェル殿下の支度をする。


今日は、アルティアのライル殿下を歓迎する晩餐会がある為だ。


「婚約破棄された王女が、晩餐会に出る必要あるのかしら?」


ミシェル殿下の疑問も最もだ。

アルティア王国の王女として同席する訳だが、元々はアーベル殿下の婚約者としてこの国に入国し、今は婚約破棄された身だ。

なかなかに複雑な立ち位置と言える。


「それに、あんたも。もう王太子殿下の婚約者なんでしょう?私の世話なんてしてて良いの?」


「私は、殿下がランバンに出立するその時まで、専属侍女です。それは変わりませんから。…さぁ、出来ました」


支度を終えた殿下が鏡を見て、


「このイヤリング、もう少し小さな物に代えて?晩餐会であまり音がするのも良くないわ」

と殿下がイヤリングを外す。


前なら、もっと派手な物をと言っていただろうに。


私は、


「そうですね。失礼いたしました。では、こちらの真珠にいたしましょうか?」

と殿下に見せると、


「そうね。それなら良いわ」

と頷いた。


殿下にとって、ベルガ王国での想い出はきっと楽しい物ではなかっただろう。

でも、殿下を成長させる事になったのは間違いない。



私は殿下と共に晩餐会の会場に向かう。入り口には、ライル殿下が待っていた。


「お兄様、お待たせいたしました」

とミシェル殿下が微笑むと、


「なんだか、ミシェルが大人になったように感じるよ。これなら、ランバンでもやっていける」

とミシェル殿下をエスコートする為、腕を差し出した。


私は二人の背中を見送ると、別の入り口から会場に入った。


晩餐会は変な空気になる事もなく終了した。

色々と思う所はお互いあるだろうが、全ては丸く収まった。イヴァンカ様のお陰だ。


この晩餐会に父も是非にと言われたらしいが、王族だらけでは、食事も喉を通らないと断ってしまった。…多分、正しい選択だと思う。


その代り、明日の昼食は父と私とクリス様でとることになった。その時の父を思うと少し胃が痛い。



晩餐会を終え、ライル殿下は別の客間へと案内された。


私とミシェル殿下と護衛が殿下の部屋へ戻っていると、後ろから、


「ミシェル王女!」

と呼び止める声がし、私達は振り返った。


……アーベル殿下だ。


アーベル殿下は晩餐会には出席していなかった。流石に婚約破棄した元婚約者との同席は憚られたのだろう。


アーベル殿下は足早にこちらに駆け寄ると、


「ずっと…謝らなければと思っていた」

とミシェル殿下を見つめた。


ミシェル殿下は、


「……初めて私の目を見て下さいましたね」

と微笑んだ。


「…ッ」

黙り込むアーベル殿下に、


「私が未熟なばかりに、ずっと殿下に不快な思いをさせてしまっていた事、私も申し訳なく思っております。

しかし、殿下。王族がそんな簡単に謝罪を口にする物ではありませんわ。

私は、ランバンで幸せになります。アーベル殿下にも良いご縁がありますよう、お祈りしております」


そうミシェル殿下は言うと、立ち尽くすアーベル殿下を置いて、


「シビル…部屋へ戻りましょう」

と歩きだした。


私はアーベル殿下に頭を下げると、振り返る事なく歩いていくミシェル殿下を慌てて追いかけた。



翌日の昼食。


カッチカッチになった父と共に、クリス様の待つ会場へと案内された。


父は手と足が同時に出ている。それで良く歩けるな…と私は思った。


私達が部屋へ入ると、クリス様は、


「あぁ!貴方がモンターレ伯爵か!昨日は挨拶も出来ず申し訳なかった」

と、立ち上がり父を出迎える。


相変わらず父は手と足が同時に出ていて、私はハラハラとしながらその様子を見守った。


「は、はじめまして。アウグスト・モンターレと申します。いつも、む、娘がお世話になっておりま…」

と言いながら頭を下げる父に、


「堅苦しい挨拶は抜きで。これからは私の義父になるのだからな!」

と豪快に父の背を叩くクリス様。


二人の様子は対照的で、謎に陽気なクリス様と可哀想な程恐縮する父。


私は、


「王太子殿下、今日はお招きありがとうございます」

と二人の様子に割って入った。


「本来なら、昨日出迎える予定であったが、視察が長引いてしまった。晩餐会に出席されるかと思っていたが、断られたと聞いてな。

急遽、この席を用意したんだ。昼食で申し訳ないな。夜は、ライル殿下と約束があって」

とクリス様が言うと、


父は力なく、


「ちゅ、昼食で十分でございます。ただでさえ緊張しております故」

と額の汗をハンカチで拭いながら答えた。


晩餐になれば、フルコース。その分時間は長くなる。

昼食ですら、父の心臓が持つのか心配だ。


父はお人好しで、穏やかだが、社交が上手な訳じゃない。

母の方が、もう少し度胸があるんじゃないかと思うぐらいだ。


貧乏伯爵で、特別社交が必要であったわけではない我が家が、急にベルガ王国の王族と縁付くなど、人生何が起こるかわからないものだとしみじみ思う。


昼食では、クリス様が一方的に父に話しかけ、

父が『あー』とか『うー』とか言っているのを見かねた私が話の続きを引き受けるといった具合だ。


結局、私とクリス様が喋っているようなものだが、それでも父はガチガチで、緊張で喉が渇くからか、水を何杯もお代わりする羽目になっていた。

昼食がなんとか終わり、クリス様と別れた父が直ぐ様ご不浄に飛び込んだのは言うまでもない。



ミシェル殿下がライル殿下とゆっくり話したいと言うので、私も父と話す時間を取らせて貰った。


家族の事、領地の事、領民の事。父から気になっていた事を聞きながらお茶を飲んでいると、


「あぁ、そうだ。お前、オーランドの事を覚えているか?」

と父が私に訊ねる。


…覚えているも何も…私の元婚約者ではないか。

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