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第五十一話

翌日からイヴァンカ様には、この国の理を色々と教えてもらう事になった。


「まさか、一ヵ月後に御披露目なんて。どうしてそんなに待てないのかしらね……」

と溜め息混じりに呟くイヴァンカ様。



クリス様が遣わせてくれた獣人の侍女を見ても、ミシェル殿下は何も言わず、


「私に負けないよう、せいぜい頑張りなさい」

と私を送り出してくれた。


私は少なくとも、私達の婚約のお披露目の為に開かれる夜会に招待されるであろう貴族ぐらいは頭に入れねばと、必死に暗記している最中だ。


ふと私は、


「イヴァンカ様は…フェルト宰相から番だって言われてるんですよね?」

と前に聞いた二人の馴れ初めを思い出しながら質問してみた。


「ん?そうね。主人はそう思っていたと思うわよ。私にはわからない感覚だから、特にそれについて、今は考えた事もないけど」


「『番』って……何なんですかねぇ。それって……なんて言うか『好き』とかそう言う気持ちなんでしょうか?」

私は昨日からのモヤモヤをなんとなく、口にしてみる。


「うーん。私にもそれはわからないわね。

本能的に相手を求めてしまうものらしいけど、それを『好き』と言う言葉で置き換えられるかと訊かれれば難しい所よね」


そうですよね…。なんか、クリス様を見てても、私への気持ちがよくわからない。

執着に似たものは感じるが…それが好意かと言われると、そんな風には感じない。


これはもう政略結婚ですよ!と言われた方が、割りきれるというものだ。


難しい顔をしている私にイヴァンカ様は、


「急に状況も周りの環境も変わってしまうんだもの。戸惑うのは当たり前だと思うわ。

でも、そんなに難しく考えなくても良いんじゃない?今は、自分に出来る事を一つずつやっていきましょう。

気持ちがついて来なくても、それを申し訳なく感じる必要はないのよ?」


と言われ、私はストンと腑に落ちる。

そうか……私はクリス様に自分も同じ様な気持ちを返さなければならないと、無意識に考えていたのかもしれない。


でも、クリス様の気持ちが私には感覚的にもわからなかったから、どんな気持ちを返せば良いか分からなかった。

そうか。

私には『番』なんてものはわからない。

だから、その部分を理解出来なくても仕方ない。

なら、そこを考え込むのは止めよう、そうしよう。


私は、


「イヴァンカ様、ありがとうございました。少しスッキリしました」

と言って改めて、暗記に取りかかった。


それを見てイヴァンカ様は、


「……また、殿下はやり方を間違えているのね。全く気持ちが伝わっていないじゃない」

と呟いた。

暗記中の私には、その呟きが耳に届く事はなかった。


私は王太子妃になると言う事を業務だと思う事にした。

今までだって、仕事だと思えば、意外と何でもこなしてきたのだ。


気持ちや感情を考え過ぎて動きが取れなくなっていたが、仕事だと割りきれば、案外上手くいく。

何だ。最初からこうすれば良かった。

結婚だって仕事だと思えば、何とかなるものだ。


間違いなく暗記能力の上がった私を見て、イヴァンカ様は何故か可哀想な子を見る目で、


「……シビル……そういう事じゃないと思うのよ。私の言い方が悪かったのかしら……」

と呟く事が増えた。




今日はいよいよ、アルティアの王太子ライル殿下がこちらに到着すると連絡があった。


ライル殿下はここベルガ王国に二日滞在して、そこからミシェル殿下と共にランバンへと出立する。

私がミシェル殿下に支える時間は、あと二日となってしまったという事だ。



「お兄様!」

部屋へ訪れたライル殿下に、ミシェル殿下は抱きついた。


「ミシェル!すまなかったな……辛い思いをさせた。私も陛下も、申し訳なく思っている」


「いえ……。私が悪かったの。覚悟もなくここに来たから。アーベル殿下に申し訳ない事をしてしまったの」

と涙を流すミシェル殿下を見て、

私は、色々とミシェル殿下も限界だったのだと思い知った。


ライル殿下はミシェル殿下の涙を指で拭いながら、私を見ると、


「シビル。お前とクリスティアーノ殿下については…まぁ、良くわからんがお陰でこっちは賠償金を支払わずに済んだ。

その礼……という訳ではないが……さぁ、こっちへ」

とライル殿下が廊下に声を掛ける。


すると扉に現れたのは……


「お父様?!」

私の父、アウグスト・モンターレだった。


「シビル!元気だったか?」

と父も駆け寄って私を抱き締める。


「ええ。私は元気にしております。家族は?皆元気で?」

と私は父の腕から少し距離を取り顔を見上げた。


「お前のお陰で借金は無くなったし、仕送りのお陰でずいぶんと暮らしは楽になったよ。皆元気だ。

セシリアも、ローリーもお前に会いたがっていたが、長い道中になるからな。

私だけがお前に会いに来た」


セシリアは母。ローリーは妹だ。


「お兄様は?」


「ヨレックは今、南方の砦に勤務していてな。まだお前の……結婚については話せていないんだよ」

騎士になって実家を支えている兄の顔を思い浮かべ、


「皆、驚いているでしょうね」


「ああ。私にも何が何だかさっぱりだ。

まさかお前がベルガ王国の王太子妃になるなど……陛下の遣いから、婚約証明書にサインを求められた時には、卒倒するかと思ったぞ」


「相談もなく勝手に決めてしまってごめんなさい」


「いいんだ。私達はお前を信じてる。お前の決めた事なら反対などしない」


「お父様……」


私は父の腕の中でつい泣きそうになってしまった。


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