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第五十話

「それと…だな。王女がランバンに向かって発ってからなんだが…シビルさえ良ければ、王城に住んで貰えないか?」


「フェルト公爵邸で暮らすのかと思っていたのですが…」


「フェルト女史がそう提案しているのは、知っている。だから、もし良ければ……なのだが」


何故かクリス様はモジモジしている。もっと、堂々と命令しても良いのに。


今までかなり強引だった割に、ここにきて急に私の意思を尊重してくれる気になったようだ。


「…では、王城に住まわせて頂きたいと思います。少しでも殿下の事を知りたいと思っておりますし…」

と私が言うと、クリス様は嬉しそうに、


「そうか!良かった!実はもう、部屋の用意は出来ているんだ。ここは俺の部屋だが、この隣は夫婦の寝室。その向こう隣が王太子妃の部屋となる。つまり、そこがシビルの部屋だ。少し見てみるか?」

とキラキラした目で私を見ている。

ここで、断る訳にはいかないだろう。


「…では、拝見させて頂いても?」

すると、クリス様は私の手を引いて、廊下側から私に用意したと言う部屋へ向かった。

夫婦の寝室を通らなかったのは、私への配慮だろう。…まだ婚約者だしね。


「ここだ」

と扉を開けると、そこは広々とした居室だった。

白と金を基調とした家具。大きな窓には紺色に白の刺繍が眩しい重々しいカーテンがかかっている。


…全体的に白っぽいので明るいし、パッと見ただけでも、全てが高価なのがわかる。…ここで暮らすの?壊したりしたらどうしよう…。

私が、青ざめていると、


「どうした?気に入らなかったか?」

と心配そうに、尋ねるクリス様に、


「いえ。素晴らしいお部屋だと思うのですが…あの…壊したらどうしようかと…」

と私が言うと、クリス様は笑った。


「そんな事は気にするな。ここの物は全てお前の物だ。どう使おうが、壊そうが、お前の好きにしたら良い」

…そんな割りきれる訳がない。


そんな私の心も知らず、クリス様はまた私の手を引いて奥の扉へと案内する。

そこは私の寝室だった。


天涯付きの大きな寝台がドーンと鎮座しているのに、全然狭くない。これが寝台?どんなに寝返りを打っても絶対に落ちそうにない。


その壁一面にはクローゼットがついており、そこをクリス様が開くと、ずらりとドレスが掛かっていた。…え?これ誰の?


私が目を丸くしてそのドレスを眺めていると、


「どうだ?女性のドレスなど選んだ事がなかったから、知り合いに頼んで選んで貰ったんだ。気に入ったやつはあるか?無いなら、()()()()()()

と、さらりと怖いことを言ってのける。


また作らせる?では、このドレス、全てオーダーメイド?私の為に?


「こ、このドレスは私の…で御座いますか?」


「当たり前ではないか。サイズは、お前がここのお仕着せをサイズ直ししただろう?それを元に作らせた。

本来なら、きちんと採寸した方が良いとデザイナーには言われたがな。

さすがに採寸はさせて貰えないだろうと思ってな」


……ちょっと待って。ドレスって、そんなに早く作れる物?


ここの家具だってそうだ。私との婚約の話が出たのは、ミシェル殿下とアーベル殿下との婚約破棄がきっかけの筈。

それから、今まで…半月程?いや、それよりも短いのでは?そんな時間で用意出来るものなのか?


「あの、これ程の物……ドレスにしてもお部屋にしても…ですが、支度にはお時間が掛かるものだと思っておりましたが……」

と私が恐る恐る訊ねると、


「ああ、時間が無かったからな、急がせた。結局三ヶ月程かかってしまったがな」


「え?三ヵ月?!」


それって、私と殿下がこのベルガ王国に来た直後じゃない?


「あぁ。それでもギリギリだったがな。

ドレスはまた、いくらでも作れば良い。今度はきちんと採寸させよう。

しかし、一ヵ月後の御披露目用のドレスはまだなんだ。少し拘ってもらっているからな」


得意満面でクリス様はそう言ったが、私が引っ掛かっているのはそこじゃない。


「いえ…あの、三ヵ月前とは?それは、私達がベルガ王国へ到着した直後の事ではないですか?」


「そうだが?それがどうかしたか?」


「どうかしたかって……私と殿下の婚約のお話が出たのは、ここ最近の事であると認識していたのですが。どうして三ヵ月前から?」


「その事か。それは俺が決めていたからだ。お前をあの国境の町で見た時に、俺の妃にすると」


……決めてたって?え?初対面で?


「でも、私と殿下は…あの時に初めてお会いしたんでしたよね?」


「あぁ。そうだが?でも、そんな事は関係ないだろう?あの時、俺にはわかったんだ。お前は俺の『番』だ。手離すつもりはない」


「『番』?」

…そう言えば、イヴァンカ様もフェルト宰相から『番』と言われたと言っていた。

まさか私がクリス様の『番』?


「そうだ。人間のお前には馴染みがない話だろうがな。俺達獣人には、稀に『番』を認める者が居る。

ただ、最近では滅多にそれを感じる者が存在しないだけだ。その本能はすでに殆ど失ってしまったものだと思われているからな」


確かに私達人間は『番』と聞いてもピンとこない。


クリス様は続けて、


「俺の周りでも、そんな風に感じて結婚する者など、滅多にいない。極々稀だ。

だから俺も一生その感覚がわからないまま、誰かと結婚するものだと思っていたが。

まさか自分に番が現れるとはな。運が良い」


「運が良い?」


「あぁ。番を得た獣人はその力が何倍にも膨れ上がると聞いた事がある」


…なんだろう?『番』という者が存在する事は、お話の中では知っていたし、獣人は番を見付けると狂おしい程にその存在を求めるものだとも聞いたことがあるが……。

私が人間でその感覚がわからないからだろうか、『私』だから結婚したいのではなく『番』だから結婚したいと言われているようで、なんとなく複雑な心境になる。

私が捻くれ過ぎているのだろうか?

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