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第三十九話

「あの日、怒っていたのは、王太子殿下とアーベル殿下ではありませんか?ミシェル殿下の振る舞いに。

私はあの日、自分が体調を崩した事を後悔しました。でも、きっと遅かれ早かれこうなっていたと思うのです。

ミシェル殿下はお二人のお眼鏡に叶う事は無かった。

でもその一方で、あの日のお茶会で私が殿下の側に居れば、こんな風に婚約破棄される事はなかっただろうとも思うのです。

なので、怒るとすれば、自分自身に…ですかね」


「それは、違う。俺達は…。いや、なんと言っても…言い訳になるな。

しかし、俺達が…焦っていたのは認める。婚約式までに何とかしなくては…と焦っていた。

アーベルはこの結婚を嫌がっていたし、アルティアは婚約解消に首を縦に振らなかった。

強行手段に出た事は認めよう。ただ、シビル…お前に責任はない」


「アルティアにとって、ベルガ王国の王族との婚姻は願ってもない事でしたので、婚約解消を認める事は難しかったでしょう。

アルティア側の気持ちが理解出来るが故に、私の不甲斐なさに腹が立つのです。

ミシェル殿下をお守り出来なかった。

私は主を守る事も、導く事も出来ませんでした…侍女失格です」


「…っ。違う。そんな事はない。お前は良くやっていた」


「……ありがとうございます。でも、こうやって言えるのもランバンとの婚姻が決まったからです。

フェルト女史には心から感謝をしております。

…そういえば、フェルト女史から時間を作るように言われたのですが…此処には王太子殿下しかおられませんよね?」

と私が言うと、クリス様は、手紙を差し出してきた。


「フェルト女史からだ」

私はその手紙を受け取って中を確かめた。



〈シビル。騙すようになってしまってごめんなさい。貴女から無視をされてすっかり落ち込んでしまった、()()()の為に一肌脱ぐ事にしたの。

出来れば怒らずクリス殿下の話を聞いてあげて頂戴ね〉



フェルト女史からの手紙には、そう書いてあった。

私は手紙を封筒に仕舞うと、


「王太子殿下は、私に何のお話があったのでしょうか?」

と訊ねる事にした。

フェルト女史から話を聞くよう書かれていたのだ。その通りにするしかない。


私にそう訊かれたクリス様は、


「もう、名前では呼んでくれないのか?」

と少し寂しそうに私に問いかける。


「元々、名前で呼んで良いような御方ではなかったのです。従来の形に戻っただけです」


「…俺が願ってもか?」


「一介の侍女には過ぎた事です」


「その事だが…お前、いや、シビル。シビルは侍女ではなくなる」


「!!どういう事でしょう?私は…今回の責任を取る形で解雇されるのでしょうか?」



…今回の婚約破棄騒動で、私のクビは無くなったのだろうと思っていた。それをベルガ王国側が決める権利がなくなったからだ。


しかし、アルティアからすれば、私は侍女失格。

そうか…アルティア側からクビにされた事をわざわざクリス様はこうやって私に伝える為に時間を作ってくださったのか…。


今まで、避けていた事を申し訳なく感じていた私に、


「いや…そうではなく。シビルには、この国に残って貰う事になる。その……俺の婚約者として……」


……は?空耳?なんで私がクリス様の婚約者?


「あの…何かの聞き間違いでしょうか?王太子殿下の…婚約者?誰がでしょう?」


私が首を傾げると、


「聞き間違いではない。…シビルには俺の婚約者として、このベルガ王国に残ってもらう。もちろん、俺としては直ぐにでも結婚したいのだが…」


「ちょっ…ちょっと待って下さい!何の話です?何で私が殿下と結婚を?」


「それは、俺がそう望んだからだ。今回の婚約破棄を受け入れて貰ったのは、同盟を破棄すると脅した事ももちろんだが、賠償金は不要、その代わりお前を俺の嫁にする事を条件にしたからだ。

お前の実家の金なら、心配するな。

もちろん、お前の家の借金は向こうの王家が既に支払い済みだったから、此処での給料分をお前の実家に毎月ベルガ王国から支払う事になった」


ちょっと良くわからない。

一番わからないのは、何故私との結婚をクリス様が望んでいるかだ。


お金の件は何処から出ようが、実家が困らなければ良いのだが、この話はそういう問題ではない筈だ。


それに、私の気持ちが全く追い付いていない。混乱真っ只中だ。


「実家の事は……ありがとうございます?でも、何故、私と王太子殿下との結婚が、賠償金代わりに?」


「アルティアとしては、王族と王族との婚姻で二国間の関係を強固にしたかっただろうが、アルティアの貴族が俺と結婚する事でも、問題ないと判断したんだろう」


いや、私が訊きたいのは、そこじゃない。


「あの…根本的な問題がありますよね?私は没落寸前の伯爵家の娘で持参金もありませんし、私なんかが、王太子殿下と結婚するなど、冗談としか思えません。

その…私としてはお断りさせて頂きたいのですが…」


「却下だ。持参金は必要ない。それに、お前が俺と結婚しないなら、賠償金を請求する事になってしまうぞ?」


「それって…脅しですか?」


「俺にはそのつもりはないが?そう受け取れるなら、仕方ないな。といっても、お前には拒否権はない。これは決定事項だ」


「あの…私の意思は無視ですか?」


「お前の意思か。なるほど。じゃあ、訊くがお前は俺との結婚は嫌なのか?」


「えっと………嫌です」


当たり前だと思うけど?誰が王太子妃になんてなりたいのよ!


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