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隣国へ嫁ぐワガママ王女に付いて行ったら王太子に溺愛されました   作者: 初瀬 叶


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第三十八話

フェルト女史は、私を手招きすると、


「後で少し時間をちょうだい」

と私に耳打ちした。


今は出来る限り殿下に付いていてあげたい。


私が、


「殿下が寝入ってからでないと時間が…」

と躊躇っていると、


「夜中で大丈夫よ。廊下に居る護衛に声を掛けてね」

と言って去って行った。


今回の事では、フェルト女史には感謝しかない。

ランバン国王への唯一のお願いを、躊躇いもなく殿下の為に使ってくれた。

今後も足を向けては寝られない。


殿下は幾分気持ちが晴れたのか、纏う空気が少し明るくなった。


私が、


「お茶をお淹れしましょう」

と言うと、


「ここの図書室にランバン王国についての歴史が分かる本があるかしら?」

と訊いてきた。

自ら、勉強をしようとする殿下を初めて見た。正直少し気持ち悪い。


私は、


「では、探して来ましょう」

と言って部屋を出る。


殿下も前を向いている。私もランバンについて一緒に学ぼう。そう思いながら、私は図書室を目指した。



夜も更けた頃、殿下が寝静まるのを待って、私は廊下へ出た。

殿下もここ最近の緊張感から解かれた為か、よく眠っていたので、夜中に魘されて起きる事はもうないだろう。


とりあえず私は昼間、フェルト女史に言われた通りに廊下に控えている護衛の一人に声を掛ける。

そこには、近衛騎士団団長が立っていた。彼はここの担当ではないはずだが?


私は団長に促され、その後を付いて行く。


何処に連れて行かれるんだろう…?こっちは…もしかして、庭へ向かってる?


そう不思議に思いながら付いて行った先は、やはりこの王宮の庭。

しかも王族しか入れない特別な場所で、私も、ミシェル殿下も此処へは立ち入った事はない。


庭園の入り口で、団長が、


「中でお待ちです」

と行って、私を中に促す。


フェルト女史が此処に?


私はあまりに場違いな所に落ち着かない気持ちになりながら、先へ進むと、そこにはフェルト女史ではなく、クリス様が待っていた。


………もしかして、私、嵌められた?


私がクリス様に近付く事を躊躇っていると、クリス様が私に気づき、向こうから近付いて来た。


「こっちに」

私にそう言うと、私の手を引いてガゼボに連れて行く。


そこにはお茶の準備はしてあるものの、侍従も侍女もいない。


クリス様は私を椅子に座らせると、自らお茶を淹れようとした。思わず、


「私がやります」

と、その茶器を受け取ろうとするも、クリス様は、


「大丈夫だ。茶ぐらい淹れられる」

と言って、私に構わず淹れ始めた。


私の前に置かれたカップには…何故かあまり香りのしないお茶が入っている。


獣人は、お茶も香りがしない物を好まれるのかしら?そう思っていると、クリス様に飲むように促される。


私は一口飲んでみるが…味がしない…。


私と同時に飲んだクリス様も、


「…なんだこれは?味がしないな…」

と呟いた。


まるで不思議な物を見るように、カップの中の液体を見つめている。

その顔が何故か面白くて、私はつい笑ってしまった。


私が、


「きっと、蒸らす時間が短かったのですね。私が淹れ直しても宜しいでしょうか?」

と言うと、クリス様は恥ずかしそうに、


「頼んで良いか?お茶を淹れるのも難しいもんだな…」

と言った。


私がお茶を淹れ直し、カップをクリス様の前に置くと、


「さっきと全然色も香りも違うな」

と、またもや不思議そうな顔で、カップの中の液体を見つめる。


私が、


「飲んでみて下さい」

と言うと、クリス様は直ぐに一口飲んで、


「旨いな」

と笑った。


私も、自分の分を飲んでみる。うん。ちゃんと味も香りも楽しめる。



そんな私を見て、クリス様は、


「ずっと、俺を避けていたな」

と話し始める。


「避けていたわけではありませんが……私は王太子殿下と話をするような立場の人間ではありません。

まして、この国の王族より婚約破棄された姫の専属侍女なのです。

今はベルガ王国にご厚意で置いて頂いている身ですが、本来ならアルティアに戻らなければいけない立場。

私達は今は、ひっそりと過ごす事が最善であると思っております。これ以上目立つ事をするつもりはありません」

と私は答えた。


その答えを聞いたクリス様は、


「俺の事を怒っているか?」

と私に訊ねる。


…怒る?怒っているのは、クリス様や、アーベル殿下だ。私や、ミシェル殿下ではない。

これは怒りではない。

ただ、クリス様やアーベル殿下は、私達の味方ではなかったと言う事だ。

このベルガ王国に来てからずっと、クリス様もアーベル殿下もミシェル殿下から一歩も二歩も引いていた。

こちらからも、あちらからも歩み寄る事はなかった。

ずっと相対していただけだ。見ていただけ。


私達に歩み寄ってくれたのは、フェルト女史だった。ただそれだけ。


私はゆっくりと首を横に振った。


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