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隣国へ嫁ぐワガママ王女に付いて行ったら王太子に溺愛されました   作者: 初瀬 叶


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第三十七話

「頭を上げて良い」

とアーベル殿下に言われたので、私は頭を上げる。


次の言葉を待っているが、アーベル殿下は何も言わない。


………用が無いなら呼び止めないで欲しい。出来ればこの場から早く立ち去りたい。

私が内心イライラしていると、アーベル殿下が


「…私にも足りない所があったと思うか?」

と尋ねてきた。


…どう言う意味なのか理解出来ない私は、何も言えない。私が黙っていると、


「怒っているのか?」

と私の顔色を伺う。


何に対して『怒っているのか?』と尋ねているのだろう?

今、呼び止められて、訳のわからない事を尋ねられているこの状況についてなら、多少イライラしているが、多分その事を言っているわけではないのだろう。

でも、私からは特に何も言うつもりはない。


「滅相も御座いません」

私はとりあえず否定だけしておく事にした。


アーベル殿下は私のその答えに構わず、


「私は、今回の結婚に最初から乗り気ではなかった。国境沿いで待たされた時、既に王女に期待する事を止めていた。

だからと言って、私の態度も褒められたものではなかったと……今は思っている」

…思っているから何なの?

婚約破棄を無かった事にするって訳ではないのよね?

で、この人は私に何て言って欲しいの?


私は何も答える事は出来ない。

アーベル殿下も私から答えが欲しい訳ではないのだろう。

ただ、誰かに聞いて欲しかった?それでも私に言うのはお門違いだ。


私はただ、黙ってアーベル殿下を見た。

言うべき答えを私は持ち合わせてはいない。


アーベル殿下は、


「…呼び止めて悪かった。持ち場に戻れ」

と言って、私に背を向けて歩いて行った。


…今さらそんな事を言われた所で、この状況が変わるわけじゃない。


私は、全く気分転換にならなかった庭の散策を終えて、殿下の部屋へ戻った。


二度とこの庭園を歩く事はないだろう。この素晴らしく咲き誇った花達を愛でる気持ちにはもうなれそうになかった。


明日にはアルティアに向かって出立しなければならない。


その間に何度か、クリス様から呼び出しを受けたが、殿下の体調が優れなかったとの理由から、全て断った。


それについては、嘘ではない。塞ぎこんだ殿下は、本当にここ数日、体調を崩していたからだ。


気付けば、明日には此処を発つ。ランバンとアルティアの話し合いはどうなったのか、未だわからないままだ。



ちょうど私が明日の事を考えているとき、フェルト女史が部屋を訪れた。


殿下と私はフェルト女史の話を二人で聞く事になった。


「まず、アルティアとランバンの間に国交が成立したわ。アルティアとランバンはこのベルガ王国を挟んでいたので今までは国交がなかったけど、これを機に二国間で不可侵条約を結ぶ事になったの。ある意味和平条約って所ね。


それと同時にランバンへは鉱物を、アルティアへは農業技術を輸出する事になったわ。

アルティアの鉱物については、今さら説明はいらないわね。ランバンはあまり大きな国ではないけれど、農業大国よ。

でも、農作物を直接輸出するには、この広大なベルガ王国を通る間にダメになってしまう物も多くあるから、アルティアのように肥沃な土地が少ない国でも育てる事が出来る農作物の作付けについての技術提供を行う事になったの。

ランバンとベルガ王国には国交はないから、アルティア側がランバンへ鉱物を運び、ランバンで技術を学んで持ち帰るのよ。アルティア側がベルガ王国を通る事については、通行料を払う事で解決してるわ。

その不可侵条約の締結の象徴として、ミシェル王女にはランバンの第二王子であるブロア殿下に嫁いで貰う事になったわ。アルティア側も、ランバン側も了承済みよ」

とフェルト女史から聞かされて、私は安堵の息をついた。無意識に緊張から力が入っていたようだ。



ミシェル殿下がランバンへ嫁ぐ事が決まったのだ。

殿下の顔を見ると、少し泣きそうな顔をしていた。


フェルト女史は続けて、


「残念ながら、アルティアに一度帰る…という事は叶わないわ。このままランバンに向かって貰うから。大丈夫よ、王太子殿下が今、ここ、ベルガ王国に向かってるの。

ミシェル王女は王太子殿下と一緒にランバンに行ってちょうだいね。

それまでは此処に滞在する事を許されたわ。その間に体調を整えましょう」

とフェルト女史は殿下の体調を気遣ってくれた。


王太子殿下が来ると知って、殿下の顔が強ばる。

それを見たフェルト女史は、


「大丈夫。今回の事でアルティアにもランバンにも利益があるのだから。ミシェル王女はその関係を強固なものにする為に嫁ぐのよ」

とミシェル殿下の手を握る。


殿下はほんの少しだが、微笑んでみせた。

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