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第三十六話

ミシェル殿下は、私からフェルト女史の話を聞くと、


「…私はアルティアでは邪魔な存在になるの?」

と訊ねてきた。


それは今までのワガママ放題の彼女の姿ではなく、本気で自分の行く末を心配しているようであった。


私は、


「アルティアとランバンの間で現在、どのような話し合いが持たれているのか、私には正直言ってわかりません。

しかし今のままでは、殿下は『ベルガ王国の不興を買って婚約破棄された王女』のままです。

ベルガ王国が、アルティアに…その…賠償金をどの程度請求しているのかわかりませんが…その責任が殿下にあるとして、陛下や王太子殿下が…ミシェル殿下がアルティアに戻ってもあまり良い顔をされない事は想像出来ます。

しかし、ランバンとの縁を持つ事で、アルティアに利益があれば、少なくとも殿下がランバンに嫁ぐ価値はあると、そう思ってもらえるのではないかと思います」


今は全て想像でしかないが、せめてミシェル殿下がランバンに嫁ぐ事が、アルティアに有益であると証明出来れば、ただこのままアルティアに戻って、居心地の悪い思いをするよりマシだろう。私がそう言うと、


「…そう…」

そう言って殿下は黙ってしまった。


私はワガママなミシェル殿下が苦手だが、こんなしおらしい殿下はもっと苦手だ。調子が狂う。


私は、昼食の時間になり、厨房へ向かう。

ユリアもレジーも、もう此処には居ない。二人共、責任を感じて辞めてしまった。


二人の責任ではないのだが、引き留めた所で、もうこの国に滞在出来る期間は限られている、

殿下も二人を引き留める事はなかった。



私が厨房から昼食を乗せたワゴンを運んでいると、廊下の向こうからクリス様がやって来た。



あの婚約破棄宣言の日から初めてクリス様を見かけたが…正直言って、今は顔を合わせたくない。

ミシェル殿下の事を好きかと訊かれれば答えは否だ。

しかし、それでも私の主だ。私は主を守れなかった。専属侍女失格だ。

クリス様を見るとそれを嫌でも思い知らされる。今は一番会いたくない人だった。



私はクリス様の横を会釈して通り過ぎる。

不敬でも何でももう良いだろう。

だって、あと三、四日もすれば、この国から出ていくのだ。

この国を出てアルティアに戻るのか、それとも戻らず違う場所へ行くのかは分からない。

でも、もうベルガ王国に来る事は二度とないだろう。



「おい!ちょっと待て」

と通り過ぎようとする私の腕をクリス様が掴んだ。


私は、


「申し訳ありませんが、手をお離し頂けますでしょうか?急いでおりますので」

と抑揚のない口調で話すが、手を離してくれない。


「少し、話があるんだ」

と何故か縋るような目で見てくるが、私には話す事などない。


最初から侍女が王太子殿下と話す事など本当なら無いのだ。


「申し訳ありませんが、急いでおります。それに…私に話す事は御座いません。失礼します」

と私はその手を振りほどき、そのまま殿下の部屋へ向かおうとした。


すると、クリス様は、


「ミシェル王女と…シビル、お前の今後についての話だ。お前には聞く義務がある」

と私の背中に声を掛けてくる。


ミシェル殿下の今後については、フェルト女史に任せているし、私は殿下が何処へ行く事になろうと付いていくだけだ。

私の今後は殿下次第。クリス様から聞くまでもない。

私はその声を無視して、そのまま殿下の部屋へ向かった。



昼食後、殿下から、


「…アルティアに戻っても、誰にも歓迎されないなら…私は少しでも誰かに必要とされる場所へ行くわ」

と告げられた。

フェルト女史に言われていた、殿下の説得は出来た。

後はアルティアとランバンの話し合い次第だ。


私が色々と考えても仕方ない。つい悪い方に考えてしまうより、体を動かしている方がマシだと思い、黙々と出立の準備をする。


元気のない殿下は、寝室に籠り気味だ。

今も、寝台の上。


私は、殿下に声を掛けてから、気分転換に庭へ出た。


ここの花は本当に見事だ。

こうして眺めていると、花の香りが強くない事に嫌でも気づいてしまう。


…私が後悔しても仕方ないのだが、ついつい自分を責めてしまう。いつの日かこの気持ちが軽くなる日が来るのだろうか…。


少し歩いていると、花の剪定をするアーベル殿下が見える。


…私の『会いたくない人』第二位だ。

私はアーベル殿下に気付かれないよう、そっと回れ右をしてその場を離れようとしたが、


「!おい!そこの侍女!」

とアーベル殿下から声が掛かる。


……見つかってしまった。


クリス様といい、アーベル殿下といい、一介の侍女に気安く話しかけ過ぎではないだろうか?

貴方達は雲の上の存在であって、下界に降りて来る必要などないのだけれど…。

そう思いながらも、私はその場に立ち止まり、振り返って礼を取った。

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