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第三十四話

クリス様は続けて、


「俺はこの数日、アルティアに赴いてこの婚姻を白紙に戻す話し合いを重ねてきた。

穏便に済ませたかったが、アルティア側は責がベルガ王国側にあると言って譲らない。

話しは平行線であった為、仕方なくこの前のお茶会で、アーベルの体調を害する事になった事の顛末を話したよ。

獣人についてもう少し学ばせておくべきだったとな。

それでも、アルティア側はなかなか首を縦に振らなかったが、それならば同盟を破棄すると言ったら手のひら返しだ。

しかし、散々こちらが穏便に済ませる為に話を持っていったのを、わざわざ壊したのは、アルティア側なのでな。アルティアの有責で破棄させて貰ったよ」


そこまで聞いたミシェル殿下は、


「私に悪意は無かったわ!害する気もさらさら無い!こちらの有責と言うには、理由としては弱すぎる。こちらの足元を見るのね!だから、野蛮だと言われるのよ!」


…この場面で、何故それを言えるのか。私は聞くに耐えられず。


「ミシェル殿下!もう決まった事のようです。これ以上アルティアに不利になる事は…」

と私が話を遮るも、


「私は悪くない!悪くないわ!」


ミシェル殿下はそう叫ぶと泣き崩れた。


クリス様は、


「そう思っているのなら、それでも良いが、この婚約は破棄だ。それは変わらない。

これ以上俺を怒らせるなよ?アルティアとの関係をこれ以上悪化させたくなかったらな」

と冷たく言い放った。



ベルガ王国がその気になれば、アルティアは攻め入られ属国にされる。

鉱山だってその方が好きに出来るのだから。そうしないのは、昔からの付き合いがあるお陰だ。

本当にこの婚姻はベルガ王国にとってはどうでも良いものだったのだと痛感する。


アルティア王国側の有責…アルティアはどれだけの賠償金をベルガ王国に支払う事になるのだろう…いや、お金ではないのかもしれない。鉱山の一つや二つ持っていかれるのではないか。


私はあの時、熱を出した自分を責めた。

私が側についていれば、少なくとも今回のように、破棄をされる事はなかっただろう。

だからといって、レジーを責めるつもりもないが。



ベルガ王国の騎士や軍人が仮面を被り鼻を覆っているのは、その嗅覚が長所にも短所にもなり得るからだ。


火薬の臭いに敏感な為、その嗅覚で危険を察知する能力に長けているが、弱点にもなる。その為に特殊な加工をした仮面を被るのだ。それすら、ミシェル殿下は知らなかったのだろう。


私は殿下が勤勉でない事を知っていた。その殿下を甘やかした私にも責任はある。


そこへ、クリス様や、アーベル殿下の後ろの扉から、


「まぁ…大の大人がニ人して女の子を虐めて何が楽しいのかしら?」

と声がした。

その人は、図書室からお目当ての本を脇に抱え戻って来た所らしい。



私は泣き崩れた殿下の側に膝をつき座っていたので、少し見上げる格好でフェルト女史を見やる。

フェルト女史はニ人の横をすり抜けて、私とミシェル殿下、青い顔をしたユリアの所までやって来ると、クリス様と、アーベル殿下に向き直る。

その顔はやや怒っているようでもあり、呆れているようでもあった。


フェルト女史は、


「全てをたった十六歳の女の子に背負わせるのは、あんまりでは無くて?

確かに、ミシェル王女には、足りない所も多々あったと思うけど、獣人の国に一人…いえ、侍女とたった二人で来て、どれほど心細かったでしょうね?

その条件を付けたのは、ベルガ王国でしょう?

歩み寄る必要があったのは、彼女だけかしら?

アーベル殿下、貴方の態度にも問題があったのではなくて?それはお互い様なのではないの?

文化も慣習も違う国で彼女は彼女なりに頑張っていたわ。素直でない所はあったけれど、二人から責められる程、そんなに悪い事をしたかしら?」

とクリス様、アーベル殿下を相手に一歩も引かない。

その言葉に、クリス様もアーベル殿下もタジタジだ。


その後に、フェルト女史はミシェル殿下に近寄るよう膝を付くと、


「ミシェル王女。貴女にもたくさん非はあります。

まずは、人の話を聞く耳を持つべきね。

シビルは今までたくさん貴女に忠告をしてきた筈よ?今回の事は、貴女がその全てを無視した結果よ。

流石にこの婚姻についての決定権は王太子殿下にあるから、覆す事は出来ないけれど、貴女の立場がアルティアで悪くならないよう、力を貸します。

私は、貴女が頑張っていた事を知ってるわ。だから、もう泣くのはやめなさい。貴女はアルティアの王女なのでしょう?」

そう言ってハンカチをミシェル殿下に差し出した。


私も、ミシェル殿下もフェルト女史をじっと見つめた。女史は、


「婚約を…破棄される辛さは、良くわかっているつもりよ。色々と思うところはあるけれど、こんな風なやり方は、私はあまり好きじゃないの」

と微笑んだ。

その微笑みは、殿下の涙を止めるのに充分な力があった。


私も、この緊迫した状況から救ってくれたフェルト女史に心から感謝した。



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