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第三十三話

私は我に返り、直ぐ様殿下の側に寄る。

フェルト女史は先ほど図書室へ行くと、席を外したままだ。


殿下は怒りの為か立ち上がっている。


私は考え事をしていた為、この状況がどのようにして起こったのか理解していなかった事を悔いた。


私は


「殿下!いかがなさいました?」

と訊くも、殿下は、


「私はゲルニカになんて行かないわ!能面女!あんたまさかこの事を知っていたんじゃないでしょうね?」

と物凄い形相で睨んできた。


流石にここで、『知ってました』とは言えない雰囲気だ。私は言い淀んでしまう。


しかし、その『間』で察した殿下は、


「…知ってたのね。騙したの?いつから?まさか、お父様やお兄様も知っていたんじゃないでしょうね?!」


もう、私が口を挟む暇もないぐらいに、殿下は捲し立てる。


「私は、アルティアの王女よ!何故そんな辺鄙な領地で過ごさなければならないのよ!絶対に嫌!!!」

と叫び声に近い拒絶の言葉を殿下が吐いた所で、


「安心しろ。ミシェル王女は『ゲルニカ』に行く必要はない」

と扉の方から声がした。


私達が振り向くと、そこには、クリス様と、アーベル殿下が立っていた。


ミシェル殿下は、


「どういう事?私はゲルニカに行かなくて済むの?!」

と若干喜んでいるが、私は表情は変わらないまでも、顔色は真っ青だ。


ミシェル殿下が『ゲルニカ』に行く必要がなくなると言うのは、ミシェル殿下がアーベル殿下の婚約者として相応しくないと判断されたと言う事だ。


これは…ミシェル殿下がベルガ王国から見放されたと言うこと。

この婚約を解消する…これは、どちらの有責になるんだろう。

どちらが悪いのかで、ミシェル殿下がアルティアに帰ってからの立場が決まる気がする。


私はミシェル殿下の問いに答えるクリス様の言葉を待った。


「あぁ。ミシェル王女。貴女には『アルティア』に帰って貰う事になった。良かったな。このベルガ王国を嫌っていた貴女だ。喜んで貰えるだろう?」


そうクリス様は言うと、部屋の中に入って来た。アーベル殿下も一緒に。


ミシェル殿下は何を言われているのか分からないのだろう、目を見開いて固まっている。


クリス様は続けて、


「今回のアーベルと、ミシェル王女との婚約関係は破棄させて貰う。ミシェル王女には、一週間後この国を発って貰う為、準備をお願いする」

と告げる。


この言葉で、やっとミシェル殿下は事態を把握したようだった。


「ど、どういう事よ!私との結婚はお互いの国にとって、大切なものなんでしょう?!勝手にそんな事、許されるわけないじゃない!」


ミシェル殿下は、かなり動揺している。この結婚が例え嫌だったとしても、これが国と国との契約である事は理解していたようだ。


それを聞いてアーベル殿下は前に出て、


「今回の婚姻は、ベルガ王国からは軍事力、アルティアからは鉱物に対する関税の撤廃、この結びつきを強化する為という名目で結ばれたものだが、こちらとしては、婚姻は無理に結ばずとも同盟という形で軍事力を貸し出すつもりだったし、その代わりに関税を撤廃して貰うつもりだった。結婚はオマケのような物で、こちらが望んだものではない」

と冷たく告げた。


「そ、そんな…わ、私だって望んでこんな所に来たわけじゃないわ!勝手な事言わないで!」


ミシェル殿下は動揺し過ぎて、言ってはいけない事を口にしている事に気づかない。


「ほう。『こんな所』か。まぁ、確かに、ミシェル王女はこちらに来てからというもの、この国の者達との交流を避け、この国に馴染もうという努力は…あまり見えなかったな」

とクリス様は言う。


「な……!私はちゃんと、この国について学んだし、この国のマナーも学んだじゃない!」


「…フェルト女史のお陰で、マナーについて学んだ事は確かだろうが()()()()()では、何にもならんな。

俺たち獣人は人間より何倍も嗅覚が優れている。香水をつける時はかなり気をつけるべきだ。特に飲食の時はな。

庭園に出て気づかなかったか?この城の庭園には、あまり匂いの強い花が植わって無いことに」


…クリス様に言われて、確かにそうだと気づく。

どうりで、アルティアで見たことがない花が多い筈だ。

アルティアの王宮に植えられている花々は香りも強い物が多かった。

アーベル殿下の育てていた薔薇も、薔薇なのに香りは少なかった。


「!そ、そんなの…言って貰わなきゃ分からない!」


…ミシェル殿下に獣人の嗅覚について、私が注意した事はあるのだが…きっとちゃんと聞いてくれていなかったのだろう。


「自分が嫁いで来る国の事をもう少し知ろうとしてくれていたらな」

とアーベル殿下は言った。それに続いて、クリス様は、


「この婚姻の契約に『ベルガ王国に害をなす心づもりがあれば、直ぐ様アルティアに返還する』という一文を入れた事を自分ながらに誉めたいよ。

これを入れる時、アルティアの王太子である、君の兄はかなり憤慨していたんだ。こちらを信用していないのかと。

信用していなかったのはどちらだろうな?わざわざ婚姻を結ばずとも同盟を結ぶとこちらはきちんと言っていたのに、自分の妹を使ってこちらの王族と縁続きになろうとして」


……これは強烈な皮肉なのだろう。アルティアと縁続きになる事はベルガ王国にとって利益になる事ではないと言う。


しかし…害をなす…とは?

ミシェル殿下は、害をなす人物と捉えられたって事?


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