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隣国へ嫁ぐワガママ王女に付いて行ったら王太子に溺愛されました   作者: 初瀬 叶


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第二十九話

フェルト女史は、


「その商会で働いて五年程が経った頃かしら?

王都にある本店で働かないかってお誘いを受けたの。

最初、興味はなかったんだけど、私の語学力を活かして、買い付けの仕事もしてみないかって言われて。

せっかく勉強しても使わなければ宝の持ち腐れでしょう?私がランバンでやってきた事が無駄にならないのならって引き受けて王都にやって来たの」


…私の推理が当たっていれば、フェルト女史は現在のランバン国王の元婚約者だ。

語学が堪能であっても、不思議ではない。


フェルト女史の話は続く。


「ある日、この国にユーメリアからの来賓がおみえになって、王城で夜会が開かれる事になったんだけど、ユーメリアのあるご夫人がお持ちになっていた扇が壊れてしまって。

亡くなったお義母様から譲り受けた物だとかで、大変大切にされていたらしいのだけど、年代物だったし、古くなっていたのね。要の所の留め具が折れてしまったの。

その留め具も宝石が使われていた素晴らしい物で、ユーメリアに伝わる技法が使われていたのよ。

うちの商会が、ユーメリアの扇を取り扱っていたから、どうにか修理出来ないかと訪ねて来たのが…今の主人なの」


そう言うとフェルト女史は少女のようにはにかんだ。


「では…フェルト宰相と知り合ったのは、その時で?」


人の恋愛話なんて、なかなか聞く機会のなかった私は、ちょっとワクワクしながら、質問した。


「そうなの。主人はまだ宰相になったばかりで。『その扇をどうしても直してあげたいんだ!』って。熱意を感じたわ。ちょうど私がユーメリアから買い付けた扇に似た物があって、その留め具を使ったらどうだろうかって話になって。

必死になってる主人を見て、顔つきはなんだか神経質そうなのに、案外心は温かい人なのかもって思ったの」


…フェルト宰相の姿はチラリとしか見た事はないが、確かに線の細い、神経質そうな人だった。


「その扇は…修理出来たんですか?」


「ええ。何とか。夫人は泣いて喜んでくれたらしいわ。全く同じ物とはいかなかったけれど、こちらの誠意が有り難かったと。

それで、改めて主人がお礼にと商会へ訪れたの。その時、食事に誘われたのよ」


「え?!もうですか?フェルト宰相…なかなか積極的だったんですね」


「フフフっ。確かにそう聞くと、そう思うわよね。でもその時の主人ったら、まっ赤っかでね。汗もダラダラかいちゃって。そのうち倒れちゃうんじゃないかと心配するぐらいだったの。

でも…私は平民。彼は公爵家の嫡男。身分も釣り合わないし、それに国の宰相を務める人物よ?畏れ多くて。だから、お断りしたの」


「え?では、フェルト宰相は…?」


「彼ね……それはもう…しつこかったの」


「しつこかった…とは?」

つい、私は訊いてしまった。


「断った翌日から、毎日、花を持って商会に現れたのよ」


「ま、毎日ですか?」

え?宰相って暇なの?


「そう。最初はね、商会の皆も、冷やかしてきたりしたわよ?でも、流石に一ヵ月毎日だとね、皆、もう笑えなくなっちゃって」


「一ヵ月?!凄いですね」

やっぱり、暇なの?


「二週間もするとね、家も、商会も花だらけになっちゃったの。それで、『困ります』って言ったんだけど…花束から花一輪に変わっただけ。それでも毎日花をくれたわ」


「でも、なんでそんなにお花に拘ったんでしょうか?」

他にも女性が喜びそうな贈り物は色々ありそうだけど…。


「それがね、後で私も気になって訊いたんだけど、私が最初に会った日に『花が好き』って言ったって言うの。私はそれを全然覚えてなくて…」


「フェルト女史がお花を好きなのは、事実なんですか?」


「確かに好きだけど…特別好きな訳じゃなかったのよ?無意識にそんな事を言っちゃったのかしらね?でも、その一言で、毎日花を贈るのも……ねぇ?」

なかなかだな。


「で、一ヵ月毎日お花を贈られて…それで?」


「毎日、毎日、花と一緒にメッセージカードが入っていて。それに、愛の言葉が書いてあったわ。それと食事のお誘いね。

宰相が毎日、毎日、職場を離れてて、この国が心配になっちゃったわよ」

そう言ってフェルト女史は笑った。

確かに、私もそう思いました。


「でも、一ヵ月ずっと断っていたんですか?」


「そうなの。いつもお断りしてたんだけど、一ヵ月経った時に、商会の会長から『頼むから食事ぐらい付き合ってあげてくれ。毎日、毎日商会に来られて、どうにかなりそうだ!』って言われちゃったの。

それで、仕方なくお食事をご一緒したのよ」


「で、それからどうなったんですか?」

この状態から、結婚まで持ち込めるなんて、宰相凄いな。


「食事が終わって、家に送ってもらう馬車の中で、プロポーズされたわ。でも、私はその時二十五歳で、適齢期も過ぎていたし、結婚する気もなかったし。もちろん断ったんだけど…」


「だけど…?」

まさか?


「また翌日から、今度は毎日プロポーズされたの」


「はぁ……凄いですね…」

開いた口が塞がらないってこう言う事を言うんだろうな。


「でしょう?私、なんだか怖くなっちゃって」

わかります。


「なのに何故ご結婚を?」


「何故かしらね?『絆された』と言うのが本当の所だけど…彼なら私を裏切らないって思えた事も大きかったと思うわ」


「確かに。そこまで自分の事を想ってくれる人に、なかなか出会えないですよね」


「ねぇ。シビルさんは『番』って知ってる?」


「えっと…獣人には本能的に求める運命の相手みたいな方が居るんですよね?でも、今はそういう本能が殆んど残っていないと聞いていたのですが…」

アルティアでもそう聞いていた。


「私もそう思ってたし、そんな相手が居るっていう獣人も周りに居なかったの。でも、主人は私の事を『番』だと思ってるのよ」


「『番』って同種族ではないんですか?」


「昔の文献では、同種族が多かったけれど、その限りではないと書かれてたわ」


「調べたんですね?」


「えぇ。主人がそう言うものだから、つい気になって。でも、良くわからなかったわ。だから、もう主人がそう思うなら、それで良いかって」


「でも…なんだか、素敵ですよね。私は、恋愛した事もないし、運命の相手?とやらにも出会った事はないんですけど、一生に一度で良いから、そんなに誰かに想って貰いたいです。正直憧れてしまいます」

私は素直に羨ましいと思えた。


「…ところで…どうして私の話を?他のお仕事をしてみたいとか?」

と、フェルト女史は私の最初の目的を思い出したようだ。


「いえ。私はこの仕事を辞める気はないんですが…なんだか、その…クビになりそうなんです」


と私が言うと、フェルト女史はびっくりしたように目を丸くした。




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