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第十八話

「おい」

殿下を凝視していた私は、突然かけられた声に驚き肩をピクリと震わせた。


ゆっくりと、声のした方を見上げると、何故か、王太子殿下が私の側まで来ていた。

しかも顔つきは険しい。


え?私、何かやらかした?


さっき、王太子殿下の顔をじっと見ちゃったから?

やっぱり『不敬だ!』とか言われちゃう?

若干怒ったような顔の王太子殿下が側に立ってるという状況が上手く飲み込めず、私はプチパニック中だ。多分顔には出てないけど。


食事中に立つという無作法に、陛下も思わず、


「どうした?クリスティアーノ」

と声をかける。


他の面々も、皆食事の手を止めて、こちらを見ている。


しかし、王太子殿下はその声に答える事なく、スルリと私の頬を撫でた。


「傷になってる」


…一瞬、私は何を言われたのかも、なんで頬に触れられているのかも理解できず、

(絵姿で見るより、顔立ちがワイルドだな)なんて全く頓珍漢な事を考えていた。


何も答えず、固まっている私に、


「どうしたのかと、訊いているが?」

と王太子殿下は重ねて質問してきた。


その声で我にかえった私は、


「あ、あの…少し爪で引っ掻いてしまって…」

と咄嗟に嘘をつく。


流石にミシェル殿下の事を正直に話す事は出来ない。


私のその答えに、王太子殿下は、素早く私の手を持ち上げ、


「引っ掻く程、爪は伸びていないようだが?」

と怪訝そうな顔をした。


さらに、


「自分の爪ではないという事か?」

と訊かれ、私は慌てて、


「今日、つ、爪を切ったので…。その…引っ掻いてしまったから…」

と更に嘘を重ねる。


しかし、何故私の頬の傷を王太子殿下が気にするのか?それに、どうして傷がある事がわかったのか?殿下が食事をしていた席から、私が控えている場所までは、結構距離がある。

私には不可解な事ばかりだ。


私は訳もわからず、王太子殿下の目をじっと見つめた。その瞳の中に、答えがある気がして。


…やっぱり、私、王太子殿下を知ってる気がする…。私の手に触れたその手の感触に覚えがあるのだ…。


「……クリス様?」


私は記憶にある手の感触の持ち主の名前を呟く。

何度も何度も、私の手を取ってくれたあの手の持ち主。


「なんだ、今頃気づいたのか?遅いな」

……やっぱり?クリス様が王太子殿下?

なんで?


確かに、クリス様はずっと仮面を着けていらしたから、こうやって仮面のない顔を直接見るのは初めてだ。


でも、何故、国境まで王太子殿下自ら来て、ミシェル殿下の護衛?わざわざ?


私の頭の中は更に『?』で埋め尽くされていった。


私達二人を見ていた陛下は、


「クリスティアーノ。その侍女がどうかしたのか?」

と訊いてきた。そりゃそうだろう。


食事中に急にこの国の王太子が、単なる侍女に話し掛けてるんだもん。


私は小声で、


「王太子殿下、私の事はお気になさらず。

この傷はもう医師にも診てもらっております故、心配は無用で御座います。

お席にお戻り頂いて大丈夫です。お声がけ、ありがとうございました」

と早口で告げる。


はっきり言って、皆の視線が痛い。

可能なら、今直ぐ消えてしまいたいが、私は魔法使いでもない為、それも無理だ。


とにかく、早くクリスさ…いや王太子殿下に席に戻って貰いたかった。

王太子殿下は、


「…後で話がある」

と私に囁くと、


「陛下。無作法な振る舞い、誠に申し訳有りませんでした」

と謝罪しながら席に戻ってくれた。


しかし陛下はまだ、私の方を見ている。


不審がっている事はその目で分かるというものだ。


「…皆、悪かったな。食事を再開しよう」

との陛下の声で、皆も我にかえり中断していた食事を再開させる。


私は居心地の悪さを感じながら、その場に佇んでいた。

はっきり言って、そこからの記憶はあまりない。

なので、ミシェル殿下が私の事を睨んでいる事にすら気がついていなかった。



晩餐が終わり、私は殿下と共に部屋に戻ると、殿下は、


「あんた、いつの間に王太子殿下と顔見知りに?」

と不機嫌さを隠さず私に訊ねてきた。


「殿下。王太子殿下は、私達を国境から護衛してくださっていた護衛団の団長をされていた方です。

私も仮面を被っていらっしゃったので、その方が王太子殿下とは気づいておりませんでした。先ほど、初めて気がついた次第です」

と私は素直に答える。その答えに、


「は?あの中に王太子殿下が居たと?何故?」

と殿下も私と同じ疑問を口にした。


「それは、私にも分かりかねます。

自己紹介して頂いた時にも、王太子殿下はお名前を…『クリス様』としか教えて下さいませんでしたので、身分を明かすつもりはなかったかと…」


「そう…それは分かったわ。でも、何故あんたとあんな風に喋ってるわけ?」


……それは、貴女が付けた頬の傷のせいですよ…


「国境から、王城まで、何かと私達に気遣い頂きました。その時に言葉を交わす事が御座いましたので、そのせいかと思われます」

私だって、わからない事だらけなのだ。


「ふーん。ねぇ…言っとくけど、分をわきまえなさいよ。あんたが気安く喋って良い相手じゃないんだから」


「はい。もちろん承知しております」

と私は頭を下げた。


私だって、畏れ多すぎてもう喋るつもりもない。


…筈だった。

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