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第十七話

廊下に居る護衛の方から声がかかる。


「陛下より『今日の晩餐はミシェル王女殿下もご一緒に』との事です」


…あぁ…この時が来てしまった。


晩餐会は謁見の間と違い私もその場には入れる。

しかし部屋の隅に控えるのみ。


ハラハラドキドキしながら殿下の一挙手一投足を見守るなんて…考えただけでも寿命が縮まりそう。



私がその旨を殿下に伝えると、一緒に居たフェルト女史は、


「では、晩餐会用のマナーを少し復習しましょうか?」

と有難い申し出をしてくれた。私には願ったり叶ったりだ。


フェルト女史は、


「私も昔…ランバンに居た頃は、獣人の方々が苦手でしたのよ?お国柄でしょうかね。

ランバンでは獣人の方々を毛嫌いする傾向にありましたから。

ですが、見かけや能力に違いはあっても、お互い同じ『人』なのです。

人と接する時は最低限のマナーと、お互いを不快にさせない事が大切です。

特別なマナーがわからない時には、素直に習えば良いのです。私もそうしてきました」

…フェルト女史もきっと、この国で苦労する事も多かったのだろう。


この気持ちが殿下にきちんと伝わっていれば良いんですけどね…。


フェルト女史は晩餐用のマナー、会話のマナーやコツを殿下に教えてくれた。


これで私のハラハラドキドキが少しは軽減される事を祈りたい。



フェルト女史が退室した後、私は殿下を晩餐会仕様に作り上げる。

殿下からは、


「もっと、豪華に飾り付けて!」

と言われたが、ジャラジャラしたアクセサリーは食事の時には相応しくない。


シンプルだが、我がアルティア産の良質なエメラルドのペンダントを着けるだけにした。

髪はハーフアップで横は編み込んでいく。少しでも食事の時に邪魔にならないよう心がけた。

自分で言うのもなんだが、中々の出来映えだ。

殿下は見た目だけはとても愛らしい。本当に、もったいない。



時間になり従者が迎えに来た為、殿下と私は晩餐会の会場に向かう。


私は、前を歩く従者に、


「すみません。今日の晩餐会に出席される方は…」

と質問した。


前の様な失態を避ける為、前もって出席者を聞いて、殿下に覚えておいて貰う為だ。


「それでしたら、今日は、陛下と妃陛下。王太子殿下と、第三王子殿下のみで御座います」

と従者から聞いて、私は少しホッとした。


人数は少ない方が良い気がする。

殿下がたくさんの方々と会話を楽しむなんて、ハードルが高すぎる。



会場に到着し、殿下は席へ案内される。

私は部屋の隅に控えた。


そこには既にアーベル殿下が着席しており、その後直ぐに陛下と妃陛下、王太子殿下が入室して来た。


私はアルティアで見た絵姿と人物を合致させていく。


…なんだろう…王太子殿下って…誰かに似てる?

そう思って私がつい王太子殿下の顔をまじまじと見ていると、それに気づいた王太子殿下が、私に向かって微笑んだ。

私は思わず自分の後ろを確認する。

…壁だ。間違いなく壁。

という事は、王太子殿下は私に微笑みかけた?

イヤイヤイヤ…ない、ない、ない、ない。

一介の侍女ごときに、王太子殿下が微笑みをくれるなんて、あり得ない。


私はまた、チラリと王太子殿下を盗み見る。

…まだ、こちらに顔を向けているようだ。何故だろう?


…もしや、私の顔に何か付いてる?

頬のガーゼは流石に外してきた。

ここで、そんな大きなガーゼを付けていたら、何故と誰かに訊かれてしまうかもしれない。

流石に自分の主が暴力女なんです!なんて、口が裂けても言えない。


さっき、殿下を着飾る事に必死で自分の顔や姿を確認していなかったことが悔やまれる。


私はなるべく王太子殿下からの目線を避ける為に、少し俯いた。



陛下の合図で、晩餐会は厳かにそして和やかに始まった。


私はさっきまで王太子殿下の視線を気にしていた事など、頭の隅にも残っていない。


何故なら殿下の一挙手一投足を見逃すまいと、じっと殿下を見つめる事で忙しいからだ。

愛しい人の事だって、ここまで見つめたりはしないだろう。

しかも、愛しい人なら、その時の心情はドキドキだろうが、私の今の心を占める大多数はハラハラだ。



時折、王妃陛下が、殿下に話しかけてくれる。

殿下もにこやか…とまではいかないが、穏やかに話を返していた。


良かった。訊かれる事が、アルティアの王族の事で。

流石の殿下も自分の家族についてはすんなりと、答えられている(多分、当たり前)


言葉遣いも、及第点だ。

たまにヒヤリとするが、なんとかセーフだろう。


しかし……婚約者でもあるアーベル殿下は、全く殿下に話しかける事もなく、黙々と食事しているだけだ。


折角、私が腕に縒りを掛けて殿下を着飾ったのだから、少しぐらいは見てあげて欲しい。ミシェル殿下は見た目だけは良いと思うのに…あまり興味は無さそうだ。


一方の殿下はアーベル殿下をチラチラ見てる。

アーベル殿下の顔はきっと殿下の好みなのだろう。どことなくロイド卿の雰囲気と似ている気がしなくもない。

比べるまでもなく、アーベル殿下の方が綺麗な顔立ちをしている。

頭の上の金色の丸い耳も大変キュートだ。



私は殿下をとにかくガン見していた。

だから、全然気がついていなかったのだ。私に近づいてくる人物の足音にも。


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