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第十四話

私の人権が、殿下には全くもって認められていないことにショックを受けている場合ではない。


せっかく殿下が起き上がったチャンスは逃さない。


お陰でなんとか朝の仕度をし、朝食を食べる時間には間に合った。


まだ、殿下は只の婚約者である為、城で来客が使用する食堂で朝食を頂く事になっていたのだが…


「この部屋で食べるから、持ってきてちょうだい」


「畏まりました。では、少々お待ち下さいませ」


…まぁ、想像はしていたし、なんならホッとしている。


獣人の給仕の方々に、殿下が不躾な視線を寄越さないとも限らない。


しかし、そこまでこちらの国の人々の世話になるのを拒むなら、彼らの作った食事を食べ、洗濯したシーツで眠る…いやいやその前に、この国で作られた農作物の輸入で、アルティアは食料を確保していたのだから、そもそもアルティアで出されていた食事だって、何ならこの国の人々の手で作られている食材を使っているのだ。

既に殿下はアルティアに居たときから、この国の人々にお世話になっているのだが……

まぁ、それを言ったところで、殿下には理解出来ないだろうけど。


私は廊下の護衛に声をかけて厨房へ朝食を取りに行く。


「すみません。今朝は部屋で食事を取りたいと仰るのですが…その様に準備して頂けますか?」

と私が声を掛けると、料理人達はチラリと私を見るが、返事もせずにワゴンに殿下用の朝食を乗せて、私にそのワゴンを押し出す。


まぁ、好かれてはいないよな…とは思うが、返事ぐらいして貰いたい。


腐っても、殿下はアルティア王国の王女なのだ。

しかもこの国の王子の伴侶となる為に遠路遥々やって来たのにな…と思うと、やりきれない。


「ありがとうございました」

とお礼を言う私に、誰も見向きもしなかった。


私は虚しさを胸に、殿下の元へ戻る。

護衛に頭を下げ中に入った。



「遅い!お腹が空いたわ」

…私の中の虚しさが更にマシマシだ。


私は誰の為に存在しているのか…ううん。考えるな!私は、実家の為、妹の為に存在してるのだ。お金!お金!


殿下が朝食を食べ終わり、私が淹れたお茶を飲んでいる時、私は意を決して、殿下に、


「殿下、この国の王太子殿下のお名前をご存知でしょうか?」

と聞いてみた。


すると、殿下は私を睨んで、


「あんた、私を馬鹿にしてるの?王太子は『クリスティアーノ・ベルマン』でしょ?」

…何故名前を知っているのに、昨日、間違えたのか…


「では、その王太子殿下がこの国の第一王子でない事はご存知でしたでしょうか?」


「………………へ?」


殿下はたっぷりと長い間を取った後、間抜けな返答をした。


「じゃ、じゃあ、第二王子?」

と訊かれ、私は首を横に振る。


「じゃ、じゃあ第三王子?」

んな訳ない。

それなら、殿下が王太子妃になってしまう。そんなの想像しただけで恐ろしい。


私は、


「いえ、今の王太子殿下は、国王…ブルーノ・グランデ陛下の甥に当たる人物で御座います」


「え?何で?何で陛下の息子が王太子じゃないのよ!」

何でと訊かれても、私は答えを持ち合わせていない。だが、


「何故かは分かりかねますが、この国は国王の息子であるからといって、必ず王太子になるとは限りません。

もちろん王位継承権を持つ者の中から選ばれますが、王となる実力があると認められた者が選ばれるとお聞きしております。

それは、男女の性別も特に関係は御座いません」

実際、数代前には女王が統治していたと聞く。


「でも、昨日、王太子と紹介された人は居なかったわ!」

…でもクリス様はその場に王太子殿下が居たのだろうと言う私の言葉を否定しなかった。

それは多分、


「殿下が先に、第一王子を王太子殿下とお呼びしてしまったので、名乗るに名乗れなかったのではないでしょうか…それに、第一王子殿下のお名前は『オスカル・グランデ』殿。

その名を聞いた時、殿下は違和感を持ちませんでしたか?」


そうなのだ、殿下はちゃんと王太子殿下のお名前を理解していた。

なのに、第一王子が名乗った時に、何故そこをスルーしたのか…


「…よく聞いてなかったのよ…仕方ないでしょう?疲れたまま、あの場に行かされたのよ?」

…もしかしたら、第三王子に見とれていたのかもしれないな…なんて思うが口には出せない。


「殿下…せめて、アルティアでベルガ王国の王族の絵姿は確認されていますよね?」

恐る恐る私は訊ねてみるが、殿下はぷぃっと目線を逸らした。…見てないんですね……私ですら確認したのに。


「だって…絶対お父様もお母様も、この結婚を破談にして下さると思っていたもの。こんな所に来る必要なんて、無くなると思ってたの!」


「それが無理な事ぐらい、アルティアで何度も皆に言われていたではないですか」

私がため息混じりに呟くと、


「だって、今まで私が嫌だと言ったら皆、ちゃんと私の望みを叶えてくれたわ。今回もどうにか出来ると思ってたの!」

そう言う殿下の顔は真っ赤だ。怒っているのか…羞恥からか…


「そもそも、ここまで来るのにたくさん時間があったんだから、あんたが私に教えれば良かったじゃない!

自分がきちんと仕事をしてないくせに、私を責めるなんて、あんた本当に何様よ!」

と、殿下は手にしていた扇を力一杯私に投げつけた。


私は、てっきりお茶が飛んで来るものだと思い、カップの方に神経を集中させていた為、扇には意識が向いていなかった。


殿下の手を離れた扇は、思いっきり私の頬を掠めていった。


痛い…もしかしたら、頬が少し切れたかもしれない。そして、殿下が赤くなっていたのは、怒りからだった。羞恥ならマシだったのに……あれ?デジャブかな?

前も似たような気持ちになった気がする。あぁ、殿下ってぶれないな。


「ハハハ!あんたの頬、傷になったわよ?まぁ、もう結婚も出来ない傷物なんだし、何の問題もないと思うけどね。私に偉そうに説教した罰よ。いい気味ね」


私を傷つけた事で少し気分が晴れたのか、殿下は嬉しそうだ。


まぁ、これ以上機嫌が悪くなるよりはマシか。


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