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隣国へ嫁ぐワガママ王女に付いて行ったら王太子に溺愛されました   作者: 初瀬 叶


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第十話

さて、侍女二人を見送った私は殿下へ向き直ると、


「殿下、あと一時間半後に謁見の間で陛下にお目通りだそうです。相応しい装いにお着替えを致しましょう。

お茶は先ほどの侍女の方にお願いしています。

少し休んでから湯浴みを致しますか?それとも、直ぐに旅の埃を落としましょうか?」

と私が訊ねると、


「会いたくない」

と面白くなさそうに言う殿下。


『会いたくない』と言われて『じゃあ止めましょう』って言ってあげる事は出来ないので、


「先に、湯浴みをしましょうか。さぁ、湯殿へ参りましょう」

と私は有無を言わさず、殿下を立たせた。


「あんた!ちょっと聞いてたの?私は嫌だと言ったのよ!」


正しくは『会いたくない』と言われたのであって、『嫌だ』とは言われてない。


「もちろん、殿下のお声は聞こえておりますよ。しかし、今の殿下には『少し休んで準備する』か『直ぐ様準備を始める』の二択しか御座いませんので。

それ以外のお答えについては却下一択です。

さぁさぁ、時間は限られているのですから」

と、私はぐいぐいと殿下を湯殿まで連れていく。


私はこの殿下と過ごす日々で、腕力と体力がついてきた。ちなみに、忍耐力と精神力もだ。


「ちょ、ちょっと、押さないで!クビにするわよ!」

馬鹿の一つ覚えみたいに『クビ』『クビ』って言うけど、じゃあ、一人で準備が出来るのか?


「はいはい。殿下が全てをお一人でなさるなら、いつでもクビにして下さい。

さぁ、ワンピースを脱いで、体を洗いましょうね」


殿下はその後も何かとグダグダ言っていたが、私をクビにする事なく、湯浴みを終えた。


抵抗したって無駄なんだから、黙ってりゃあいいのに。



湯殿から出ると、お茶のワゴンが用意されていた。

きっと湯上がりで暑くなっている事も考えてくれたのだろう、果実水も用意されている。


「殿下、お茶と果実水、どちらになさいますか?」

と私が訊くと、これまた面白くなさそうに


「果実水」

と答える。


全身で不満を伝えようと頑張っているようだが、全て無駄な行為だ。


私は殿下に果実水を用意すると、髪の毛を拭きながら、


「殿下、陛下への謁見で御座いますので、くれぐれも粗相のないようお願い致します」

と念押しした。


謁見の間に私は着いていく事が出来ない。不安で仕方ない。


「あんた、私を誰だと思ってるの?アルティア王国の王女なのよ?」

知ってますよ。

だからと言って安心出来る要素は一つもない。


私は一人で殿下の準備を整えていく。はっきり言って重労働だ。


殿下が獣人の侍女を断るかもしれない…とは考えていたし、この結果は想定の範囲内だが…やっぱり大変!


なんとか時間内に殿下を仕上げる事に成功した。


殿下はゴテゴテしたドレスが好きだが、なるべくその中でも上品に見える物を選んだのだが…


「なんで、こんな地味なやつを選んだのよ!」

…地味ではないです。華美ではないだけで。


「陛下への謁見ですので、なるべく上品に見える物が宜しいかと。

それと、香水は仄かに香る程度でなければ。獣人の方々は私達より鼻が効くと言いますから」

と私が言うと、殿下は不服そうだ。


「殿下、『郷に入っては郷に従え』です」


「何それ?」

…そっか、意味を知らなかったか…殿下…


「私達はベルガ王国に来たのですから、ベルガ王国のやり方に従うべきだと思いますので」


「どうして私が遠慮して生きなきゃいけないのよ!私はアルティアの王女なのよ!」


「アルティアの王族である誇りを失えと言っているのではございません。

ただ、これからは、殿下はこのベルガ王国の王族と連なる者となられるのです。そこはご理解下さいませ」


…ベルガ王国はどんどんとたくさんの国を支配下、或いは属国にし、勢力を広げている。

はっきりいえば、この大陸で一番力を持つ国だ。

アルティアよりも遥かに大きい。

本来なら、その国の王族に嫁ぐ権利は他の国からすれば、喉から手が出る程欲しい物だろうに。


そういえば、この国の王太子殿下には、婚約者がまだ居なかったのではなかったか?


まぁ、色んな国の王女や、この国の高位貴族のご令嬢なんかが、その座を虎視眈々と狙っている事だろうが。


時間になり、近衛の騎士が殿下を呼びにやって来た。


私は最後まで、

「殿下、この国の礼はアルティア王国のカーテシーと違い、もっと腰を…」

とベルガ王国流の最上位の礼について注意点を話していると、


「うるさいわね!私に指図する程、いつから偉くなったのよ!」

と殿下はイライラして私を叱責した。


そう言われてしまえば、それ以上私は何も言えない。


「申し訳ございませんでした。つい出すぎた真似を。では、殿下…いってらっしゃいませ」

と私は不安で胸が押し潰されそうになりながらも、謁見の間へ向かう殿下を見送った。粗相をしませんように…と祈りながら。




殿下が部屋を出てすぐ、先ほどの侍女のイブ様が私を呼びに来た。


「侍女長の所へ案内するわ。一緒に来て」


「はい。よろしくお願いいたします」


私はイブ様の後を付いていきながら、可愛い尻尾がゆらゆら揺れるのを見ていた…触ってみたい。ダメなのは分かっているが。


侍女長はマリエル様という犬の獣人だった。

茶色い垂れ耳が、なんとも愛らしい。


私はマリエル様から、この王城での仕事のやり方を聞き、侍女服を預かった。

私は人間なので、尻尾の穴は開いていない。


それから、私が使うであろう場所の案内を受ける。かなり広い城の為、迷子になりそうだ。


立ち入りに許可のいる場所等の注意事項も書き留めていく。

一度聞いただけでは覚えられそうにない。


ミシェル王女殿下は、今の立場は婚約者でしかない為、この城の客間を使う事を聞かされた。

客間と言っても最上級の部屋だ。

寝室、応接室、湯殿、ご不浄、小さな台所までついている。

その隣には、私が寝泊まり出来る、専属侍女用の部屋も用意されているらしい。

本来なら、そこに二、三人が待機している筈だが、今回は私一人で使う事になりそうだ。


一応、約三ヶ月後に婚約式、その十ヶ月後には結婚式となる予定らしい。

私はそれら全てを侍女長から聞いたのだが…


「え?結婚後は、王子宮に移るのではないのですね?」


「そうです。第三王子であるアーベル殿下は、武術に優れておいでです。新しく領地になったゲルニカを治める領主となる為、直ぐにゲルニカへ旅立つ事になるでしょう。まだ、あの土地は小さな紛争がありますから」


ゲルニカ…確か最近ベルガ王国と戦って敗戦国となった国の一部が新たにベルガ王国の領地となったと聞いた。


まだ、戦後の処理等で安定していない土地と聞く。

そこを任せられるという事は、アーベル殿下は若いのに、かなり優秀なのである事は間違いないが…ミシェル殿下は結婚後、この王都を離れ、またかなり遠い地へ行かねばならなくなるわけだ…しかもまだ政治的にも不安定な領地…


それを知ったらミシェル殿下は……絶対に怒り狂う事は間違いない。

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