タイトルの話(後編)
今度は少し視点を変えて、タイトルにつける主人公の属性についての話だ。
前々話で作った『淑女のふりをした悪女、王太子のお飾り婚約者になりました』というタイトルを例にすると、「淑女のふりをした」が主人公の属性に当たる。肩書きのようなものと言えばイメージがしやすいだろうか。
正確に言えば「悪女」も属性だが、今回はその上についている修飾語の方にスポットを当てる。
まず、属性をその言葉から受ける印象によって、大まかに「ネガティブ」「ポジティブ」「ニュートラル(中立)」の三つに分類した。
分かりやすいように例を挙げる。「少女」という言葉に、それぞれの属性に当てはまる修飾語をくっつけてみよう。
「ネガティブ」 → 愛されない少女
「ポジティブ」 → 愛されている少女
「ニュートラル」 → 愛されたい少女
「愛されない」が「ネガティブ」、「愛されている」が「ポジティブ」なのは何となく分かっていただけるだろう。
一方の「ニュートラル」はマイナスイメージもプラスイメージもない言葉だ。「愛されたい」というのはただの願望なので、印象としてはプラスとマイナスの中間、つまり「ニュートラル」になるわけだ。
実はこの三属性、どれをタイトルに持ってくるのかによって、PVやポイントの伸びに差が出てくる。
増え方が多い順は以下の通りである。
ネガティブ>ニュートラル>ポジティブ
そう、ネガティブ。ネガティブな属性がついた主人公が一番歓迎されるのである。
婚約破棄された、裏切られた、殺された……。初めから満たされている「ポジティブ属性」な人物なんて面白くない。皆、逆境から勇ましく立ち上がる主人公が見たいのだ。
やはり主人公に試練や欠点は必須なのである。
と言っても、全てのネガティブ属性が歓迎されるわけではない。
7話で、主人公には「自分に原因のある欠点」を持たせてはいけないと話したことを覚えていらっしゃるだろうか。ここでもその法則は生きている。
タイトルには、「自分に原因のあるネガティブ属性」をつけてはいけないのである。
例えば、タイトルの一部に「婚約破棄された令嬢」とついていたら、「ネガティブ属性の主人公だ!」となって、見る者の興味を呼び起こすだろう。
だが、「性格が悪すぎて婚約破棄された令嬢」だとどうだろうか?
「性格が悪くてひどい目に遭った? 自業自得では?」
感情移入できない主人公の気配を察知して、手に取ってくれる方は激減するはずだ。
けれど、実はちょっとした抜け道のようなものもある。タイトルにどうしても「自分に原因のあるネガティブ属性」を付けたい時は、「他人からの評判」の形を取ってしまえば良いのだ。
例を挙げる。「取り柄がない」という言葉を題名に組み込む場合を考えてみて欲しい。
この単語はこのままだと「自分に原因のあるネガティブ属性」となってしまう。ところが、そこに「言われた」と付け加えてみるとどうだろう。
「取り柄がないと言われた」
「自分に原因のあるネガティブ属性」が「ニュートラル属性」へと変わったことにお気付きだろうか。
取り柄がないのではなく、あくまでそう言われているだけ。他人がそんな風に感じているだけだから、主人公は悪くないのだ。
このように悪評の責任の所在を他者へと移すことで、読者様の嫌いな「自分に原因のあるネガティブ属性」を冠したタイトル誕生が回避できるのである。
また、これらの「ネガティブ」「ポジティブ」「ニュートラル」の三属性は組み合わせて使うことも可能だ。「ネガティブ属性+ニュートラル属性」とか。
その際は、違う属性同士の合わせ技にする方がいい。「ネガティブ属性+ネガティブ属性」のように、同種同士を掛け合わせると若干くどさが出てしまうからだ。
これだけタイトルについて色々と考えているお陰で、今となっては(自作に限り)題名を見ただけで読まれるかどうかが何となく見分けられるようになった。
まだ誤差はあるので、今後はさらなる法則を発見するなりして、その精度をさらに高めていきたいところである。