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小説を書くきっかけの話

 書き手の皆様は、ご自身が創作を始めたきっかけを覚えておいでだろうか。


 私の場合は、ある春の日のことだった。


 当時の私はメンタルがちょっとやられ気味で、ほとんど部屋から出ないような生活を送っていた。


 薄暗くした室内で天井を眺めて過ごす日々。やらなければならないことは色々あるのに、どうしても手を付ける気になれない。


 そんな折、私の目が机の上に置いてあった紙の束を捕らえた。


 それはミスプリントなどを裏紙として使っていたものだったのだが、その量があまりにも多かったために、ふとこんなことを考えた。


「これ、何かに使えないかな?」


 ただの気まぐれだったが、天井を見ているよりは建設的だろうと思い、私は紙の白い面に絵を描き始めた。


 けれど、私はあまり絵は上手くない。それでも一ヶ月もすればちょっとは上達したのが、何となく「他のこともしてみたい」という気持ちが沸き起こってきた。


 そうして、今度はそこにお話を書き始めたのである。


 と言っても、初めはただ頭に浮かんだ一場面を書いていただけだった。「女の子が小人と出会うシーン」とか、「共通の知人を待っている二人組が会話をしているところ」とか。


 なんでそんな瞬間を? どういう流れでこうなったの? 等々は一切気にしていなかった。登場人物には名前すら付けず、皆「I」とか「T」とかのイニシャルを用いていたくらいだ。


 でもその内、「もっとストーリー性のある話が書きたい」と思うようになった。


 こうして私は、初めて小説らしい小説を執筆することになったのである。


 その作業だが……とても楽しかった。


 いや、「楽しい」などという言葉では足りない。文字通り寝食を忘れて没頭した。ずっとペンを握っているせいで親指の変なところにマメができようが、昼夜の区別がつかなくなろうが一心不乱に書き続けた。


 何かにひどく熱中することを「狂う」と表現するが、私の状態がまさにそれだった。私は完全に創作に狂っていた。今までこんなに楽しいことをやって来ずに生きてきたのが不思議なほどだった。


 創作に入れ込んでしまったお陰で引き籠りはますます加速したが、反対に心は生き生きとしてきた。世界が美しく色付くような感覚。薄暗かった部屋は執筆のためにいつでも明かりが灯るようになった。


 あの時私がふとした気まぐれを起こさなかったら、きっとその内、心が摩耗しきって大変なことになっていたかもしれない。そう考えると、創作は私の恩人ということになる。私は書くことで自らのこころを救ったのだ。


 その後の私は何とかまともな生活に復帰することができた。初めて書いたお話も、一年半ほどかけてエンディングを迎えさせてあげることに成功する。しかも全部裏紙に手書きで。合計で何十万文字になったのやら想像もできない。


 そうしてまた、私は気まぐれを起こす。


「そう言えば作品を投稿できるサイトがあったっけ。私もやってみようかな」


 こうして私はなろうユーザーとなったのである。あまりにも気軽な動機だ。


 そういった緩い感じで始めてしまったので、後に「ビッグになってやるぜ! ぐふふふ」というようなやる気満々の参入者様もいると知った時は心底驚いたものだ。「もしかして私は浮いているのでは……?」と密かに困惑したりもした。


 そんな風にやる気のないスタートから今まで生き残ってこられたのは、私の創作活動が狂気によって支えられていたからだろう。


 私にとって書くことは生命維持と同じ。心に潤いが欲しくて筆を執る。その結果出来上がったものが人目に触れようが触れまいがどっちでもいいけど……。どうせだから見てもらおう。そんなのんびりとした心持ちだったのだ。


 もちろん「見て」もらっているのだから、そこには読者の方々の存在があったことも忘れてはいけない。今まで作品に反応を寄せてくださった方に、この場を借りてお礼を申し上げる。


 狂ったり、ゆったりとしたり、感謝したり、忙しい奴だと思われるかもしれないが、私はちょっとばかりマイペースな性格をしているだけである。……多分。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 紙の裏面に何十万字と……。 驚きました。 書くことで自らの命も救ったと……。熱中するものがあることは人生にとって大切ですね。 私の書き始めたきっかけは三羽さんとは異なりますが、やはりノート…
[一言]  三羽先生の「ものを描く」きっかけと、その位置付け。  興味深く読ませていただきました。  先生ほどのおかたであれば、どんな道筋を辿ろうとも、遅かれ早かれ、ものを描くことになっていたのでは、…
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