震撼 ─ 2
「ど、どういうこと……」
顔面蒼白となったエヴァの表情に、男は苦笑した。それは出し抜いた、と言わんばかりに爽快そうな表情だった。
「別にどういうことでもない。これが教典の力だ」
「し、し、死者の……蘇生なん、て」
「死者の蘇生? 俺はそんな大層なことはしてない。お前が殺したあいつは死んだんだ」
間違いなくね、そのニュアンスが込められた言葉にエヴァの頭は更に混乱した。
(ドッペルゲンガー? いや、そんなはずがない。こんなタイミングよく現れるはずがないもの)
なら何なのか。彼女は必死に頭を回したが、答えは到底見つけられそうにもない。
それを見抜かれたのか、男は更に笑みを深め、何やら服の中から取り出していた。
それはエヴァが命に替えてでも望んだ「7つ目の教典」に他ならなかった。
「この本の力は人智を超越したものだ。考えても分かるはずがない。だからこそ、お前は望んだんだろ?」
この力を。その言葉が耳に入らないほど、エヴァの心は後悔の念に蝕まれていた。
行き過ぎた野心に喰われた王女。それほどまで馬鹿げた人物はこの先、ほとんど出てこないはずだ。
アストレア王国は貴族派閥が牛耳り、血族は失墜の道を辿っていく。その元凶が自分自身。
その苦悩は、どんなものよりも果てしなく重く、彼女にのしかかった。
「こんな最後なのね。私って」
心の中では諦めていても、どれだけ後悔していても、瞳からは万斛の涙が注がれた。
叫ばず、ただひたすらに懺悔の時間が過ぎていく。止まらぬ涙に怒りを覚えながら。
(きっと私以上に父上たちは苦労するに違いない。死後の世界で私は斬首されるでしょうね)
半ば強引に心の整理が着いたエヴァは深く息を吸い、吐く。その時だった。
「俺と契約をしないか? 契約を結べば、お前の願いを一つだけ聞く。出来ることならね」
彼が言葉を発したのは。
エヴァはその発言に耳を疑った。すぐに死ぬ人と契約を結ぶ? それがよく分からなかったのだ。
しかし、彼女の口は勝手に動いていた。「生きたい」と。
「契約完了だ。でもお前はもう蘇生することが出来ない。だから、少し前のお前に望みを繋ぐ」
その言葉と共に男はエヴァの首を切った。それと同時に失われた意識。
(裏切られたのね。ほんと馬鹿みたい)
そう思った刹那、眼前に広がった闇に一筋の光が差した。それを掴もうと必死に手を伸ばす。
そして掴んだ時、彼女は先程まで倒れ込んでいた花々の上に立っていた。
足もちゃんと着いていて、痛みもあるから夢ではない。
「凄いだろ、教典の力って」
エヴァの目の前にいたあの男は、何やら東側を指さしていた。
そこに何があるの? そう思いながら目を移したエヴァは目を見張った。
そこには足が無くなり首を掻っ切られたエヴァの、自分自身の死体があった。
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