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 ──ただ、私はあなたとっ


 握りしめていたのは赤く染め上げられた鎌。眼前に倒れるのは、小さな子供。腹に一線が入っており、そこからは血飛沫が上がっている。


 ──私は……なにをっ


 日に日にぼんやりと意識が掠れていく頭を抑え、少女は覚束(おぼつか)ない足取りで、炎で覆われた村をただ歩く。周りの人々は悲嘆の叫び声が上げる。首や手に鎖をつけられ、(むち)で打たれる姿はまるで家畜の様だ。少女の前に不敵な笑みを浮かべた男が立つ。


「早く諦めて呑まれてしまえば楽だぞ、アカツキ」


 その者は、この惨状を起こした奴隷商人である。少女、アカツキの主でもある。そんな主を睨みながら、頭を抑え、痛みに耐えるアカツキ。


「いやだ! 諦める方がもっと苦しいのっ」


 アカツキは、対抗心が強かった。痛みで従わせることが出来なかったのだ。強靭(きょうじん)な肉体を持つアカツキは、殲滅(せんめつ)された鬼魔族(きばぞく)という一族の生き残りである。

 しかし、先程小さな子供の腹を切ったのはアカツキである。彼女の持つ鎌がそれを物語っている。その時の記憶は、アカツキにはない。あるのは切ってしまった後の手に残る、血肉を裂いた後の感触だ。


「まぁ、時期にお前は忘れる。奴隷には必要のない感情を」


 アカツキには、一つの強い魔法がかけられている。自分の意志ではない行動を取ってしまうのもその所為だ。


「私はっ私は、誰?」


 ──あなたは私っ


 自分の声が、頭に響く。しゃべっていないはずなのに、頭に言葉が響く。


「なんで人を殺さなきゃ行けないのっ」


 ──楽しいからに決まってるでしょ?


「たの……しい?」


 頭に響く声は、アカツキの意識を混濁させる。次に見せた瞳は澄んだ紫紺の瞳ではなく、爛々と戦意に満ちた漆黒の瞳。黒髪を揺らし、再び炎で覆われた村へと足を踏み入れた。


「楽しいでしょ? 私はあなたっ」


 その行動に主は満ち足りた笑顔を見せる。次にアカツキの意識が戻った頃には、村は跡形もなく消え去っていた。


「私は、何も失いたくないっ! 大切な人をっ」


 ──失わないように戦うのっ楽しいでしょ?


 頭が割れそうなほどの痛みに耐えていたアカツキだが、開かれた瞳は混濁した瞳。


「楽しくなんかっ……たのしぃ」


 ──いつから私は変わってしまったのっ


 アカツキの頭の中で、響く声。それはアカツキのものへとなりつつある。


 ──お願いっ誰か私を……消してっ

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