素顔
今回も楽しんでくれると嬉しいです。
アミュリデス帝国に旅立つ日となった。
蓮は纏めた荷物を背負いながら、今にも泣き出しそうなエマ達に微笑んだ。
「……本当に行ってしまうの?」
「レン……元気でね。」
「嫌な目に遭ったらいつでも帰ってきていいからね!」
それぞれの三人の言葉に胸が温かくなった蓮は、今までの出来事を思い出し涙を零した。
「三人が居たから僕は今まで生きて来れた……本当にありがとう。皆の事は絶対に忘れないからね。」
その蓮の言葉を皮切りに三人は涙を零した。
蓮はそんな彼女達に対して、今までで一番美しい笑顔を浮かべるとその部屋を後にした。
蓮はアミュリデス帝国の皆が出立する場所を目指して、長い王宮の廊下を歩いていた。
そうしてもう少しでその場所に着く……という所で、突然目の前に一人のアミュリデスの兵士が現れた。
「うわっ!」
蓮は余りの驚きで尻もちをついた。
そんな蓮にその兵士……青年は手を差し伸べると申し訳なさそうにに萎れた。
「すみません……舞姫様。驚かせてしまって。」
蓮はその青年の手を取って立ち上がり服の汚れを払うと、青年に向けて柔らかく微笑んだ。
「僕は大丈夫だよ。手を差し伸べてくれてありがとう。」
それを聞いて青年は先程の様子から一転、目を輝かせると興奮したように言った。
「流石、舞姫様!貴方のような美しく優しい方の護衛が出来るなんて、私はとても嬉しいです!」
そう声を弾ませる青年に蓮は目を丸くした。
「……護衛?」
「はい!あっ……申し遅れました。私は舞姫様専属の護衛、メルヴィスと申します。命を賭して舞姫様をお守り致しますので、これから宜しくお願い致します。」
そういうと青年……メルヴィスは柔らかく微笑んだ。
蓮は突然の展開について行けず暫し目を白黒させていたが、なんとか状況を理解すると微笑んだ。
「宜しく。メルヴィス……でも僕の事は舞姫様と呼ばないで、蓮と名前で読んで。」
その言葉にメルヴィスは暫し戸惑っていたが、蓮の寂しげな表情を見て頷いた。
「分かりました。レン様!」
本当は敬語も無しで良いんだけど……と蓮は思ったが、それは胸の奥にしまっておく事にした。
そして蓮はメルヴィスに微笑みかけると、ずっと思っていた疑問を口にした。
「それで、どうしてメルヴィスは突然現れたの?」
……そうなのだ、メルヴィスは本当に突然何も無いところから瞬時に目の前に現れたのだ。
それが蓮には不思議でならなかった。
その蓮の言葉にメルヴィスは何かを思い出したのか、己の両手を叩くと勢いよく口を開いた。
「そう言えば、レン様!皇帝陛下がお呼びですよ!」
その衝撃的な言葉に、蓮は抱いていたメルヴィスに対する疑問も忘れて青褪めた。
「……皇帝が僕を?」
「はい!そうです!」
まさか……僕、殺されるの?
そんな風に最悪な状況を考えて更に青褪める蓮だったが、メルヴィスはそれには気付かず悪戯っ子のように笑うと蓮の手を取った。
そして気合の入った声を上げた。
「行きますよ!」
「えっ……え?」
その言葉に蓮が青褪めながらも首を傾げた時だった……突然周囲の景色が変化したのは。
そうして気が付いたら見た事もない部屋の前にいた。
いきなりの突然すぎる展開に皇帝への恐怖も忘れて茫然とする蓮。
そんな蓮を見つめながらメルヴィスはとてもいい顔で笑った。
「この部屋に皇帝陛下がいらっしゃいますよ!」
「……………………えっ?」
本当に意味がわからない。
蓮は我に返ると険しい表情でメルヴィスを見つめた。
「……どういう事?どうして一瞬で此処に来れたの?」
その言葉にメルヴィスは微笑んだまま答えた。
「私は瞬間移動が使えるのです!ああ、でも……行ったことのある場所にしか転移出来ませんが。」
瞬間移動……その言葉に蓮は目を目開いた。
そんな魔法があるだなんて知らなくて、蓮はかなり驚いたがそれと同時に目を輝かせた。
「凄い!ねぇ、メルヴィス!僕にもその魔法教えて!」
そう声を弾ませる蓮にメルヴィスは曖昧に微笑むと言いづらそうに口を開いた。
「レン様この魔法……瞬間移動は本来は存在しない魔法なのです……ですがある理由によって我が一族だけが……今は私だけですが、これを使えるようになりました……これはある種の呪いに近いものなので……お教えする事は出来ないのです……」
呪い、その恐ろしい言葉に蓮はゾッとした。
そしてそれと同時に言いづらいことを聞いてしまったメルヴィスに対してとても申し訳なく思った。
「ごめん……メルヴィス。」
「良いのです!私も説明もせずにいきなりこの魔法を行使してしまい申し訳ありませんでした……さあ、レン様!どうぞこの部屋の中へ!」
そう言って明るく微笑むにメルヴィスに蓮も微笑み返すと、意を決して部屋の扉を開けた。
部屋の中には長い金髪を緩く編み込んだ残虐皇帝が仮面を付けて立っていた。
部屋の中でも仮面……と蓮は青褪めながらもどうでも良いことを考えたが、直ぐに切り替えて皇帝陛下に拝謁しようと膝をついた……その時だった。
「レン……」
その聞き間違える筈のない愛しい人の声に、蓮は限界まで目を見開くと残虐皇帝を見つめた。
そんな蓮の前で残虐皇帝はついに仮面を取った。
仮面の下から現れたのは……秀麗なエルの面。
蓮はその残虐皇帝……エルを見つめながら震える声で呟いた。
「……どうして?」
残虐皇帝が初めて愛したのは天上の舞姫。
新キャラが出せました。
次回も読んでくれると嬉しいです。