命を賭けて
今回も楽しんでくれると嬉しいです。
懐かしい声が僕の名を呼ぶ。
その声に反応してゆっくりと目を開けると、真っ白な世界に一人佇むセレネがいた。
突然のセレネの登場に蓮は目を丸くしたが、直ぐに納得した。
「これは夢か……」
夢の中なのに夢だと認識出来るなんて、と内心驚く蓮にセレネは優しく微笑み掛けた。
「……そうです。私は神の力を使い、貴方にこの夢を見せています。」
ならこの夢は己ではなくセレネによる特別なものだったのか、と再び驚いた蓮だったが何となく納得した。
……だって普通の夢がこんなにもリアルな筈はない。
そんな事を考えていた蓮だったが、直ぐに訝しげに眉を寄せるとセレネを見つめた。
「一体セレネは何がしたいのですか?」
「……私は貴方に伝えたい事があり、こうして現れました。」
そう語るセレネを不思議そうに見つめると、蓮は疑問を口にした。
「伝えたい事とは何ですか?というかセレネ!こんな方法があるならもっと早く……」
「すみませんが文句はまた後で。蓮……これからとても大切な話をします。心して聞いて下さい。」
そのいつもより真剣なセレネの表情に、蓮は戸惑いながらも表情を引き締め頷いた。
そしてセレネはそんな蓮を見つめながら話し始めた。
「レン……丁度三日後に天上の門が開きます。天上の門とは最高神が創造した神と人間の世界を繋ぐ唯一の門の事です。その時であれば貴方は天上の世界に戻る事が出来ます……ですからレン……その時に天上の世界に戻りましょう……私が貴方を迎えに行きますから。」
セレネから発せられた思いもよらぬ言葉に蓮は目を丸くした。
「……天上の世界に戻る?」
「そうです。レン……戻りましょう……貴方は此処にいてはいけない……」
此処にいてはいけない、そのセレネの言葉に蓮は眉を顰めた。
「何故僕は此処にいてはいけないのですか?」
その疑問にセレネは苦しそうに顔を歪めるとゆっくり話し始めた。
「……私が創造した貴方の体は、本来は天上の世界でしか生きられないようになっているのです……その体はもう少しで死を迎えます……ですからレンこのまま此処にいれば、その体に魂が入っている貴方もまたその体と共に死にます。」
その残酷な言葉に蓮は言葉を失った。
なんて残酷なんだろう……この世界に出来た大切なもの全てを捨てて天上の世界に戻らなければ……僕は死ぬだなんて。
『レン……私の傍にずっと居てくれ。』
そのエルの言葉を思い出して蓮の目から涙が零れ落ちた。
……戻りたくない、そう強く思ってしまう。
彼の……エルの傍に居たい。
その強い想いに突き動かされて、蓮は縋るようにセレネを見つめた。
「……この世界に居ても体が生きられるようにする方法は無いのですか?」
「……ありません。もしやレン……貴方はこの世界に残りたいと思っているのですか?」
その言葉に蓮は金の瞳でセレネを見つめると力強く頷いた。
「……ずっと傍にいると約束した相手がいるのです……僕はその彼の事が……自分の命と同じくらいに大切です……それ故に僕は……天上の世界に戻る事は出来ません。」
その言葉にセレネは顔を歪めると叫んだ。
「駄目です!天上の世界に戻りましょう!貴方はこの世界のものではない!それなのに此処で死ねば貴方の魂は完全に消滅し、輪廻転生は二度と出来なくなる……それでも、こんな残酷な未来しか待っていなくても貴方は此処に居たいと……その男が大切だというのですか!」
そのセレネの叫びに蓮は儚く微笑んだ。
怖い……死ぬのも魂が消滅してしまうのも怖くて堪らない……だけど……
心から彼を……エルを愛してしまった。
そんな愛しい彼と離れるなんて……僕には出来ない。
だから……この命を捧げて彼を愛そう。
蓮はセレネに近づくと震える腕で彼女を力強く抱きしめた。
セレネはそんな蓮に静かに涙を零した。
「レン……貴方は本当に此処に残るのですか?」
「セレネ……御免なさい。」
蓮は涙を零しながらそう呟くと、セレネから離れ花咲くように笑った。
「セレネ……僕は今幸せですよ。」
その笑顔を見てセレネは蓮の決意が動かない事を悟ると小さく呟いた。
「……これは運命なのでしょうか。」
その呟きは蓮には聞こえなかった。
セレネは蓮を見つめ、悲しげだが何処か幸せそうな笑みを浮かべると口を開いた。
「レン……天上の世界で貴方を見守っています……どうか………………は幸せになって下さい。」
そのセレネの言葉が聞き取れず首を傾げた蓮だったが、突如襲いかかって来た眠気にゆっくりと目を閉じた。
物語が動き始めます。
次回も読んでくれると嬉しいです。