望む未来
今回も楽しんでくれると嬉しいです。
「……どうして?」
少女は真っ白な面で男を見上げると涙を零した。
その男の冷酷な眼差しが少女には辛くて堪らなかった。
……どうしてそんな目で見るの?
男は何の光も宿さない瞳で少女を見下ろすと、少女の白い首筋に剣を押し当てた。
だが少女はそんな剣など意に介さず、男に向けて手を伸ばすと叫んだ。
「貴方を愛した為に………………さえ捨てたというのに!」
男はそんな少女の悲痛な叫びを嘲った。
「黙れ、この悪女が。」
その吐き捨てられた言葉に少女は限界まで目を見開いた後、泣きながら微笑んだ。
「愛している……例えどれ程虐げられようと……殺されようと……貴方だけを……」
愛しているの。
その言葉は声にはならず、かわりに辺りに血が飛び散った。
少女は涙に濡れた目をゆっくりと閉ざすと、雪が積もった冷たい地面の上に倒れた。
蓮は落ち着くと泣いていた理由やエマ達の事、そしてこれからどう生きていくのかをエルに話した。
その話をエルは優しい表情で聞いてくれていたのだが、ふと蓮に疑問を投げかけた。
「仲の良い友人と暮らすのは良いとして……天上の舞はどうしていくつもりだ?」
その言葉に蓮は驚きで目を丸くした。
「どうしてエルは僕が天上の舞を舞える事を知っているの?」
その言葉にエルは一瞬罰の悪そうな顔をしたが、直ぐにいつもの表情に戻ると咳払いをした。
「それは……実は私は皇帝……の護衛の近衛兵なのだ。だから常に皇帝の傍にいる。それ故にレンが天上の舞を舞っている姿も見ていた。」
そのまさかの告白に蓮は目を剥いた。
「えっ!エルってアミュリデス帝国の兵士だったの!しかもあの残虐皇帝の護衛!」
衝撃の告白に暫し茫然としていた蓮だったが、我に返るとエルを睨みつけた。
「何でもっと早く言ってくれなかったの?」
その責めるような口調にエルは視線を彷徨わせた。
「蓮はアミュリデス帝国をよく思ってはいないだろう……だから私が帝国の兵士だと知れば……」
それから言い辛そうに口籠るエルに、蓮は彼が何を言いたいのか理解して微笑んだ。
「エルは僕に嫌われたくなかったんだ?」
その言葉にエルは微かに頬を染めた。
蓮はそんなエルを見て笑うとはっきりと言った。
「……確かにアミュリデスの兵士達は好きではないよ。でも一番悪いのは残虐皇帝だから!」
その言葉にエルは何故か苦しげに胸を押さえた。
その妙な反応に蓮は首を傾げた。
「どうしたの、エル……大丈夫?」
そう言って不思議そうにエルを見ていた蓮だったが、突如顔を曇らせ呟いた。
「でもエルがアミュリデス帝国の兵士なら……」
「兵士なら何なのだ?」
そう言いかけて途中で口をつぐんでしまった蓮にエルは眉を顰めた。
蓮は寂しげに目を伏せると続きを呟いた。
「もうすぐ自分の国に帰ってしまうから……もう会えなくなるね……」
その言葉にエルは目を見開いた後、意地悪そうに微笑んだ。
「レンは私に会えなくなるのが寂しいのか?」
その言葉に蓮は顔を真っ赤にすると、キッとエルを睨みつけた。
「べ、別に!」
そんな蓮の反応を愉しんでいたエルだったが、直ぐに表情を引き締めた。
そして何か決意したように蓮を見つめると、話し始めた。
「レン……もし良ければ皇帝付きの舞姫になって私の国に来ないか?そしてアミュリデス帝国で天上の舞を舞わないか?」
その驚くべき提案に蓮は目を見開いた。
「……皇帝付きの舞姫?」
「そうだ……皇帝はレンの舞を非常に気に入っている。それに私はこ……兵士だが皇帝と非常に仲が良い。だからもしレンが望むのなら、皇帝にレンを皇帝付きの舞姫にしてくれるよう口添えしよう。」
あの残虐皇帝と親しくて尚且つ口添えまで出来るなんて……一体エルは何者なのだろう。
そんな疑問が浮かぶ蓮だったが取り敢えずスルーした。
今考えるべき事は皇帝付きの舞姫になるかどうか。
蓮はゆっくりと己のこれからについて考えた。
『私達と一緒に生きましょう。』
そのエマの言葉は本当に嬉しかったし、エマ達と一緒に暮らせたら幸せに決まっている。
舞だって舞えない事はない……だけど僕の望みは……
蓮はエルを真剣に見つめると柔らかく微笑んだ。
「ねぇ、エルは僕の舞を見たい?」
その言葉にエルは微笑むと頷いた。
「勿論だ……レンの舞を死ぬまで見続けたい。」
その言葉がある種のプロポーズのように思えて、蓮は頬を染めた。
そしてこれからの自分の未来を決めた。
「僕……皇帝付きの舞姫になりたい……そして……皇帝否、皇帝の傍にいるエルの為に舞を舞いたい。」
それを聞いたエルは本当に嬉しそうに笑うと蓮を抱き上げた。
「レン……どうか私の傍にずっといてくれ。」
その言葉に蓮は高鳴る胸を抑えて、花咲くように笑った。
「エルが望むのなら……」
蓮はそう言うとエルの胸に顔を寄せ、眠るように目を閉じた。
次回も読んでくれると嬉しいです。




