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残虐皇帝の花嫁  作者: 雪斗
12/26

結果

楽しんでくれると嬉しいです。

気が付いたら真っ白な世界にいた。

蓮は体を起こすと首を傾げた。


さっきまで残虐皇帝の前で舞を舞っていた筈なのに……

一体此処は何処なんだろう。


そんな事を考えていた蓮だったが……不意に啜り泣く声が聞こえて、辺りを見回した。

そして近くに一人の子供が頽れて泣いているのを見つけた。

体格や声からして恐らく少女だろう。


その少女が余りにも悲しげに泣くものだから此方まで悲しくなり、蓮は少女の元へ駆け寄った。

長い髪が邪魔で少女の顔は見えないが、きっと悲しい表情をしているに違いない。

蓮は心配そうに少女を見遣ると声をかけた。


「どうしたの?」


それに少女は何も言わず、ただ泣き続ける。


どうか泣かないで欲しい……そう思った蓮は意を決して少女の背中を優しく撫でた。


「どうか泣かないで……大丈夫だよ。僕が傍にいるから。」


蓮はそう言って少女に微笑み、その背を優しく撫で続けた。


どれ程の間そうしていただろう。

不意に少女が小さな声で呟いた。


「…………………え…‥‥………い。」


その少女の呟きが余りにも小さくて聞き取れず、蓮は首を傾げた。


「今、なんて言ったの?」


そんな蓮の言葉は無視して、突然少女は立ち上がると蓮に背を向けて歩き始めた。

蓮は少女を追いかけようとするが何故か足が動かない。


「待って!何処に行くの!」


手を伸しながら必死に叫んでも、少女は此方を一瞥もせずに歩き続ける。

蓮はそんな彼女を見て冷や汗が止まらなかった。

其方に行っては駄目だ、何故かそう強く思い蓮は必死に叫んだ。


「駄目だ!其方に行かないで!」


その言葉はやはり届かず少女は歩き続ける。

蓮は歯痒い思いをしながらも少女に対して叫び続けて……


「駄目!行くな!」


何度目かの叫びでやっと少女は止まった。

蓮はほっと安堵の息を吐くと、未だ此方に背を向ける少女に微笑んだ。


「良かった……止まってくれて。」


そう言うと少女は言葉を発した……今度はしっかりと聞き取れる声量で。


「間違い……だった……」


その透き通った声で紡がれた謎の言葉に蓮は首を傾げた。


「何を間違えたの?」


その何気ない問いを聞き、少女はゆっくりと振り返った。

そして露わになった少女の顔を見て、蓮は驚きと恐怖で目を見開いた。


少女の顔には目も鼻も無く、真っ黒に塗りつぶされた平面が広がっているだけだった。

蓮は余りの恐ろしさに腰を抜かすとへたり込んだ。


そんな蓮に対して少女はどんどん此方に近づいて来る。

蓮は恐怖で叫ぼうとしたが何故か声が出ず、体も動かせなかった。


来るな!

心の中で蓮は必死にそう叫び続けた。

だがそんな願いも虚しく、とうとう目の前に少女が来た。


蓮は余りの恐ろしさにギュッと目を閉じて身を固くしていたが、不意に頬を撫でる感触に恐る恐る目を開けた。

目の前には優しく……本当に優しく蓮の頬を撫でる少女がいた。


予想外の少女の行動に蓮は驚きで目を見開いた。

そうして少女は愛おしげに蓮の頬を撫でながら、唯一存在する口で言葉を紡いだ。


「貴方は……幸せに……なって……」


そう言葉を発すると少女は消えた。

その優しく切ない言葉に、何故だか涙が止まらなかった。

彼女の悲しみは……苦しみは一体何だったのだろう。

……彼女は一体誰なんだろう。

そんな尽きぬ疑問を胸に抱きながら、蓮はぽろぽろと涙を零した。





















蓮はハッと目を覚ますと勢いよく体を起こした。

そして周囲を見回して、ほっと安堵の息を吐いた。


「夢か……」


とても悲しく苦しい夢だった。

蓮は己の頬に伝う涙に触れるとため息を吐いた。


「あんな苦しくて悲しい夢を見るなんて……」


ぼんやりしながらそんな事を考えていた蓮だったが、残虐皇帝の事を思い出しハッと目を見開いた。


「エマ達は無事なのか?」


舞を舞った後の記憶が無く、酷く混乱する蓮。

そうして頭を捻りながら唸っていると、突然部屋の扉が開いてエマが現れた。


エマは起きている蓮を見て顔を輝かせると、凄い勢いで蓮に抱きついた。


「良かった!目覚めて本当に良かったわ、レン!もう三日もずっと眠っていたから本当に心配したのよ!」


その言葉に蓮はギョッと目を見開いた。

三日……そんなにも長く眠っていたなんて。

だが今はそれよりも残虐皇帝との勝負についてエマに聞かなければ。


「エマ達は殺されなかった?リサやレメイアは無事なの?」


恐る恐る発せられたその言葉にエマは勢いよく頷いた。


「無事よ!レン、貴方のおかげで王族以外は皆解放されたわ!本当にありがとう!」


その言葉に蓮は心の底から安堵した。


「良かった……本当に……」


残虐皇帝に屈しないといっても全く恐怖が無い訳では無かった。


蓮は軽くなった心と大切な人達が無事だった事に思わず嬉し泣きをした。

突然泣き出した蓮にエマは戸惑っていたが、蓮は構わず泣き続けた。


そうして蓮は再び疲れて眠ってしまうまで、泣き続けたのだった。





















目が覚めたら夜だった。

蓮は暫し窓から外を眺めていたが、急に外に出たくなり顔や衣服を整えて部屋を出た。

そうしてよくわからない廊下を迷いながら歩いて、なんとか蓮は外に出ることが出来た。


久しぶりの新鮮な空気をいっぱい吸い込み、蓮は微笑んだ。

なんて気持ちの良い夜だろう。

肌を撫でる風が微かに冷たく心地よい。


そうして夜風にあたりながら、気ままに歩こうとしたその時……視界の隅にぼんやりと白いものが映った。

目を凝らしてそれをよく見てみると、如何やら人……男性が居るようだった。


久しぶりの外という事もあって気分が高揚していた蓮は何も考えずその人物に突撃した。


「何をしているんですか?」


突然そう声を掛けたが男は驚く素振りも見せずに、ただ面倒臭そうに振り返った。

だがその胡乱げだった目は、蓮を見て変わった。

蓮も月明かりに照らされたその男性の美貌を見て、目を見開いた。


その男性は世にも稀なる美形だった。

紅の瞳を持つ切れ長の目に整った鼻梁、血のよう紅く薄い唇に白磁の肌。

その完璧なまでに美しいパーツが小顔に完璧に配置されていた。

その絶世の美貌は神とも肩を並べる程だった。


此処までの美形は天上の世界以来だったので、蓮は少し懐かしくなり微笑みながら話しかけた。


「僕は蓮です。貴方の名前は?」


その言葉に男性は面食らったようだったが、直ぐに無表情に戻ると答えた。


「よ……私はエルだ。」


その何処かで聞いたことのある声に蓮は首を傾げたが、直ぐに勘違いだと思い直して柔らかく微笑んだ。


「エルさん……少し僕とお話ししませんか?昼間寝過ぎて眠れなくて……今暇なんです……良ければですけど……」


それにエルは逡巡した後頷いた。


「別に構わない。」


その言葉に蓮は花咲くように笑うとエルの手を取った。

エルはそれに驚いたが抵抗はしなかった。


「では、歩きながら話しましょう。」


そうして蓮はエルの手を引いて歩き始めた。







次回も読んでくれると嬉しいです。

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