第19話「レベル275の力」
「ガハッ、ガハッ・・・オエェェェッ。」
真也の重い一撃がザゲに深いダメージを負わせた。
「おい。」
「(バ・・バカな・・・こんな人間のガキにこんな力が・・・)」
「ゆっくりしてると教官たちにバレるからよ。もう決着つけていいか?」
「クソがぁぁぁッ!!!」
ザゲが全ての力を開放。
木々が揺らぎ、周囲一帯の動物は恐怖で遠くへ逃げた。
そして全力の拳を振り上げて真也に襲い掛かる。
だが真也はザゲの攻撃を軽く躱す。
そして重い蹴りを逆に食らわした。
「ガァァァァァァッ!!!」
ザゲは膝を崩し倒れ込み、激痛で顔が歪む。
「・・この世界がなんでここまで魔物に侵攻されてるのか少しわかったわ。」
「ハァ・ハァ・・・?」
「この世界で14年過ごしたけど・・別に人間のレベルが低いって訳じゃないんだよ。むしろ他と比べて身体能力も魔法も強い。」
「・・な、なんの話をしている!?」
「お前たち魔物のレベルが高いんだな。護衛団の・・名前は・・忘れたからいいや。とにかく下っ端のお前でも他の世界では魔王の幹部級の力があるよ。」
「下っ端・・・だとぉぉ!?」
「だけど・・・お前じゃ俺は・・倒せない。レベル差ってもんがあり過ぎるからな。」
「なんだと・・!?」
「そうだな・・俺が最初に転生した時はレベル65だった。そこで一番強かった魔物は勿論魔王。んで今のお前の力はその時の魔王の側近くらいだな。後からディーテに聞いたら最初の魔王のレベルは50だったから・・だからレベル的には・・・多分40前後ってところか。」
「だからさっきからお前は何の話をしているッ!?」
「お前のレベルは40前後、俺のレベルは・・275だ。わかるだろ?逆立ちしても俺には勝てない。」
「この俺をバカに・・・しているのかァァァッ!!!」
ザゲが再び真也に襲い掛かるも真也はこれを軽くあしらう。
そして裏拳をザゲの顔に打ち込む。
バゴンッ!!
巨体のザゲを軽く吹っ飛ばす。
「ガハッ・・・この俺が・・まるで赤子同然だと・・!?」
「ちなみに今のはゼルの分な。」
「(なんだこの化け物じみた力の人間は・・・。俺では・・勝てない・・コイツは危険。我々魔王軍の脅威になる存在だ・・・。)」
「そろそろ本当に決着つけるぞ。」
「知らせねば・・」
「なに?」
「お前のような存在がいることを早急に知らせねば・・・」
ザゲは大きな羽を広げ上昇。
そして一目散に飛んでいった。
「・・・ま、逃げたならいっか。遠くへ行ってくれるなら他の生徒に危害はでないし。」
・・・あれ?アイツ何て言ってたっけ?
知らせる・・?
仲間に知らせる→仲間内で共有→上司へ伝わる→マークされる→追われる→平穏な暮らしできない
知らされたら・・ダメじゃん!!
真也から逃げたザゲはぐんぐんとスピードを上げて飛行。
「ククク・・俺の飛行速度は護衛団でも屈指の速さを誇る。追いつける訳が無い。」
ザゲはふと下を覗く。
すると・・・
「なっ!!?」
ザゲの真下には真也がいた。
「待てコラァァァ!!」
真也は森林を走って追いかけていたのだ。
これは魔法ではなく単純な脚力での走り。
「バカな!?なんて速さだ!!速度上昇の魔法か!?」
そしてフッとザゲの視界から真也が消える。
「!?」
「魔法?違う違う。ただのランニングだよ。・・だから言ったろ?レベル差があるって。」
真也はザゲより高い位置にジャンプしていた。
そしてザゲの背後で攻撃の構えをとる。
「これが・・・」
「や、やめ—————」
「レベル275の力だよ!!」
バゴォォォォォォォンッ!!!!
真也の強烈な一撃がザゲに炸裂。
ザゲは凄まじい勢いで真っ逆さまに落ち、鈍い音を響かせて地面に叩きつけられた。
ザゲの体は肉片と化し、落ちた衝撃により地面に大きな凹みができた。
「よーし、撃退完了っと。」
さて・・どうするか。
リビアたちが逃げてまだ20分程度。
拠点へは1時間程かかる・・・教官たちが駆け付けるまで大分時間かかるか。
「ま、とりあえず俺も戻るか。」
真也はリビアたちの後に拠点へ着くように調整して戻ることにした。
=== アスファ森林・入口キャンプ ===
生徒たちはぞくぞくと拠点へ戻ってきていた。
そこへリビアたちが帰還。
「どうしたお前たち!!」
アリバ教官が慌てて近寄る。
「教官!!シンヤを・・シンヤを助けて下さい!!」
パイロが泣きながらアリバ教官の袖を掴んで懇願する。
「何があった!?」
周囲がザワザワし出す。
「ご、護衛団の1人が現れて・・シンヤが・・足止めするって残って・・」
「な、なんだと・・!!」
「このままだとシンヤが死んじゃう・・」
「直ぐ向かう!!ベネズ教官!ウィシュマートの容態を見てくれ!!」
「わかりました。」
「ロイズ教官!メルメルト教官!バクサス教官!直ちに現場へ急行するぞ!!」
「「「了解!!」」」
アリバ教官たちは急いで現場へ向かった。
依然拠点内はザワザワしていた。
「護衛団が・・?」
「マジかよ・・」
「ここにいたらヤバくないか・・?」
周囲は不安と恐怖に包まれていた。
そこへ、
「はーい、みんな落ち着いて♪教官たちが出張ったんだ。僕たちはここで大人しく待機すること。不安な気持ちになるのはわかるけど、一旦みんな落ち着こう♪」
ウィルティンが全員を落ち着かせようと声をかける。
「護衛団・・・」
「ありゃ?ちょっとエルザ?まさか行こうなんて思ってないよね?」
「護衛団は私の仇の1人。行くわ。」
「ちょちょちょちょ!!待ちなって!君が行ってもどうにもならないでしょ。」
「今の私なら奴らを殺せる!!」
「ダメ・・エル・・。」
「リビア!!大丈夫!?怪我は!?」
「私は大丈夫・・。でも、行ってはダメ。アイツ・・護衛団は今の私たちではどうにでもならない。アイツに睨まれただけで体が動けなくなったの・・。それだけの実力差があったわ。」
「リビア・・」
「エルザ、リビアの言う通りだよ。ゼルでさえあの様子だ。ここは教官たちに任せよう。」
「くっ・・・」
=== アスファ森林・東部 ===
アリバ教官たちがリビアたちに聞いた現場へ急行していた。
そこへ、
「んっ!?」
真也が歩いてこちらへ向かっているのを発見した。
「アズモンド!!」
「アリバ教官。」
「お前怪我は!?大丈夫なのか!?」
「私たちは護衛団が現れ、君が足止めをするために残ったと聞いて駆けつけたのだが。」
「あ、ああ!その護衛団なら急に居なくなってしまいました・・急用とかで・・ダッシュで・・・バッと・・ハハハ。」
真也は必死に誤魔化そうとする。
「・・・・そうか、何も無かったのなら良いんだ。」
あれ?誤魔化せてる?
「アリバ教官、この子は護衛団という脅威の前にあまりの恐怖によって錯乱状態に陥っていると見受けられます。」
違うけどね?変な捉え方してる。
「だけどもう大丈夫だ。みんなが心配している。さぁ戻ろう。」
「あ、はい。」
こうして真也は教官たちの勘違いによって上手く誤魔化すことができ、拠点へ帰還した。