第10話「覚悟」
=== 宿舎 ===
真也たちは体力測定・魔法適正の1日が終わって宿舎に帰ってきた。
「腹減った~。飯まであとどのくらい?」
「あと1時間だよ。」
「くそー、なんで飯の時間って固定なんだよー!好きな時に食いてぇよ!」
「ゼル君!ここは士官学校!軍に配属されるまでの教育学校なのだ!!それゆえ学生であれ規律を重視する学校であるから仕方のないことだと僕は思うよ!!」
「トラ・・うるさい。」
「ライカ君もライカ君だ!!今日の体力測定はなんだ!!まるっきりやる気無かったではないか!!」
「だって・・・面倒くさいし。」
「君はもう少し兵士である認識を持った方がいいぞ!!」
「兵士・・・面倒くさい・・・運動・・・面倒くさい・・。」
「ではライカ君は何がしたいんだ?」
「静かに・・本を読むこと・・・かな。」
ライカは俺と似てる部分あるな・・。
「であればなおさらではないか!一日でも早く魔物の脅威を遠ざけなければ!!よーし!頑張るぞぉぉ!!」
「トラ・・・本当うるさい。」
1時間が経ち、真也たちは食堂へと向かう。
すると食堂の一角に大勢の人が集まっていた。
「なんだー?」
「あれは・・。」
人だかりの中心にいたのは・・・エルザ。
人類史上初の7属性使いが現れたという話は既に学校全域に広がっており、それがどんな奴なのか興味本位で見に来た・・・ってとこか。
そりゃ興味湧くわな・・普通。
「ちょっと・・・そんなジロジロ見てるとご飯が不味くなるのだけど。」
「あんたがエレメントマスターか?」
「・・エレメントマスター?」
「あれ知らないのか?もうあんたエレメントマスターって通り名がついてるぜ?人類史上初の7属性を扱う者。人類を救う希望ってな。結構騒がれてるぜ?」
「・・・・・。」
「どんな奴だって見に来たらそれが女だったなんて。」
「たしかに。」
「女で何が悪いの?」
エルザは男に鋭い目つきで睨む。
「あなたが言う人類史上初が男でなくて申し訳ないわね。ただ、男が優位に立っている時代なんてとっくに終わっているわ。私には自分に大した才能が無いから僻んでいるようにしかみえないけど?正直悔しいんでしょ?悔しいならもっと鍛錬積めば?第一、あなたたち男は徴兵制度で強制的にここにいるけど私は違う。私は自ら志願してここへ来てるの。そもそもあなたたちとは覚悟が違う。あなたたちはここでのんびり過ごしていなさい。もし兵科へ進もうと思っているのならやめときなさい。僻みや妬みばかりしているあなたたちは結局戦場へ行っても役には立たない。せいぜい兵士を支援する技術科へ進むことをお勧めするわ。」
すっげー毒舌。
「て、てめえッ!!」
「まーまーまー♪落ち着いて落ち着いて♪」
エルザと男たちの間に割り込む男。
「ここは飯を食べる場だよ?争いをする所じゃない。それに・・女の子を相手にこんな大勢で寄ってたかるものじゃないぞ~♪」
「ちっ・・ウィルティン。」
「ほーら、散った散った~。」
その男は群がった群衆をあっという間に解散させた。
顔も爽やかで腕もよさそうだな・・。
「ごめんね~。騒がしちゃってさ。」
「・・・別に礼なんて言わないわよ。」
「ふふ・・んじゃあね~♪」
爽やかな男は食堂から出ていく。
「エルザ大丈夫?」
「全然大丈夫よ。心配いらないわ。」
「ほんと男ってがさつだしデリカシー無いわよね。」
この学校にはエルザと同じく女性でありながら志願して入学している生徒はいる。
数は男子に比べたら圧倒的に少ないが、エルザの言う通り余程の覚悟が無い限り士官学校へは入らないだろう。
「うひゃ~、エルザって怖えな。」
「うん・・迫力あったね。」
「・・とりあえず俺らも飯食おうぜ?」
同室5人で席を囲って飯を食べる。
「覚悟か・・・。」
「どうしたのゼル?」
「いや、エルザの言う通りもっと覚悟持ってやらないとダメだなって思ったわ。俺ら島育ちじゃん?同年代の奴なんて両手で数えきれるほどしかいなかった。でもここには沢山いる。それだけで結構ワクワクして、少し浮ついた気持ちになってたかもってな。」
「ゼル君・・。」
「でも!今の世界の状況がヤバいってことは俺にだって分かってる。だから少しでも早く力をつけたい。そして魔物をぶっ潰して英雄になるって夢は変わらねえ!7属性がなんだ!エレメントマスターがなんだってんだ!!俺はそれより上に行ってやるぜ!!」
「ふっ・・そうだな。」
「僕たちがいつか世界を救う兵士になろう!!一人で厳しいのなら皆で力を合わせて頑張ろうじゃないか!!」
「おう!!絶対やってやろうぜ!!」
「「うおおおおおッ!!!」」
「うるせぇぇぇボケッ!!!」
その後食堂のおばちゃんに思いっきり叱られたのだった。
—————そして、
あっという間に月日が流れた。
士官学校へ入学して3年。
俺らは進路が分かれる学年へと進級した。